昔話③
2人はこれは運命ではない、自ら願った生き方だと
あの時、ノワールと初めて会った時からヴォルフは体も、魔力も少しずつであるが安定してきた
初めて暖かさを知った
ノワールもヴォルフと出会い、過酷な野良生活から抜け出した
初めてぬくもりを知った
2人はどんな過酷な人生であろうとも、それを乗り越え、そして出会った
過去の、あの頃の記憶は不幸ではない、どんな時でも心を通わせて、気持ちを伝え合って生きてきた
だから周りの言葉など、どうでもよかった
不老不死になる前からも大好きなパートナーと常に離れず、どんな時でも一緒に暮らしていた
不老不死になってからも、変わらず対等な関係で、一生その絆も愛も離れる事もない、強い魂で結ばれている
この生き方こそが自分らしく、そして愛するパートナーと永遠の時を共に過ごせるのだから
これが自ら選んだ道だと
だから、不幸になる運命などはない
2人が王族時代のあの頃は時代も古く、偏見も差別もあった時代
女らしくを押し付けられ、自分の心を、中性的である事を否定されてきた
体も弱い、まともに使えない魔力、不安定で暴走するかもしれないと言われていた
おまけに養子の存在で紅い目の特殊な獣人
本来は長く生きられないはずなのに、20歳まで生きていた
王族はその事を不気味だと、やはり紅い目は異質で穢れると、腫れ物のような扱いをしていた
ヴォルフは戦で命を落とした国王の弟の子であり、母君も幼いヴォルフを残して病で亡くなった
父親は狼獣人のオスにしては華麗な姿で、スノータイプらしい白く美しい毛だった
母親は当時では珍しい自由恋愛で、ヴォルフの父親と出会い番になった
出身も貴族でも王族でもなく、平民暮らしの身寄りのないメスの獣人だった
そんな中で2人は出会い、周りの反対を押し切り番になった
そしてヴォルフが誕生したが、当時の戦で父親は命を落とし、母親は流行病で亡くなった
ヴォルフは不安定な魔力、体の弱さに紅い目の影響で子孫を残せない体質
このような者はいらないと、いつ暴走するかわからない王族を、たとえ魔力を従えたとしてもそばに置きたくなかった
いや、その不安定な魔力で、いつでも城を乗っ取られるのが怖かったのだろう
ただ理由もなしに追放もできない
早く城から追い出したく、失敗する事がわかっていながら、他国の適当な相手との縁談
断られたのを理由に加え、見た目や魔力などを理由に、城からヴォルフとノワールを一緒に他国の遠い森へと追い出そうとしていた
不安定な魔力を暴走させないためにも、ノワールを近くに居させながらと
まとめて厄介者がいなくさせるようにと、そんな計画を密かに立てていた
当時ヴォルフもその事は薄々気づいていた、養子だから、不安定な魔力だから
成長するにつれて、魔力暴走のリスクがなくなっても、この力が恐ろしくて、この城から追い出そうとしているのも、知っていた
2人の追放の噂もあった
自分らしくいられない、あの場所に居たくない
だから逃亡しようと思った、逃げるのではなく新しい未来を、ノワールと一緒に自由の道へと
『僕はノワールとならどこへでも行ける、どんな先が待っていようとも』
王族や使用人はノワールの事も侮辱していた
ハーフ獣人のことを、黒い毛も、ノワールの心を中性的でありたい心までも否定していた
メス獣人で側近、見た目も男のような見た目、女らしい格好もしない野良の獣人、馬鹿にされる日々だった
あの時代は側近はオス獣人が当たり前だった
それにハーフ獣人、力も魔力も弱いとされていた時代
あの頃は自由も少なく、勉学や作法などもあり、そして部屋で過ごす時間が多かった
周りはヴォルフとノワールの事を変わり者同士、普通じゃないと
邪魔者扱いをして、遠ざけていた
でも2人は支え合って生きてきた
大好きな番がそばにいたから、そんな事は気にしなかった
周りの言葉など、どうでもいいと、心を病む事もなかった
いつも身の回りのことはノワールが担当してくれた
他の使用人は近寄りたくないのか、そばにいることはなかった
そのため朝の支度もノワールがしてくれて、勉学の時間もご飯を食べる時も常に一緒だった
普段の健康確認も、青い月の時期も全てノワールが担当してくれた
特に青い月の時期に関しては、ヴォルフは知らない獣人に身を任せたくないため、ノワールに全てを任せていた
ただ魔力測定だけは他の者が担当していたが、その時でもそばにいて、手を繋いであげていた
就寝の準備もノワールがやってくれて、一緒に寝る事も多かった
本来は側近が主と一緒に寝るなど、何があろうともそんな事は出来ないはずだが
まだ子供の頃はヴォルフはノワールと長期間離れると、心の不安や周りからのストレスで魔力が不安定になりやすく、暴走リスクが上がると思われていたため、王族や周りは何も言わなかった
仮に暴走されてもノワールが近くにいるため、全てを受け止めてくれると思っていたのだろう
そのため王族はノワールを追い出す事もなく、そのままヴォルフの近くにいる事だけを認めていた
でもノワールは魔力を抑えるためにいるのではなく、大好きな番のためだからと、ヴォルフのそばにいてあげた
ヴォルフもそのお返しにと色々な事をしてくれた
どんな時でもそばにいて、離れないように
2人は心から愛せる番がいたから、心も体も折れなかった、孤独でも、不思議と寂しさを感じなかった
そばにいて手を繋ぐだけでも嫌な事を忘れられた
あの時の逃亡も大好きなパートナーがいたから、すぐに決断できた
『ヴォルフ様とならどんな所へでも行きます、何があろうともそばにいます』
2人は心も強く、意志が固く、大好きな番のために頑張れる勇気を持っている
挫ける事もない心を、諦めないという強い意志を持っている
あの環境から抜け出せたのも、この強く逞しい心を持っているから
でもメス同士で番になる事も今より当たり前ではなかった時代
不老不死になってからの生活も偏見もあった、中にはメス同士の番を馬鹿にする声もあった
でも2人は気にしなかった、大好きな番がそばにいるから
ヴォルフとノワールはもう王族時代のことを、もう気にしてはいない
200年以上も生きているから、もうあの時の王族はいない
過去は変わらない、変えられない
そんな事を考えるより、今はパートナーの事を考える方が先だと
どんな話をしよう、どんな事をしようなど、楽しい事を共有したいと
たとえ昔のことを思い出して苦しくなっても、支え合い慰め合おうと
悲しい事も、嫌な事でも、楽しい事も全て分かち合おうと、永遠の命なのだから色々な事をする方が幸せだと
今のこの時が、大好きで愛しく、一生そばにいると誓った番とずっといられるのが幸せな時間だと
永遠に、ずっと




