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第19話:暗黒の加護の力? 2

 奕德は自分の体にぴったりとくっついてきた妤玟をそっと押しのけると、ゆっくりと説明を始めた。


「僕の加護は、影を巨大な水槽に変える能力だと思ってくれればいいよ。これを使えば、僕は自由に影の中へ入ることができるんだ。そして、水槽の中に入った僕自身は、その中の水と同じような存在になる。だから、影の中を自由に移動できるんだよ。ただし、行きたい場所に影がなければ、見えない壁に阻まれて、それ以上進むことはできないんだ。それに、一度影の中に入ってしまえば、どんなに小さな影であっても、水のように何の苦労もなく入り込むことができるんだよ。


 でも、この加護には欠点もあるんだ。それは、僕のいる影に触れた物体も、同じように加護の中へ入り込んでしまうことなんだ。人間は入ることができないみたいだけど、物体なら実際に僕を傷つけることができるんだよ」


 それを聞いた妤玟は、まるで頭が焼き切れてしまいそうなほど混乱していた。


 水槽だの、影だのと言われても、まったく理解できなかったのだ。


 結局、妤玟はどう反応すればいいのかわからず、気まずそうに笑うことしかできなかった。


 そんな妤玟の表情を見た奕德は、彼女が自分の説明をまったく理解できていないことを察し、仕方なく、もっとわかりやすく説明し直した。


「つまり、どんなに小さな影でも、僕はその中を自由に移動できるってことだよ。ただし、僕のいる影に触れた物体も、その影の中に入り込んでしまうんだ。だから、そういう物体によって、僕が傷つけられることもあるってわけさ」


 奕德の簡潔な説明を聞いた妤玟は、ようやく理解できたといった様子で、はっとした表情を浮かべた。


 そして、奕德に向かって不満そうに言った。


「だったら、最初からそう説明してくれればよかったじゃない! どうしてわざわざ水槽なんかに例えたのよ! おかげで、自分の理解力が足りないのかと思っちゃったじゃない!」


 奕德は困ったように苦笑した。


「まあ、理解してくれたなら、それでいいよ。とにかく、これで僕の加護についてはわかったはずだし、そろそろここからどうやって脱出するか、真剣に考えよう」


 妤玟はうなずくと、奕德に向かって言った。


「敵の居場所を、相手に気づかれずに把握できるのは、君しかいないよ。何しろ、敵は君が加護を使えるなんて、夢にも思っていないはずだからね。これが、私たちに残された唯一の勝機なんだよ」


 奕德もそれに同意するようにうなずいた。


「そのとおりだよ。敵との距離を五メートル以上に保ってさえいれば、僕たちは常に主導権を握ることができる。さあ、早く出発しよう。日が暮れる前に家へ帰らなくちゃいけないからね」


 二人は部屋の扉を開けると、薄暗い廊下を慎重に進み始めた。


 やがて、目の前に左右へと分かれる二つの道が現れた。


 分かれ道を目にした奕德は、すぐさま影の中へと潜り込み、左側の通路を素早く進んでいった。


 すると、そこには小刀を手にした二人の女が、周囲を警戒しながら立っていた。


 その姿を確認した奕德は、すぐに妤玟のもとへと戻った。


 そして、大きく息を吸い込みながら、左側の通路にいた敵の状況を彼女に伝えた。


 妤玟は奕德の報告を聞くと、すぐに口を開いた。


「どうやら、あいつらはもうこの建物の入口を見つけたみたいだね。それなら、ほかに出口がないか探してみる必要がありそうだよ」


 奕德は彼女に答えた。


「もう少しだけ待ってて。今度は右側の様子を確認してくるよ」


 そう言い終えると、奕德は再び影の中へと潜り込んだ。


 二分後、奕德は再び妤玟の前に姿を現し、彼女に告げた。


「右側の通路には誰もいなかったよ。早く行こう!」


 二人は奕德の加護を頼りに、何度も敵の追跡をかわすことに成功した。


 しかし、時間が経つにつれて、奕德は自分たちが逃げられる範囲が次第に狭まっていることに気づいた。


 まるで漁網に捕らえられた小魚のように、二人の逃げ道は刻一刻と失われつつあったのだ。


 わずかな脱出の機会をつかむため、奕德は何度も何度も加護を使い続けた。


 いつの間にか、その顔からは血の気が完全に失われていた。


 壁に両手をついていなければ、立っていることさえままならないほどだった。


 それでも奕德は、何とか体を支えながら、再び立ち上がった。


 まだ見つけていない隠し通路があるかもしれない。そう考えた彼は、最後の力を振り絞って、もう一度加護を使おうとしていた。


 しかし、そのとき、妤玟が後ろからそっと彼の背中を叩き、優しく声をかけた。


「もう十分頑張ったよ。これ以上、無理をする必要なんてないんだから」


 だが、奕德は頑なに首を横に振り、弱々しい声で答えた。


「まだ大丈夫だよ。今度こそ、絶対に逃げ出す方法を見つけてみせるから!」


 妤玟は困ったようにため息をつきながら、彼に告げた。


「もう何度も念入りに探したんでしょう? それに、結果だってもうはっきりしているじゃない。ここには隠された入口なんてないんだよ」


 その言葉を聞いた奕德は、まるで空気の抜けた風船のように、その場に崩れ落ちた。


 そして、悔しさをにじませながら、妤玟に訴えた。


「君が復讐を果たすその日まで、ずっとそばにいるって約束したのに……。それなのに、今の僕は、その約束すら守れそうにないんだ。僕は本当に、こんなところで諦めたくなんかないのに……!」


 妤玟はそんな奕德の頭を優しく撫でながら、穏やかな声で告げた。


「私は諦めるなんて一言も言ってないよ! それに、君は私が眠っている間に、どれだけ頑張ってきたか知ってる? 私は加護こそ使えないけど、お姉ちゃんにだって褒められた『特殊能力』を持っているんだから!」


 奕德は不思議そうに彼女を見つめ、尋ねた。


「特殊能力?」


 妤玟はうなずき、はっきりと答えた。


「そうだよ! だから、君にも協力してほしいんだ」


「でも、今の僕に、まだ何かできることがあるの? 加護だって、あと一回使うのが精いっぱいなんだよ……」


 奕德は不安そうに尋ねた。


 妤玟は自信に満ちた表情で、奕德に告げた。


「もちろん! 君こそ、この作戦で最も重要な役割を担っているんだから!」


「それで、その作戦って一体どうすればいいの?」


 奕德は妤玟に尋ねた。


 すると、妤玟は奕德の耳元に顔を近づけ、そっと自分の作戦を打ち明けた。


「そんなの、あまりにも危険すぎるよ! 本当に成功すると思っているの!?」


 妤玟の作戦を聞き終えた奕德は、信じられないといった様子で声を上げた。


 それに対し、妤玟は笑みを浮かべながら答えた。


「さあね? でも、ほかにもっといい方法があるわけでもないし、それならいっそのこと、思いっきり暴れてやろうじゃない!」


 そう言い放つと、妤玟は拳を高く振り上げ、すぐそばにあった壁に向かって、思い切り拳を叩きつけた。

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