第6話:王立学院への招待
「ダイチ君! やはりここにいたか! その節は大変! 大変世話になったな! 改めて礼を言う!!」
いきなりバンッと机を叩かれて僕らは飛び上がった。
マグカップの紅茶が衝撃ではねる。
ギルドの食堂でチルルとのんびりおやつタイムをしていたところだったのだ。
チルルが黒い毛並みを逆立てて音の主を見る。
「いきなり何!? というか誰!?」
「え!? あ! ライゼルさん!?」
「ダイチの知り合いなの? このエルフの人」
チルルが怪訝そうな目で僕を見る。
無理もない。今のライゼルさんはテンションが高すぎて完全に変な人だ。
僕らが驚いているのに全然気に留めずに僕へのお礼をベラベラと話し続けている。
食堂の他の利用者も何事かとこっちを見ている。
とりあえず、僕は少し落ち着いてほしくてライゼルさんに声をかけた。
「あ、あのう、ライゼルさん。とりあえず人目があるのでもう少し声を落としてもらえるとありがたいんですけど……」
「おお、すまん! 喜びのあまりつい勢いに余った。
また秘話の魔法を使わせてもらおう。
«防音室»、«目隠霧»」
僕が答える前にまた魔法の霧が周りを囲んで音が遠退いていく。
チルルが弾けるように立ち上がると即座に警戒態勢をとった。
「ちょっと! どこの誰だか知らないけれど、同意もなしに魔法を展開するのは失礼よ!
冒険者にとっては敵対行為に等しいわ!
そもそもこっちは楽しくお茶してたところなのに急になんなの!?」
チルルの長い耳がピンピンとせわしなく動く。かなりいら立っているようだ。
チルルの怒りに浮き足立っていたライゼルさんはようやく少し顔色を変えた。
「む、そうなのか。冒険者の流儀は知らなんだ。邪魔をしてしまったのも大変申し訳ない。
のめり込むと周囲が見えなくなるのは私の悪癖だ。
教授からも気を付けるよう再三言われているのだが、また出てしまった。誠にすまない」
ライゼルさんはパシッと手のひらで自分のほおを打つ。どうやら冷静になってくれたようで僕はほっとする。
チルルはライゼルさんの言葉に怪訝そうに返す。
「……教授? あなたどこかの学校の人なの?」
「ああ、重ね重ね失礼。M級冒険者殿の連れ合いに名乗りもせずとは完全に我を忘れていたな。
改めて、私はライゼル・サンダーボルト。
王立学院の研究者だ。怪しいものではない」
ライゼルさんは杖を机に置くと両手を開いて見せて敵意がないことを示す。
一方のチルルはライゼルさんの回答に驚いて飛び上がった。
「王立学院って、あの!? ……なんでそんな人とダイチは知り合いなの!?」
チルルが僕をバッと振り返る。
僕はなんと説明しようか迷う。
……この前の相談のことは内緒にしろって言われたんだよね。
困った僕はライゼルさんに判断を求めた。
「えーっと、ライゼルさん。チルルに説明しても大丈夫ですか?」
「ああ、構わんよ。彼女は君の妻だろう?
見たところ腕のたつ冒険者でもある。それならば職務上、守秘義務にも慣れているだろう。
ダイチ君もこの場に居合わせた奥方にまで内緒にするのは面倒だろう」
「つ、妻じゃありません!!」
「おや、失敬。まだ恋人だったか。
まあどちらにせよ、M級冒険者が信頼を置く者ならば今回は大丈夫だ。私の裁量で情報開示できる」
「あ、あの、チルルは僕の下宿先の娘さんで……」
「何? では赤の他人なのか?
それにしては仲睦まじかったが……?」
「いやその、仲はいいんですけど……」
ライゼルさんは淡々としているが僕はしどろもどろになる。恥ずかしくて顔が熱い。
場の空気に耐えられなくなったチルルが叫んだ。
「もういいわ! わたしはダイチの護衛で冒険者仲間です! ちゃんとギルドの仲介もあります!
それでいいでしょう!?」
「なるほど、M級冒険者の専属護衛か。それならば資格は十分だ。問題ない。
私から説明しよう」
ライゼルさんはペガサスのエサであるブロシア豆がうまく育たず困っていた話をチルルに説明し始める。
僕は話題が変わったことに息を吐いて、手でパタパタ顔をあおいだ。
……すごく汗かいた。
「……と、いうわけなのだ。
ダイチ君のおかげで国家の危機は脱した。
ブロシア豆の栽培は軌道にのり、銀翼馬魔は2頭とも非常に健康だ。
ほら、この通り」
ライゼルさんが懐から紙をペラリと出す。
見事な銀翼を広げた美しい馬が2頭、仲良く並んで写っている。
チルルは興味深そうに写真をのぞき込む。
「へぇ、これがナトリ国にしかいない銀翼馬魔なのね……。こんな精巧な念写は初めて見るけど、とてもきれいね。
いつかテイムしてみたいわ」
「ハハハ! 君はテイマーなのか! 希少な国獣をテイムしたいとは豪気だな!」
「ところでライゼルさん。
今日はわざわざそれを伝えるために来てくれたんですか?」
僕は不思議に思って尋ねる。
「おお、そうだった。本題に入ろう。
ダイチ君、王立学院へ見学にこないか?
M級冒険者なら最新の研究に興味があるだろう?」
「え!? ダイチ、王立学院に行くの!
いいな~!」
僕がなにか答える前にチルルが反応した。
とてもうらやましがっている。
そんなチルルに向かってライゼルさんは片眉をつりあげる。
「何を言ってるんだ。君も一緒に来たまえ。護衛なのだから当然だろう? なに、許可証なら問題ないぞ」
ライゼルさんがチャラリとペンダントを取り出す。複数の飾りが見える。
揺れている金属の部分に紋章のようなものが刻まれている。
「え!? いいんですか……!? やったぁ!!
すごい、すごい! あの王立学院にいけるんだ!」
チルルはぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
僕はそれをほほえましく思いながら気になったことをライゼルさんに尋ねる。
「最新の研究ってどんなものですか?」
「いろいろあるが、私の専攻は妖精学でね。今は妖精による農業効率化の研究を担当しているんだ。
使役妖精による授粉や蜂型妖精によるはちみつ作りなどがメインだな」
「妖精! それに授粉ですか。
……すごく気になります」
妖精ってどんな感じだろう。すごくファンタジーって感じ!
花粉の媒介に養蜂をしているならチョウやハチみたいな昆虫に近い生き物だろうか。
僕はにわかにワクワクしてくる。
「うむ、決まりだな。見学許可をもぎ取った甲斐があるというものだ。
ではさっそく向かうとしよう!」
こうして僕らは王立学院へ見学にいくこととなったのだった。
長編版はこちら(タイトル同じです)
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