第21話:その唯一の希望を掴め!2
緑髪の男の分析を聞いた全員が武器を構え、警戒しながら瓦礫へ視線を向けた。
だが、その中にいる者は、そう簡単に降参するつもりはないらしい。
瓦礫の中に身を潜めたまま、一言も発しなかった。
それを見た緑髪の男は、躊躇うことなく全員へ攻撃を命じた。
「氷霜の神よ! 我に力を与えたまえ!」
「土神よ! 我に力を与えたまえ!」
「争乱の神よ! 我に力を与えたまえ!」
次々と放たれた攻撃が、瓦礫へと叩き込まれていく。
任務は無事に完了した――。
金髪の女がそう思った、その時だった。
ふと、淡い腐った草のような臭いが鼻をついた。
そして次の瞬間、何かが自分の首筋を滑っていく感触を覚えた。
彼女は慌てて首へ手を伸ばした。
すると、そこから血が止めどなく噴き出していた。
何が起きたのか理解できないまま、彼女は自分の血で赤く染まった手を呆然と見つめる。
そして、一秒後。
その身体は力なく床へ倒れ込んだ。
緑髪の男は背後から聞こえてきた物音に気づき、振り返った。
そこには、すでに息絶えた金髪の女が倒れていた。
そして、それ以上に彼を驚愕させたのは――。
三匹の黒いバッタのような怪物が、金髪の女の身体を狂ったように貪り食っていたことだった。
緑髪の男は、その黒いバッタの怪物を目にした瞬間、信じられないといった声を漏らした。
「あり得ない! カスタンが、どうしてここにいるんだ!」
その時、彼の隣にいた男も黒いバッタの怪物が立てる音に気づき、緊張した様子で尋ねた。
「ボス、あの化け物はいったい何なんですか! あれが、あなたの言っていたカスタンなんですか?」
緑髪の男は険しい表情で頷き、隣の男へ説明した。
「あれは『希望の奇跡』の辺境にしか生息しない闇の眷属だ。暗黒神に付き従う邪悪な化け物の一つだ。
ほとんど知性を持たず、本能のままに狩りをする。その中でも、もっとも好む獲物が人間だ。
俺はかつて国境で一度だけ見たことがある。あの時の恐怖は、今でも決して忘れることができない」
緑髪の男が説明を続けていた、その時だった。
カスタンたちは突然、食事をやめた。
そして、一斉に緑髪の男のほうへ視線を向ける。
その視線に背筋が凍るような感覚を覚え、緑髪の男は無意識のうちに、手にしていた短剣をさらに強く握り締めた。
突然、カスタンたちは何かの命令を受け取ったかのように、羽を激しく震わせた。
「パパパパパッ!」
そして、凄まじい速度で緑髪の男へと突っ込んでいく。
緑髪の男は多少驚いたものの、それによって手を止めることはなかった。
彼は手にした短剣を掲げ、後ろにいる仲間たちへ叫んだ。
「恐れるな! 奴らの行動パターンは単純だ。複雑な動きはできない! 側腹部を狙って攻撃すれば、倒すことができる!」
緑髪の男の鼓舞によって、恐怖から戦意を失っていた者たちも再び気力を取り戻した。
そして、それぞれが自らの祝福を詠唱し始める。
それから間もなく、数匹のカスタンはすべて地面へ叩き落とされた。
そして黒い煙となり、空気の中へと消えていった。
闇の眷属の攻撃を生き延びたことに、全員が安堵し始めた、その時だった。
遠くの岩壁から、聞き覚えのない声が響いた。
「まさか、お前たちが俺の可愛い子供たちの口から生き延びるとはな!」
声を聞いた全員が一斉に上を見上げる。
そこには、夕日に顔を隠された黒髪の少年が、彼らを見下ろすように立っていた。
その人物こそ、蕭奕德だった。
――実のところ、奕德はすでに限界を迎えていた。
顔は紙のように真っ青で、身体は軽く押されただけでも倒れてしまいそうなほど弱り切っている。
ましてや、自分へ襲いかかってくる攻撃を避けるなど、到底できる状態ではなかった。
しかし、緑髪の男はすでにカスタンに恐怖を植え付けられていた。
そのため、遠く離れた場所から奕德へ向けて、怒りに満ちた声を張り上げることしかできなかった。
「お前はいったい何者だ! なぜ俺たちの計画を何度も邪魔する!」
奕德は緑髪の男を見つめながら答えた。
「どうやら、お前がこいつらのまとめ役らしいな。教えろ! なぜ、そこまでして彼女を殺そうとするんだ? 争乱の国は、そんなにも彼女の子供を恐れているのか?」
緑髪の男はその言葉を聞くと、笑い声を漏らした。
そして、奕德へ向かって言う。
「どうやら、お前は何も知らないようだな! 争乱の国だけが彼女を殺したがっていると思っているのか? 彼女の父親の行動は、とにかく人から嫌われていた。だからこそ、俺たちは絶対に彼女を無事に祖国へ帰すわけにはいかない」
奕德はその言葉を聞き、思わず驚きの声を漏らした。
自分の耳を疑わずにはいられなかった。
妤玟を暗殺するために送り込まれた者たちは、なんと彼女の祖国である「豊穣の国」から来ていたのだ。
「どうやら、かなり驚いているようだな! なら、俺が教えてやるよ! 彼女の父親は、自分自身の傲慢さと無知によって死んだんだ。
毎日のように王宮で、最後まで戦い抜く、決して降伏しないなどとほざいていた。聞いているだけで、実に滑稽極まりない!
もし彼女の父親が、あの時おとなしく争乱の国の提案を受け入れていれば、豊穣西鎮全体が滅ぼされることもなかった。
すべては彼女の父親の自業自得だ!
唯一残念だったのは、彼女の娘が争乱の国の奇襲によって死ななかったことだな」
その言葉を聞いた奕德は怒りに燃え、緑髪の男へ向かって叫んだ。
「まさか、お前たちがここまで無知だったとはな! 国を守るために戦った英雄を、よくもそんなふうに言えるものだ!」
しかし、その奕德の一言によって、緑髪の男は気づいた。
――今の奕德は、ただ身体を無理やり支えているだけなのだと。
緑髪の男は、途端に陰険な笑みを浮かべた。
そして、奕德へ向かって叫ぶ。
「どうやら今のお前は、虎の皮を被った子羊ってところだな! これ以上、お前と話をするつもりはない。何しろ、死ぬ奴にこれ以上話す必要なんてないからな」
そう言い終えると、彼は短剣を構え、奕德へ向かって突進した。
奕德はその姿を見て、自分が体力を失っているという秘密が見抜かれたことを悟った。
ただ、その場に真っ直ぐ立ったまま、迫り来る攻撃を待つ。
――もう抵抗することすら諦めようとした、その時だった。
突然、一人の声が大きく響き渡った。
「風神よ! 我に力を与えたまえ!」
その声の主は、迅雷のごとき速度で緑髪の男の目の前へと到達した。
一撃。
それだけで、緑髪の男が握っていた短剣を弾き飛ばす。
そして、そのまま緑髪の男の胸を足で踏みつけ、自らの短剣を喉元へ突きつけた。
奕德は現れた人物を見た瞬間、それまで張り詰めていた全身の緊張がようやく解けた。
そして、両足から力が抜け、その場へ膝をついた。
その人物は緑髪の男を見下ろしながら告げる。
「私は風の国の微風遊侠だ。今すぐ抵抗をやめて、大人しく投降することを勧める」
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