28.封印の解けた後で
何とも言えない顔をして、わが姫は私を見つめました。
「‥‥でも、逃げたのはわたしだもの」
「‥‥そうかもしれません。けれど、ほかに方法はあったのではないかと、思うのです」
多分、私は我慢がならなかっただけですね。わが姫の可愛らしいわがままにかこつけて、己の望みを果たしたまで。それが王族に生まれた宿命だとても、わが姫が心をすり減らすのを、ただ私が見ていたくなかったというそれだけです。
そのために、私はわが姫以外の全てを切り捨てた。
「あぁ、そうです、わが姫」
姫の可愛らしい願いを、全土に影響を及ぼす方法で叶えたのが私です。だから、
「宵闇のエンの名は忌み名になりました」
「‥‥忌み名?」
「大罪人だそうですからね。
だから私は、マールと、仮名のままで呼ばれています」
口に出すこともならない名と、なったのですよ。
そう告げると、わが姫はまた哀しそうになさいました。
おかしいな、悲しませたくなくて生きているのに、昔から、うまくいきませんね。それでも、私の苦しみの一端を知って、わが姫が悲哀を覚えるということが、昏い喜びであるのも確か。あぁ、私は正しく罪人でしょうとも。
*******************************************
「‥‥さて。
これから、どうされますか?」
わが姫が立ち上がるのに手を貸しながら、ついでのように尋ねました。
「これから?‥‥どうすればいい、のかしら‥‥」
それは、寝て起きたら自分は死んだことになっているともなれば、途方に暮れるのも当然でしょうね。
「‥‥ひとつには、このまま市井に紛れていただく、とか。あるいは王国復興を目指すのも一興でしょう」
「‥‥今更復興も何もないでしょう。折角あなたが逃がしてくれたのに」
けれど責任感の強い姫のことですから、まったく考えなかったわけではないでしょう。逃げてしまった罪悪感など、貴女が感じる必要など皆無であるのに。
「あるいは、そうですね。世間を相手取って、お芝居でも致しましょうか」
だからあえて、私はごまかしを推します。
誰より大切なわが姫ですから、できれば私の目の届くところにいていただきたいし、可能であればそこで幸せになっていただきたいのです。




