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宵闇の騎士  作者:
第2部
29/59

28.封印の解けた後で

 何とも言えない顔をして、わが姫は私を見つめました。


「‥‥でも、逃げたのはわたしだもの」


「‥‥そうかもしれません。けれど、ほかに方法はあったのではないかと、思うのです」


 多分、私は我慢がならなかっただけですね。わが姫の可愛らしいわがままにかこつけて、己の望みを果たしたまで。それが王族に生まれた宿命だとても、わが姫が心をすり減らすのを、ただ私が見ていたくなかったというそれだけです。


 そのために、私はわが姫以外の全てを切り捨てた。


「あぁ、そうです、わが姫」


 姫の可愛らしい願いを、全土に影響を及ぼす方法で叶えたのが私です。だから、


「宵闇のエンの名は忌み名になりました」


「‥‥忌み名?」


「大罪人だそうですからね。

 だから私は、マールと、仮名のままで呼ばれています」


 口に出すこともならない名と、なったのですよ。


 そう告げると、わが姫はまた哀しそうになさいました。


 おかしいな、悲しませたくなくて生きているのに、昔から、うまくいきませんね。それでも、私の苦しみの一端を知って、わが姫が悲哀を覚えるということが、昏い喜びであるのも確か。あぁ、私は正しく罪人でしょうとも。


*******************************************


「‥‥さて。

 これから、どうされますか?」


 わが姫が立ち上がるのに手を貸しながら、ついでのように尋ねました。


「これから?‥‥どうすればいい、のかしら‥‥」


 それは、寝て起きたら自分は死んだことになっているともなれば、途方に暮れるのも当然でしょうね。


「‥‥ひとつには、このまま市井に紛れていただく、とか。あるいは王国復興を目指すのも一興でしょう」


「‥‥今更復興も何もないでしょう。折角あなたが逃がしてくれたのに」


 けれど責任感の強い姫のことですから、まったく考えなかったわけではないでしょう。逃げてしまった罪悪感など、貴女が感じる必要など皆無であるのに。


「あるいは、そうですね。世間を相手取って、お芝居でも致しましょうか」


 だからあえて、私はごまかしを推します。


 誰より大切なわが姫ですから、できれば私の目の届くところにいていただきたいし、可能であればそこで幸せになっていただきたいのです。

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