27.二人だけの叙勲式
「足元にお気をつけて」
わが姫の手を引きながら、屋上への階段を登りました。
数百年ぶりに立つ舞台。あれはよく晴れた午後でしたが、今もよく晴れています。月はなく、いっぱいの星空。宵闇の名にふさわしい。今の私にその二つ名は似合いませんが。
「‥‥何百年も経ったなんて信じられない‥‥」
私の姿が変わったくらいのことですからね、わが姫からすると。この塔はかつてのままですし。数百年程度では、星の位置も変わりません。この塔に迫るような高さの建物は、現在の人間には建てる技術はありませんし、ここから見る景色は、驚くほど変化していませんでした。
数百年前。私はわが姫から、この塔の上で、宵闇の二つ名とともにその傍に侍ることを許されまし
た。
数百年後。私はわが姫から、この塔の上で、再びの栄誉を賜ります。
「エン。エン(マール)・クルス」
「――はい」
凛と背筋を伸ばして立つわが至高の主。その口からわが名がこぼれる奇跡。むやみに感謝したくなりました。神など信じていませんが、再び出会えた幸福に。
「あなたを、わたし――アマネセル・アンディーノの騎士として認めます」
「――はい、わが主‥‥わが姫」
この宵闇に、刻みます。
「私、エン(マール)・クルスは貴女に生涯仕えます」
かつての一生。そしてこの一生を、貴女に捧げます。
*****************************************
それからしばらく言葉もなく、2人で夜空を見ておりました。
「‥‥流石に、告げないのは公平じゃありませんよね‥‥」
隣で姫が首を傾げています。愛らしい。
並んで座っておりますが、当然わが姫のお腰の下には私のハンカチーフが敷かれていますよ、この冷たい石造りの床に直接座らせるはずがないではありませんか。私は直に腰を下ろしますが。
「‥‥かつての私は、御身を隠しました。そして知られることのないよう封印しました。
4つの塔に、4つの封印。姫自身、王国の名、国王の名、そして、姫の名」
だから、宵闇のエンが一の王国を滅ぼしたというのは、あながち間違いではないのですよね、おかげで忌み名扱いですが。
「‥‥私も姫の名を、思い出せずにいたのです」
「そうなの?」
ひとつ頷きます。
「貴女のことを、誰も覚えておりません。私が貴女を殺したようなものです――陛下も」
全てを真っ白に消してしまったことが、正しい行いだとは思いません。
私は正しく罪人です。




