第8話:妖精学研究室②
「あ、あ、あ、ありがとう~!!! 本当にありがとうございましたぁ!!」
ハイコーさんは僕の手とって握ると上下にぶんぶん振り回す。目が涙目になっている。
「ほんと~に解決してくださってありがとうございましたぁ!
全然原因がわかんなくて困り果ててたんですよぉ!
こっちは妖精学研究室だっていうのに、魔法気象学研究室の奴らがうちの管轄じゃないとか人手不足だとか無茶ぶりしてきて~!!!
でも食欲不振なのは銀翼馬魔っすよ!?
こっちの研究対象は使役妖精! 魔獣と妖精じゃあ全然違うし!
農業の研究してるだろとかいうけど、それなら魔法気象学もそうじゃん!?って感じだし。
魔獣学の連中も豆のことはわからんって丸投げだし! 魔獣のエサのことなんだからもっと真剣になれよ! ていうかこっちも知らないよ! 新種の豆なんだし!」
僕はあまりの勢いに目を白黒させる。
けど、ハイコーさんは夢中でしゃべり続けている。
「そもそも僕のやってる研究は蜂型妖精によるはちみつの薬効向上化であって、豆の栽培なんか専門外だし!
でも国からも早期解決しろって圧力かけられるし! 教授にも調査を任されちゃうし!
毎日毎日寝不足なのに手がかりなしでもう本当に泣きそうで!!」
泣きそうと言いながら本当にハイコーさんはおいおい泣き始めた。
だ、大丈夫かな。
「藁にもすがる思いで噂の最年少M級冒険者に頼ったら、一瞬で解決策を提示してくれるなんて、まるで神様じゃないですか!?
最初あまりにも都合がよすぎてライゼル先輩が狂ったか、夢でも見てるかと思いましたよ!」
「誰が狂人だ、馬鹿者。そして客人が驚いているだろう。少し落ち着け」
ライゼルさんが杖でぽかっとハイコーさんの頭を叩く。
ハイコーさんは頭をさすって僕から少し離れる。
僕はほっとして息を吐いた。
「イテテ、なにもなぐらなくてもいいじゃないですかぁ。
いやでも、本当にありがとうございました」
深々とハイコーさんが頭を下げる。
僕はかえって恐縮する。
「いえ、そんな……。僕はただ気が付いたことを言っただけですから」
「いやいや、王立学院の研究者がまったくわからなかった事実に一目で気が付いたのだ。君はもっと誇るべきだ」
「そうっすよぉ! あとせっかく来てくれたんですから、自分の研究にもぜひともご意見を」
「い、意見ですか。ちょっとそんな専門の研究者の方に言えるようなことがあるかはわからないですけど……。
でもあの、ハイコーさんの研究は興味あります。養蜂を妖精たちでやってるってことですよね?」
「おっ、その通りですよぉ! さすがっすね。
せっかくだから妖精はちみつの試食会しちゃいますか。
そっちのウサギのお嬢さんもどうです?
はちみつ好きっすか?」
「好きです! あと蜂型妖精の子たちにも会いたいです!」
「もちろんですよぉ! ていうか二人とも妖精適性高いですね。
いっそ妖精学研究室に入りません?」
「おっ、いいぞハイコー。もっとやれ。ぜひとも二人を口説き落とすんだ」
「いやぁ、それはちょっと……」
そんな話をしながら僕らはハイコーさんに着いて研究の見学に向かった。
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「妖精はちみつめちゃくちゃおいしかったです! ありがとうございました!
甘味が華やかで香り高くて……!」
口の中の甘い余韻を感じながら僕はハイコーさんへお礼を言った。
今まで食べた中で間違いなく一番おいしいはちみつだった。心なしかのどの調子もよくなった気がする。
チルルも上機嫌だ。
「ほんとに! なにより、ポーションや食用魔石でもないのに魔力が回復するなんてすごいわ!」
ハイコーさんはにこにこだ。
「喜んでもらえてうれしいですよぉ。それにお二人から出る意見も面白かったです。
ダイチさんの蜜源植物に樹木を選ぶってのは盲点でしたね。野良妖精は草花の蜜を好むんで樹木は対象外にしてたんすよねぇ。
ただ、蜜源のためだけに林を作るのはかなり予算的にきついですけど……」
「それなら、蜜源と果樹園と兼ねるのはどうですか?
ミカン類ならはちみつに柑橘の香りも移るし良い蜜源になると思いますよ」
「ああ、そうか! 果樹園!
そうっすよね、何も蜜源のためだけに木を用意しなくてもいいのか。それなら農学系の研究室と共同研究という形にして……」
ハイコーさんが試算を始める。
僕は他にも役立てそうなことを言ってみる。
「あとは、クリとかカエデ類とかも蜜源になりますよ。カエデ類は種類を選べばメープルシロップが取れますし、はちみつと糖度の比較をしたりするのに使えませんか?」
「なるほどぉ! いや、さすがM級冒険者っすねぇ!」
ハイコーさんはキラキラと目を輝かせている。
たくさん褒められて少し面映ゆい。
「チルルさんのはちみつをブレンドするアイデアや食品を漬け込む発想も面白いですね。
妖精はちみつは純度の高さが薬効の高さにつながるんですけど、複数の薬効を持たせるのであればあえて混ぜたり加工したりするのも一考の価値がありますね」
「冒険者の立場からすると、薬効が多少低くても魔力回復効果のある甘味はすごくありがたいですよ。
そのままでもおいしいですけど、例えば妖精はちみつ漬けナッツとか、保存も効くし手軽につまめるし、上級冒険者なら高くても買うんじゃないですか?」
「いやぁ、そういう現場視点の意見はありがたいっす。研究費を確保するにはそういう実用性が大事になりますから」
チルルの意見にハイコーさんがうんうん頷く。
「研究者はどうしても研究調査ばかりに傾いてしまうからな。投資を受けるためには商業ギルドなど民間との連携はかかせないと頭ではわかっているのだが、ついな」
「うへぇ、商人への売り込みですかぁ。苦手だなぁ。国費の申請だけでも大変なのに」
「いつまでも逃げ回ってはいられんぞ。研究室に引きこもってばかりいて研究費が底をついて困るのは自分だからな」
「わかってますよぉ。ライゼル先輩は厳しいなぁ」
「この際だ。もっと二人から商品化アイデアを聞き取ったらどうだ? そして商業ギルドへの企画書を作成しろ」
「い、いやいや! ダメっすよぉライゼル先輩。お二人はこの研究室に見学に来てくれてんすから、自分らの研究に協力させるようなことばかりやっちゃあ……。
そうだ、お二人とも明らかに妖精適性が高いっすから野良妖精との相性診断をやるのはどうっすか?」
「む、誤魔化された気もするが確かに一理あるな。
……相性診断に興味はあるかね、二人とも?」
「あります!」
「やってみたいです!」
「そうか、なら詳しい説明を……」
ライゼルさんが言い掛けたところで、ふいに穏やかな声が響いた。
「やあ、盛り上がっているようじゃの」
長編版はこちら(タイトル同じです)
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