第9話:教授と妖精授粉法①
「アリーフェ教授!」
「教授! お戻りですか!」
ライゼルさんとハイコーさんがそろって声を上げる。
相性診断の話題で盛り上がっている間にエルフのおじいさんが静かに佇んでいた。いつの間に。
若々しいけれど長く伸ばした白いひげに貫禄がある。
一気に妖精たちが集まって舞い踊る。にわかに周りの空気がきらめいてまぶしい。
アリーフェ教授はにこやかに二人へ言葉を返す。
「ああ、今戻った。まったく王宮は肩が凝るわい。
して、そちらが例のM級冒険者殿かの?」
「ええ、そうです。植物特化型M級冒険者のダイチ君とその護衛のテイマー、チルル君です」
ライゼルさんが僕らを紹介してくれる。
僕らはアリーフェ教授に向かってお辞儀する。
……教授に会うのって初めてだ。
僕は緊張しながら教授の顔を見つめるが、教授は優しくにこりと笑ってくれた。
「これはこれは……。史上最年少とは聞いておったが実際に会ってみるとまた随分とお若いの。護衛のお嬢さんも同じくらいの年頃に見受けられる。素晴らしい才能じゃ。この国の未来も明るいというもの。
……わしはアリーフェという。この妖精学研究室の室長を務めておる。
この度ははるばる王立学院へようこそ。
出迎えに間に合わなんで申し訳ない。急遽王宮から呼び出しが入ってしまい席を外さざるを得なんだ」
アリーフェ教授が握手しながら不在を詫びてくれる。
「いえ、こちらこそご招待いただいてありがとうございました。
ペガサスにも会えましたし、妖精たちもとてもきれいで……」
「ほぉ、そうかそうか。楽しめておりますようでなによりじゃ。
ほんにブロシア豆の件は我が研究室の頭痛の種でしてな。
早期に解決していただけて大変助かりました。改めて感謝申し上げる」
「いえそんな! 大したことじゃありませんから!」
「……そのように言っていただけると、この老骨としてもありがたい限りですな。
ところで、今は何をしておったのかの?」
アリーフェ教授がライゼルさんとハイコーさんへ視線を向ける。
「今、ハイコーの妖精はちみつを試食してもらったところです」
「お二人からは面白い意見も聞けたところっす。後で教授にも共有させてもらいます」
「ほぉ、そうか。それは楽しみじゃ」
「それで、今からちょうど野良妖精との相性診断に行こうとしてたとこなんすけど……」
「なんじゃと?」
和やかに会話していたアリーフェ教授の声が急にとがった。ピリピリと空気が緊張する。
ハイコーさんがびくりと肩をふるわせる。
「は、はい。お二人はかなり妖精適性が高いと見受けられますんで、せっかくなら相性診断をと……」
「……確かに適性は高いようじゃな」
教授が僕らをちらりと一瞥する。
けれど表情は険しいままだ。
「しかしだからといって素人を野良妖精と引き合わせるのは危険すぎる。使役妖精とは訳が違う。
見た目の可憐さに釣られて一体何件の死亡事故が起きていると思っておるんじゃ?
ハイコー、そなた考えが浅はかにもほどがあるぞ!」
「も、申し訳ありません!」
ハイコーさんがペコーッと勢いよく頭を下げる。
僕らは何も言えなくて成り行きをハラハラと見守る。
……妖精がそんなに危険だとは知らなかった。
僕はごくりと唾を飲む。
「ライゼル、そなたがついていながら情けないぞ。まさかそなたまで許可を出したのか?」
教授が厳しい目を今度はライゼルさんへ向ける。
けれどライゼルさんは教授に睨まれても怯むことなく堂々と返答する。
「ええ。この二人なら問題ないかと。
それに、お言葉ですが教授。教授は今この二人を素人とおっしゃいましたが彼らはただの一般人ではありません。
M級冒険者とその護衛を務める優秀なテイマーです。
チルル君の方は月の精霊を含む三属性です。妖精使いである我々が立ち会った上で野良妖精と引き合わせれば大きな危険はないと判断しました」
「ふむ……。月の精霊か。確かにそれならば危険はかなり低いじゃろう。
では、肝心のM級冒険者殿は?」
「……ダイチ君に関しては正確な加護はわかっていません。本人も知らないそうです。
しかし、まず間違いなく希少な加護を持っていると私は確信しています。
蝶型妖精の中でも最も繊細な系統の妖精が驚くほど懐きましたし、あの銀翼馬魔が2頭とも気を許していました」
「……銀翼馬魔が?」
教授の表情が少し動いた。
しばらく教授は考え込んだ後、ゆるく首を左右に振った。
「……仮に加護が十分だとしても、M級冒険者殿には心構えや知識が不足している。
彼はあくまで植物のみの特化型なのだろう?」
教授は、テイマーのチルルなら魔獣に関する知識やテイムの心得があるから類似性のある野良妖精との相性診断を検討できるけど、僕にはその資格がないときっぱり言う。
けれど、ライゼルさんは負けじと言い募る。
「その辺りはこれから説明するつもりでしたが、ダイチ君にも最低限の心構えはありますよ。
チルル君と竜系魔獣に同乗している姿を見ましたが非常に安定していました。銀翼馬魔や妖精とのふれあい方も自然にできていて問題ありません。
そして、知識に関しては、彼は我々を超えうるものを持っていますよ。単なる丸暗記の知識ではなく、観察した対象と自分の知識を結びつける力がすごいのです。彼の知識は単に植物の枠に留まりません。
ダイチ君は妖精学そのものへも高い適性を持っていると考えています。ブロシア豆の件で私はそれを痛感しています」
ライゼルさんはちょっと意固地になっているようにも見える。
……そこまでして妖精と相性診断しなくてもいいんだけどな。
僕は口をはさみたいけどはさめなくて、やきもきしながら成り行きを見守る。
「ほう、そうかね?」
これまで固い表情だった教授が面白そうににやりと笑った。教授が意味ありげに僕を見つめる。
な、なんだろう。なんか嫌な予感……。
長編版はこちら(タイトル同じです)
https://ncode.syosetu.com/n3580ln/
**************
お読みいただきありがとうございました。
感想/レビュー/ブックマークなど励みになります。
お待ちしております。




