止まない雨
今回は、スノウスフィアの家族との揉め事のお話です。
スノウスフィアお姉様の足取りは掴めないままだった。
そして、どうやら国王陛下の側仕えの臣下として王宮にいるらしい事は、
お父様とお母様の話の中で予想できた。
お姉様が出て行ってから、何故か私の魅了は、効果が無くなってしまったのか、
お父様とお母様、ヘリオまで、私に冷淡な態度を取るようになったのだ。
どうして?
今まで上手くいっていたのに。
このままでは、魔力鑑定のやり直しを受けさせられる。
……待って。
どうせ、再鑑定しても同じよ。怯える必要ないわ。
それに魔力鑑定は、王宮専属の魔術師団がやるはず…
王宮には、お姉様がいる。
そうよ、王宮に堂々と入れるじゃない。
迷ったフリして、臣下がいる王宮エリアへ侵入して、
お姉様を探し出せばいいんだわ。
不本意だけど…表向きだけでも誠実に謝ってしまおう。
そうすれば、いつもの様にお姉様は、お父様とお母様に言いくるめられて、
仕方なく伯爵邸に戻ってくる。
そして、あの面倒臭い領地経営を押し付けて、“夢渡り人” として働かせれば、
当初の計画通り、私達は何もしなくても楽して贅沢に暮らせて行けるもの。
* * * * * * *
「最近は雨が続きますね、お嬢様」
「そうね…」
雨…
雨は嫌いだ。
窓ガラスに小さな音を立ててぶつかっては、
一筋のラインを引きながら落ちていく真珠のような水の雫。
繰り返し、繰り返し。
それを目で追いながら、嫌な記憶が頭に蘇ってきた。
私が12歳の時、家族4人で馬車に乗り、街へ買い物に出掛けた。
アマンに付きっきりの両親と少し離れ、私はお小遣いを貯めたお金で、
みんなで一緒に食べようと、焼き菓子を選んでいた。
そして、お会計を済ませ、気がついたら両親もアマンも居ない。
どこを探しても見つけられず、諦めて馬車が止めてある場所に戻ったのだが、
その馬車も無かった。
いくら探しても、馬車も家族も見つからなかった。
そのうち雨が降り始め、私はお店の軒下に立ち尽くす。
そして、気がついたのだ。
私は、置いて行かれたのだと。
冷たくされていたのは、分かっていた。
でも、こんな風に存在をまるっきり無視されたのは初めてで、
雨の中に一人きり、焼き菓子の紙袋を抱えて茫然とするしかなかった。
私って、もう要らない子なのだろうか。
それより、どうやって帰ろう…
振り続ける雨の中で、冷えていく体を手で摩りながら、
水溜りに次々落ちる雫の波紋を何も考えずに、ぼんやり見やる。
あの時に聴いた雨音は、
寂しさと孤独を思い出させる象徴になってしまった。
そして約1時間後、リタが悲痛な面持ちで馬車で迎えに来てくれたのだ。
家族3人だけ帰宅して、私の姿が無いのを不思議に思い、
買って貰ったであろう可愛い人形を抱えているアマンに訪ねた所、
あの子は無邪気に笑いながら、こう言ったそうだ。
「ああ、お姉様は買い物中に、何処かへ行ってしまったのよ。
探したけれど、見つからないから仕方なく置いて来たの。
困ったお姉様〜、うふふふっ」
と答えただけで、両親も特にその事には触れずに、
3人は夕食をとる為、仲良く食堂へ行ってしまったそうだ。
リタは、信じられない家族の行動にしばらく唖然としたが、
我に返って大慌てで馬車を手配し、私を迎えに来てくれたのだ。
私が買った焼き菓子は、怒り心頭のリタと馬車の中で一緒に全て平げた。
そして、さっさと食事を済ませ、和気あいあいで居間で談笑していた3人は、
体が冷えた状態で帰宅した私を見ても、声もかけてこなかった。
心配するどころか、誰も私の存在など気にもしていなかったのだ。
私は、この時、
世界中で一番、嫌われている人間になった気分だった。
そして雨嫌いには、もう一つ理由がある。
“夢渡り人” として仕事をした後に、対象者の初老の男性が自殺したのだ。
希望通りに解決したはずだったのに、彼は心残りが無くなったから、
安心して死ねると、逆の意味で解決した事が裏目に出てしまい、
自死に至ってしまった。
何でもこの公爵である男性は、若い頃に身分違いの平民の女性と恋に落ち、
駆け落ちする約束をしていたそうだ。
しかし、男性は当日になって怖気づいてしまい、約束の場所に行かなかった。
後日、約束を破った事を謝ろうと、その場所へ行ったが、当然彼女はいない。
そして、どんなに調べても彼女の消息は不明だった。
男性は諦めて、そのまま家で決められた相手と一緒になり、
それなりに幸せに暮らしたそうだ。
そして病気になって死を目前にして、それだけがずっと心残りだった男性は、
彼女を探し続ける夢を毎晩見て魘されていた。
今回のこれは、病床に伏している本人が更に苦しんでいる姿を
見ていられなくなった男性の娘さんからの依頼だった。
私は、男性が求めている事を夢の中で把握して、
平民の恋人を出現させ、後日約束の場所で落ち合えた場合の続きを具現化して、
操作して彼に見せた。
そして、男性は彼女に、謝罪と自分の気持ちを伝える事が出来たのだ。
“ 自分に勇気がなくて、約束を果たせず申し訳なかった。
でも、君ほど愛した人は他にいない。私に出会ってくれてありがとう ”
彼女自身の本心など私には分からないが、男性の負担を少しでも取るため、
違和感のない返答をさせた。
“ 本当は私も分かっていました。身分違いで所詮無理な恋だったと。
私も一時の夢を見てしまっただけです。ずっと、覚えていてくれてありがとう ”
と寂しげに微笑み、二人は綺麗に別れを告げられたのだ。
そして、この世で心残りが無くなり、男性は満足して自死してしまった。
予想外の結果に、謝罪を認めた手紙を出した私に対して、
依頼主の娘さんは、決して責めて来なかった。
あなたは、こちらの依頼を誠実に叶えてくれました。
そして、これは、あなたのせいではありません。
本人の勝手な自己完結による結果です。謝罪などしないでください。
それより、救おうとしてくださった、あなたの恩を仇で返すような事になり、
そして、後味の悪い思いをさせて、罪悪感まで抱かせてしまい、
こちらこそ大変申し訳ありませんでした。
どうぞ、今回の件はお気になさらずに。
あなたの希少な能力は、人に寄り添い、癒してくれる素晴らしいお仕事です。
これからも胸を張って名誉ある、そのお仕事を続けてください。
結果的には残念でしたが、父はあの後、本当に幸せそうでした。
心の負担を取り除いていただいて、感謝しております。
と、大変優しく、慈悲深い返事を頂いたのだ。
思いがけず、他人からの優しい言葉に触れてしまい、
私は色々な感情が溢れて、胸が潰れそうだった。
こんな風に人の心が動くことを予測できず、
衝撃を受けた症例で、忘れられない出来事になったのだ。
そして、その訃報を受けた時も、雨が降っていた。
まるで、泣けない私の代わりに、
泣いているように。
この雨は、一体いつ止まってくれるのだろう。
自分で本当の涙を流せるのは、いつなのだろう。
* * * * * * *
「スノウ、今日は部屋から出るな」
「何で?」
「お前の妹が、魔力の再鑑定をしに王宮に来るそうだ」
「鑑定のやり直し?今頃?」
「俺にも分からんが、スカイホール伯爵からの要望だそうだ」
「アマンの魔力は魅了だけど、危険視されない程度の微量なんでしょ?」
「父親だけじゃない、母親と、あのお前の元婚約者の不貞男…ヘドロだったか?
あいつも再鑑定を希望しているそうだ」
「ヘリオだよ。ふ~ん…どうしたんだろうね」
「アイツらお前を探しているからな。
何処かで鉢合わせないように、今日は部屋から出るな。いいな?」
「分かった。今日は1日女官らしく執務してる」
「念のために、部屋の前のドアに護衛騎士を置いてくから安心しろ」
「えっ、そこまでしなくても…」
「いいから、大人しくしてろよ?」
「…うん」
「おっ、素直だな。いー子、いー子♪」
「……………」
バタンッ
猫のように、頭をなでなでされ半目になる私。
それを見て満面の笑みのまま、部屋を後にするイグネシアス。
悔しいけど…こいつは、
いつも落ち込んでる私の心を軽くするのだ。
「…どう思う?リタ」
「頭なでなでされて、良かったですね!」
「違う、そっちじゃない。アマンの再鑑定のこと」
「そうですね。疑い始めてるんじゃないですか?」
「魅了の影響を?」
「はい。アマン様が生まれる前は、ご両親は真面でしたし」
「…もし、それに気が付いたとしても、全てアマンのせいにして、
何もなかった事にすると思う?」
「……問題が解明されて、連れ戻されるのを心配しておいでですか?
もう除籍しているのですから、お嬢様は関係ありませんよ」
「アマンの魔力は微量だけど…あの3人は、私への嫌悪感は少なくともあって、
ああなっているはずなの。無意識だろうが何だろうが、魔力のせいにすれば、
私に対する数々の仕打ちへの罪悪感は、誤魔化せるでしょ?
それで、はい解決。これからは、みんな仲良く暮らしましょうってされたら、
到底納得できない。私は、された事を全て覚えている。
だから、あの人達を許せない」
「許さなくていいです!お嬢様への今までの扱いは、本当に酷いものでした。
それに、お嬢様の受けた心の傷は、簡単に癒せるものではありません!」
「……………」
「それに陛下が、大好きなお嬢様を簡単に手放す訳がありません!」
「…キモいこと言わないでよ、リタ。背筋が寒い」
「私は、お二人はお似合いだと思ってますが…」
「あーもー、やめて。それにアイツには、正妃様いるじゃん。
私は、自分だけのモノにならない男なんて、無理だわ」
「…まあ、確かにそうですね。
側妃なんて、日影の身はお嬢様には似合いません」
「でしょ? いつまでもアイツに頼れないし、自立しないとね」
「ここを…出ていくのですか?」
「いつまでも居られないわよ。
あの時は、勢いで家を出る事になって緊急だったから、
取り敢えず頼ったけど……正妃様とアイツが正式に結婚したら、
私は、お邪魔じゃん」
「…そうですか」
「とりあえず、自立資金貯めようっと!」
自立して…どうしようかな。
伯爵家を継ぐのを目標に、ずっと時間を費やして学んで来たから、
それが急に無くなって…イマイチ未来設計が思いつかないわ。
でも、とりあえず、誰からも干渉されない静かな場所に行きたい。
それで、湖の辺りにある小さな邸でもいいから欲しいなぁ。
ふふっ……これじゃまるで、老後の暮らしみたいだわ。
でも、疲れたのよ。
ずっと、ずっと考えていたから…
子供の頃から、どうしたら元の家族に戻ってくれるんだろう、
どうしたら両親は、私を見てくれるんだろう、
どこまでいい子でいたら、愛してくれるのだろうって…散々悩んだ。
それなのに、諦めて吹っ切ろうと決心した後に、
何であの人達は今更、解決しようとしてんのよ。
そのまま何も知らず、アマンの操り人形で一生過ごせばいいのに。
そして、嫌うなら徹底的に拒絶して欲しい。
中途半端に優しくして、私に僅かでも希望を持たせないで欲しい。
また、裏切られたら、
私は…今度こそ壊れてしまうかもしれない。
* * * * * * *
「そちらは、関係者以外立ち入れません。
勝手な行動は、控えていただけますか」
「あっ、申し訳ありませんっ。私ったらぁ…
王宮って大きいのですものぉ。迷ってしまいましたわ~」
「…廊下をまっすぐ歩くだけですが?」
「アマン、子供みたいにキョロキョロするな」
「王宮が久しぶりだからって…落ち着きなさいアマン。みっともない」
何よ、案内役のこの文官。全然隙がありゃしない。
可愛い私が笑いかけても、無反応で無愛想だし。
お父様とお母様も、ずっとこの調子でやりにくいったら。
多分、向こうの建物なのよね…さっきから文官が行ったり来たりしてるし。
「鑑定魔術師が来ますので、ここでお待ちください」
バタン
しばらく待ったが、ナカナカ魔術師は来なかった。
アマンは、暇を持て余し待機部屋でウロウロしていた。
「少し、その辺を散歩してきますわ」
「は?何を言って…待ちなさい!」
「すぐ戻りますわっ‼︎」
やっと自由になったわ、さっさと探さないと。
えーと…さっきの臣下エリアは、こっちだったかしら。
無事侵入はしたが、王宮のあまりの広さと部屋の数の多さに、
アマンは段々イライラしてきていた。
そして、ふとある戸口の前に護衛騎士がポツンと立っている。
今まであんな光景は見た事がなく、重要人物があの部屋にいるのだと認識して、
そこを目指して歩いていくと、後ろから突然腕を引っ張られる。
「何をしている!全くお前は、こんな所まで来てっ」
「お、お父様っ!」
「戻るぞ。魔術師殿が来られたんだ」
「ちょ、ちょっと待って下さいってば!」
腕を掴まれながら、何とか抵抗してその騎士の前までズルズル歩いて行く。
何事かと怪訝な顔をした騎士の前で、その騎士目掛けて、
力一杯父親を突き飛ばした。
二人はぶつかり、護衛騎士は、よろけた父親を支えるように抱き留めた。
その隙に、ドアノブを回し勢い良くドアを開ける。
アマンの勘は、当たっていた。
「……っ、見つけたわ、お姉様‼︎ 」
執務室の机で何やら書類を書き込んで仕事をしてる、
ペンを持ったスノウスフィアが、動きを止めて顔を上げた。
彼女は一瞬目を見開いたが、すぐに無表情になる。
その他人を見るような冷たいゴールデンパープルの瞳に、一瞬気後れしたが、
アマンは精一杯の笑顔で、スノウスフィアに話しかけた。
「お会いしたかったです。スノウスフィアお姉様!
も~、心配していたんですよぉ。こんな所に、いらっしゃったのですね!」
「…………………」
表情も変えず何も答えない、こちらをジッと見ている自分の姉に少したじろぐ。
だが、ここまで来て今更引き下がれない。
「お姉様を傷つけてしまって、本当にごめんなさい!全部、私が悪いの!
でも、私たちは家族でしょう? 血の繋がりは、何より強いのですもの。
絶対に分かり合えるし、仲良くできますわ。だから、戻って来て下さい。
あっ、そっかぁ!黙って出て行った事を気にしていらっしゃいます?
それなら大丈夫ですわ。誰も怒っていませんし、私がお父様に口利きして
差し上げます。ですから、昔のように仲良く…」
「どちら様でしょうか?」
「…えっ⁉︎ 」
「関係者以外、立ち入り禁止になっております。
直ちに、ご退出願います」
「お、お姉様? 私です、アマンですわ。
…もしかして、まだ私に怒っていらっしゃるのですね?」
「貴様、勝手に入るな‼︎ 部外者は出て行け‼︎ 」
護衛騎士が入室して来て、アマンの腕を乱暴に引っ張り下がらせる。
アマンは、人形のように簡単にズルズル引きずられた。
「きゃあっ、痛い、痛い‼︎ 乱暴は止めてくださいませっ!
それにっ、この方は私のお姉様で、家族ですわ‼︎ 」
「……スノウスフィアか?」
遅れて入室してきた父親も、スノウスフィアを認識して、
眉を下げて何とも言えない表情になる。
「関係者以外、立ち入り禁止になっております。
出て行ってください」
「すまなかった。スノウスフィア、私達はどうかしていたんだ…」
「…………………」
「今までのお前に対する、仕打ちを謝りたかった。
アマンの魅了に影響を受けてしまったとはいえ、お前に本当に酷い事を…」
「ちょっと、お父様?私のせいにするんですの?酷いわっ‼︎ 」
「いや、アマン…………そうだ、お前は悪くない。悪いのはスノウスフィアだ。
こんなに可愛い妹を許さない狭量な姉など、伯爵家の後継に相応しくない。
女のクセに無愛想で、可愛げもない。“夢渡り人” だから大目に見ていたが、
少し勉強が出来るからといって生意気なっ…いい気になるでないぞ!
まったく、勝手に出て行きおって。さっさと戻って、家の為に貢献せんか‼︎」
ドクン
心臓が大きく鼓動する。
アマンの声掛けで、一瞬にしてお父様の言動が反転した。
やっぱり…こうなるのね。
そして、今の言葉は少なからず本心なのだ。
ハッとして手で口を覆い、目をせわしなく左右に泳がせて、
狼狽しながらスノウスフィアに向き直り、首を横に振る父親。
「い、いや、違う!違うんだ、スノウスフィア、口がっ、口が勝手にだなっ…」
「部外者は出て行ってください。護衛騎士殿、お願いします」
「はっ、女官殿。部外者に入室を許してしまい、ご不快な思いをさせて、
申し訳ありませんでした。来いっ、侵入者共‼︎ 」
「い、痛い、やめてってば!お姉様、ねえっ、一緒に帰りましょう⁉︎」
「スノウスフィア、悪かった。
謝るから伯爵家に戻ってくれ、頼む、戻ってくれぇっ‼︎ 」
二人は、ズルズルと力強い護衛騎士に引きずられ、
一礼した騎士が、静かにドアを閉める。
そのドアをしばらくボンヤリ見ていたが、後ろに控えていたリタが、
スノウスフィアの肩をそっと掴んで、優しく撫でて支えてくれていた。
「大丈夫ですか…お嬢様」
「うん。やっぱりなって、思っただけ」
「相変わらず、ですね…」
「うん。もし、魅了のせいだとしても、関係修復はもう無理よ。
元々、打算的で自分勝手な人達だもの。
あの人達の性格は治らないし、やっぱり私には合わないわ」
「お嬢様…」
窓の外から、雨音が聞こえる。
私の心が泣いているのだろうか。
一人は嫌だと、寂しいと…泣いている、私の幼い心。
だけど、その声は届かなかった。
あの人達は10年間、私の心を殺し続けたのだ。
苦しみしかなかった。期待なんてしなくなった。
何もかも諦めて、愛なんて求めなくなった。
そして、何も感じなくなって…楽になった。
だから、もう離れてよ。
私の心から出て行って。
* * * * * * *
「スノウ、居るか?」
「うん。どうぞ」
珍しくノックして入室してきた、イグネシアス。
もう寝ようかと思っていた、結構な夜更けだった。
大方、今日の出来事を聞いたのだろう。
自分だって忙しいだろうに、こういう所は律儀なのよねコイツ。
「何?仕事?」
「いや、違う。ちょっと来い」
「え?どこ…にぃっ‼︎」
いきなり麦袋のように肩に担ぎ上げられ、驚く間も無く歩き出す。
リタは苦笑いしながら、後ろから手を振って見送ってるし…
もう、諦めてダラーンと脱力して、奴の肩に掛かってるタオル状態になった。
「どこ行くのよ。それくらい教えなさいよ」
「着いてからのお楽しみだ」
「何それ」
「今日は悪かったな…優秀な護衛だったんだが…
隙を突かれて、侵入されたと聞いた」
「大丈夫よ。すぐ捕まえてくれたし、庇ってくれる人がいるだけで、
私は凄く助かったし、心強かったもの」
「…もう、お前には近付かせない。安心しろ」
「それは同じ国にいる限り不可能よ。それより、ここ…中庭?」
「ああ、一般人は入れない王宮の中庭の更に中庭。俺の個人的な秘密の花園」
「へぇ~、こんな所あるんだ」
「綺麗だろう?俺の好きな草花を植栽してる特別な庭だ」
「そんな所にいいの?私なんか連れてきて…」
「当たり前だろ。ほら、これに乗ってみろ」
「…ブランコ?」
「ああ、俺のだ。子供の頃から、これが好きでな。
良く部屋を抜け出して、ブランコ漕ぎに夢中になったものだ」
「こ、これ、子供用じゃないの?大人が乗っても大丈夫?鎖切れない?」
「大丈夫、大丈夫。今でも俺が現役で使ってる。
よし、しっかり掴まれ。背中押すぞ?」
「えっ⁉︎ 何あんた、ブランコ乗せる為に拉致したわけ?」
「ブランコをバカにすんな。楽しいんだから。ほら、せ~のっ」
「うわぁっ、ちょっ‼︎…」
座板に腰掛け、背中を結構な強さで力一杯押されて、
グンッと体が前に行き倒れそうになり、必死に両手で鎖を握る。
そして、前に揺られて一番高い位置に達した時、私は目を見開いた。
眼前に王都の夜景が広がっていたのだ。
街の家々の窓から漏れる明かりと、道の街灯。
それらがまるで、美しい色とりどりの宝石のように輝いていた。
そうか、王宮は一番高い場所に建っているから、王都全体を見渡せるんだ。
この男は、これを見せる為にプライベートなこの庭に、私を連れてきたのか…
まあ、私が家族と対面して、嫌な気持ちになっているのを分かってて、
彼なりの慰め方なんだろう。だから…憎めないんだよねコイツ。
しばらく前後に揺られて、何も考えずに美しい夜景とブランコを楽しんだ。
「どうだ?綺麗だろ」
「うん…いい眺め。それに楽しい。何気にブランコって乗ったの初めてかも」
「そうか……よし、俺も一緒に乗るぞ」
「えっ⁉︎ 私降りるからっ、交代すればいいでしょ。鎖切れるって‼︎ 」
「大丈夫だ。そのまま座ってろ。俺は後ろで立ち漕ぎすっから」
「危ないってばぁ~~‼︎ 」
「ほら、大丈夫、大丈夫♪」
「馬鹿じゃないの、あんたっ‼︎ 」
「ははははっ、ほら、楽しいだろ~」
「重いから遠心力ついて、怖いつーのっ‼︎ うぎゃぁっ、あははははっ」
「もっと高くまで漕ぐぞ‼︎ しっかり捕まれ!はははははっ、ふぅ~~~‼︎ 」
お互い20歳にもなって、子供みたいにブランコを大はしゃぎで漕ぎ続け、
私は昼間の家族の揉め事など、スッカリ忘れてしまっていた。
そして、雨が止んだ夜空には、満点の星空が瞬いていた。




