第十五夜 ~迷い子~
「綺麗な香水瓶。これ、ガラスだよね?凄い技術…」
「美しい色ですねぇ…うっとりします」
水色から紫のグラデーションのガラス瓶。
上は、ほっそりして下に行くにつれ、ふっくらした滑らかな曲線で、
土台の足が平べったい円型で安定して置ける形になっている。
まるで…小さな花瓶みたいだわ。
「お前宛に、クヴァレヒューム侯爵からだ。
この間の礼らしいぞ」
「お礼なんていいのに…あ、メッセージカード入ってる」
“ この間は、辺鄙な我が邸までご足労ありがとうございました。
お陰様で遺産相続や引き継ぎ等を無事に処理できました。
ベンジャミンもすっかり元気になり、二人で平和に暮らしております。
さて、こちらにいらっしゃった時に、キツい香りの香水が苦手だと、
おっしゃっていたので、そういう方達用に気軽に普段使い出来る、
控えめな香りの香水を研究開発してみました。
花自体は、ほとんど香りはしませんが、私の大好きな勿忘草をイメージして、
調合した香りです。お優しくて美しい、芯の強いエルッヒ女官殿に、
似合うと思います。試作品ですが是非お試しください。
そして、感想などをお知らせ頂ければ幸いです ”
良かった…あの二人元気にやっているんだ。
「香り、確かめてみたらどうだ?スノウ」
「うん。……あれ?蓋開かな~い」
「ふはははっ。捻るんだよ。お前本当に貴族令嬢かよ」
「うっさいなー。
こんな奢侈品、貧乏伯爵家には必要なかったんだもん」
「元婚約者の不貞野郎は、お前に何も贈り物しなかったのか?」
「…どう、だったっけ…良く覚えてない。
リタ、私何か貰った?」
「え~と…どうでしたでしょうか…ああ、確かお嬢様の誕生日に、
ピンクのバラの花束と何か…ウサギの陶器の置物?だったような…」
「ああ、そうだっけ?
私、可愛いの興味なかったから全然印象残ってないわ。
多分置物は伯爵家に置いてきてるし…」
「はあ?なんだそりゃ、成人してる令嬢に、しかも婚約者にウサギの置物?
センスねぇ野郎だなぁ~…」
「家同士で決められた婚約だったし、お互いの好みなんて知らなかったんだよ。
私も靴下とかハンカチとか、実用的な物しか贈ってなかったよね?」
「そういう時は、実用的な方がいいのです。相手の迷惑になりませんし」
「ねえ、ここの蓋を捻ればいいの?割りそうで怖いんだけど…」
「ああもう、俺に貸せ。危なっかしい」
イグネシアスに取り上げられ、彼は慣れた手つきでクルクル回して蓋を外した。
ティアドロップ型の蓋で、それを摘み持ち上げると細い棒がついている。
その棒の先に香水が付着しているのを手首にチョンとつける仕様になっていた。
「こうやって…最初は少なめに手首に少し、つける。ほれ、匂い嗅いでみ」
「うん…」
フワッと爽やかな香りがした。
あ、結構好きかも…
隣にいたリタも顔を近づけて、クンクンする。
「そんなに強い香りではないですが、清楚でいて可愛らしい、
清涼で瑞々しく朝露のように透明感のある…
控えめだけど、奥行きのあるシトラスグリーンでしょうか?」
「ええっ⁉︎ リタ、香りの言語化上手い!そう、その通り!いい香りだよね」
「そうだなお前に似合う。これは俺も好きだ。流石、国内一の香水専門業者。
高位貴族令嬢は、ローズ系の頭が痛くなる甘ったるいのばかりつけるから、
正直、俺も苦手だ」
香水なんて興味なかったけど、
香りひとつでこんなに気分が変わるモノなのか。
素敵な仕事だわ…
「気に入った事と、リタのさっきの言葉を感想として手紙を送ろうっと…」
「どうやら新当主になってから、随分事業のやり方を変えているらしいぞ。
以前の当主は、利益重視で下請け虐めが酷く、しょっちゅう揉めていたが、
今は現場の運営に寄り添った、余裕のある納品期間を設けているし、
低価格でカジュアルな香水と高級嗜好に分けて製造していくんだと。
今後、香り付きのアロマキャンドルも研究開発して作るってよ」
「へぇ~凄いね。アロマキャンドルかぁ…私も欲しいかも」
「お前、クヴァレヒューム侯爵邸で何かしただろ」
「…そっ、…なっ、何を藪から棒にっ。急に話変えんなっ!危なっ…」
「ふはははっ、引っ掛からなかったか。
まあ、お前の事だから変なことはしないと信じているが、
俺の守護があるからって、あんまり危ない事に首を突っ込むなよ」
「分かってるよ。……怒ってる?」
「別に怒ってねぇよ、心配してるだけだ。
そういえば、妃教育の教育係が褒めてたぞ。
お前の覚えが早くて、正妃にも正確に通訳してくれるから、
伝わりやすくなって大分進んだってな」
「それが私の仕事なんでしょ?」
イグネシアスが、いつものように右手首を軽く触ると、
紋がジワジワと現れる。本当に何度見ても不思議だ。
そして、体を屈めて私の右腕に口付けを落とす。
ドクン…
何だろう。
この間から、なんか変なのだ…
「スノウ、脈が早いぞ?」
上目使いで美しい碧眼が、こちらを見やる。
思わず奴の前頭部にベシリと左手を押しつけて、
グイグイ腕を突っ張って顔を遠ざけていた。
これ…まるで抱っこが嫌で腕を突っ張っている猫みたいだわ。
私のこの意味不明な行動に、半目になったイグネシアスに睨まれる。
「おい、何だこれは」
「ちょっと、…は、離れてよっ!」
「ん?さてはお前…俺のこと意識してるな?」
「してないっ!」
「素直になれって~スノウ~」
「うるさい、自惚れんなっ!」
「へ、陛下~…あの~……お楽しみの所を大変申し訳ありませんが〜…
そろそろよろしいでしょうか?…会議に遅れま〜す」
ドアがノックされ、廊下で待機していた侍従が細くドアを開けて、
遠慮気味に声をかけて来る。
コイツは会議室に向かう道中のついでに私の部屋に立ち寄り、
荷物を届けに来て絡んでいたのだ。
「ほら、早く行け。仕事仕事」
「あ~…今日は宰相も参加するんだったな…面倒クセェ…」
「荷物届けてくれて、ありがとう。じゃあね〜」
「……スノウ」
「何?」
肩に手を置いて軽く引き寄せられ、素早く頬に口付けをする。
私が唖然として口をパクパクしている隙に、悪ガキみたいな笑顔を浮かべて、
さっさと部屋を出て行ってしまった。
あんの野郎~~‼︎
ちょっと距離取ったと思ったら、いきなりこんな事してくるし…
頬をさすりながら、美しい香水瓶が視界に入る。
それにしても、クヴァレヒューム侯爵家が落ち着いたみたいで良かった。
あの二人には平穏な生活を送って欲しいから。
「お嬢様、このメッセージカードの裏、見てください」
「え?」
「勿忘草の絵画です。サインがベンジャミンとあります」
「本当だ…なんて美しい繊細な色使いなの。画家ってやっぱ違うね。
そうか、彼…絵を描けるようになったんだ。良かった…」
「本当に良かったですね。小さな額縁に入れて飾っておきますか?」
「うんっ…」
* * * * * * *
特に仕事もなく、今日は妃教育もお休みの日だったので、
私はすっかり習慣になった勉強をしに図書館へ向かっていた。
王宮の中庭に面している廊下は、屋根はあるが外廊下になっており、
雨の日は油断してると濡れて嫌だったが、
晴れた日は、中庭を眺めて風を受けながら歩くのが気持ちいいのだ。
私はゆっくり歩き見事な庭園をぼんやり見物していた。
すると、肩から上が見える、低木の後ろで佇んでいる女の子が見えた。
くすんだローズピンクのハイウエストドレスに、
綺麗にウェーブした明るい金髪、碧眼。歳は7〜9歳位だろうか。
彼女は、ぼんやりと王宮を見上げていた。
…どうしたのだろう。
「ねえリタ、あの子あんな所で何してるんだろう。
中庭の植え込みなんかじゃなくて、外廊下のベンチに座ればいいのにね」
「え?何処ですか?」
「あそこ、あの低木の後ろ。ローズピンクのドレスで明るい金髪の…」
「…み、見えませんが」
「え?」
「何もいません」
「…嘘でしょ、また私しか見えない感じ?」
「お、おおお嬢様ぁっ…」
「大丈夫だって。そんな怯えないでよ、リタ。
ちょっと話しかけてくるわ」
スタスタと女の子の元へ向かい、私は彼女に話しかけた。
「ねえ、何してるの?中に入らないの?」
「………お姉ちゃん、あたしが見えるの?」
「うん」
「…うえっ…ぇぇ〜んっ!」
「あらあら大丈夫よ。ほら、おいで」
「中に入れないのぉ〜!うわぁぁ〜〜んっ」
ソワソワしてるリタを尻目に、泣きじゃくる女の子の手を引いて、
外廊下のベンチに座らせ話を聞く。
何でも王宮の中に足を踏み入れると、弾かれてしまうそうだ。
彼女の分のお迎えランタンが無いのが原因らしい。
この子は、病で7歳で他界した短い人生だった。
だから、王族暦が短いせいで、彼女は存在を忘れられている可能性がある。
毎年陰府暦で帰って来ているが、毎回弾かれ、道行く人達へ何度話しかけても、
相手にしてもらえず、いつも庭から王宮をあんな風に眺めていたそうだ。
「そう、それは悲しいわね」
「王宮の中に家族の肖像画があるの。だから、それだけでも見たいのに…」
「そっか、私はスノウスフィア。あなたの名前を聞いても?」
「ロゼッタ・ローズ・ルナイト!7歳です!」
「ロゼッタちゃんね。何年まで王宮にいたの?」
「えーと、あたしが死んだのは〇〇〇〇年の春だったかな〜」
「…え?」
軽く500年以上前なんだけど…王族籍ってどれ位まで保存してんだろ。
しかも、そんな前の王族の私物なんて保管してあるだろうか。
「あのね、あのね、あとは!あたしの為に品種改良したバラもあるんだよ!」
「そうなんだ、凄いね。
あ、温室はギリ外だから入れるかも。行ってみる?」
「うんっ!行ってみる。まだ温室は試してなかったから」
そして、庭師のおじさんに鍵を借りて、ガラス張りの温室へ足を踏み入れる。
私の後に、恐る恐るロゼッタちゃんも入室するも、すんなり入れて大喜び。
天井が楕円形で横長総ガラス張りの巨大な温室。
真ん中に真っ直ぐなレンガの道、その両側にズラッと様々な種類の
バラが咲きほこっている景色は圧巻だった。
中央センターに5段の階段で高台スペースがあり、そこにソファとテーブルも、
設置されており、ここでご令嬢方がたまにお茶会を開いたりする。
温室兼、洒落たサロンのような空間にもなっているのだ。
「入れたっ。嬉しい!」
「良かったね。ロゼッタちゃんの薔薇は、まだあるかなぁ…
どんな形してるの?」
「う〜んとね、綺麗なピンクのグラデーションで大輪なのっ。
あたしも探してみるっ!」
ぴょんぴょん跳ねながら、嬉しそうに温室を駆け回っている。
年相応の可愛らしい女の子だ。
微笑ましく思いながら、私もピンクのバラを探し始めた。
「リタも探してくれる?大輪のピンクのグラデーションのバラだって」
「は、はいっ。凄い種類の薔薇ですねぇ…
むせ返るような甘い香りでクラクラします」
「そうだね。ねえ、ロゼッタちゃん、その薔薇の名前は?」
「“プリンセス・ロゼッタ” だよー。あたしの名前!
ふふんっ、いいでしょ!」
幼女のドヤ顔、可愛すぎである。
しばらく探していたが、ロゼッタちゃんが歓喜の声をあげて、
こちらに軽い足取りで走ってくる。ああ、見つかったらしい。
「お姉ちゃん、あった、あった!こっち!」
確かに他のバラより大輪だった。
花の形はスタンダードだが、威風堂々としている。
そして、特徴的なのは色だった。
花びらの内側が白に近い淡いピンクで、外側に向かって濃いピンクに、
変わっていくグラデーションが非常に美しいのだ。
香りも他の薔薇に比べて控えめだった。
「あたしがピンクが好きだから、それに因んで改良して作られたバラなの!
嬉しい、まだあったんだーっ!久しぶりに見たけどやっぱ綺麗〜♪」
「うん、素敵ね。あなたの為の薔薇なのね」
「うん!」
この子は、慈しみ愛されていた姫君だったのだ。
でも、7年という生涯は、あまりにも短かすぎた。
陰府暦に、その短い生涯の思い出の場所で過ごしたかっただろうに、
お迎えランタンが無くて王宮に入れない。
何とかならないのかしら…
私は庭師のおじさんに頼んで、
“プリンセス・ロゼッタ” を一輪だけ剪定バサミで切って貰った。
その後も、ギリギリ入れる王宮の庭や東屋に、彼女を連れて一緒に見て回った。
庭から王宮の外観を眺めて、あそこが私の部屋だったんだよーとか、あそこの
バルコニーがお気に入りだったとか、止まらないお喋りで色々話してくれた。
久しぶりに人に認識してもらい、話が出来てロゼッタちゃんは嬉しいと、
何度も目をキラキラさせて私に伝えてくる。
ずっと長年、一人ぼっちで誰にも気がつかれない存在だったのだ。
可哀想に…さぞ心細くて寂しかっただろう。
いつの間にか日が暮れて、空がオレンジ色から青紫になった頃、
聞き覚えのある声が後ろから掛けられた。
「ここに居たのか」
「あっ、陰府の王様!やだ、まだ帰らないもん!」
「あ…シバルバ様」
「また会えて光栄だ、スノウスフィア。
ロゼッタ姫が世話になったらしいな」
「いいえ。王宮の中には入れませんでしたけど…」
「それは仕方ない。死者は軽々に生者の領域には入れんからな」
「やだー、帰りたくなーいっ!」
「こら、ここで魂が消滅してしまっていいのか?
ただでさえ、おぬしは陰府にいる期間が長すぎるのだ。
心残りがあるのかもしれんが、おぬしの肉親は全員再生の輪に、
入ったというのに…現世に早く生まれ直したくはないのか?」
「………だってぇ…」
「ロゼッタちゃん、あのね、あるか分からないけど、
あなたの私物を探してみるわ。
もし、見つからなくても今日みたいに案内するから、
また来年も会いましょう」
「…本当?」
「うん。約束する」
「うん!分かった。ありがとう、お姉ちゃん」
「それからシバルバ様、これ “プリンセス・ロゼッタ” を
彼女に渡したいのですが、何か方法はありますか?」
「うむ、生者の世界の物は、死者は触れられぬが…
我を通して渡せば大丈夫だろう。どれ、預かろう」
「はい、お願いします」
ロゼッタちゃんが怪我をしないよう、棘を手で抜いておいた薔薇を
シバルバ様に渡すと、一瞬でバラは萎れて枯れてしまった。
え?と焦ったがシバルバ様が一振りすると、バラは元の姿にフワリと戻った。
ああ、そうか。一度命を取らないと向こうの領域に行けないのだ。
「ほら、お姫様」
「わあああああっ!ありがとう!持って行っていいの?」
「ああ、今回はスノウスフィアに免じて特別だ」
「ありがとう、お姉ちゃん、陰府の王様!」
「ふふっ、良かったね。ロゼッタちゃん」
「ん?…スノウスフィア、左の小指から血が出ているぞ」
「え?…あっ、何だろう。多分バラの棘抜くときに刺さったのかな?
痛くはないので大丈夫です」
「そのままでは駄目だ。手を出しなさい」
「え…あっ…」
返事する間もなく、左手を取られ小指に口付けされる。
うわっ……え?これ…
私の血……な、舐めてない?
俯いて私の指に口付けを落とす、シバルバ様の長いまつ毛に見惚れてしまう。
瞳と同じ金色で、節目がちな瞳が美しく、なんとも妖艶だった。
本当に綺麗な人…
そして、左の小指が温かくなって、
顔をあげたシバルバ様と目がバチッと合ってしまい、慌てて逸らす。
ふと自分の左手の小指を確かめると、
そこにはグルリと指輪をしているような金色の輪っかが現れて、
そして消えていった。…ん?何これと凝視する。
横で見ていたロゼッタちゃんは、この小説のワンシーンのような、
乙女が夢見るザ・ロマンチック・シチュエーションに、
口に両手を当てて目を瞬き、その場でピョンピョン跳ねている。
「治癒をした。ついでに加護も与えた」
「あ、ありがとうございま…ええっ⁉︎」
「条件が揃っていたから、つい、な」
「…つい?」
「加護したい相手の生命の源の一部を己の体内に取り込むと、
加護を与えられるのだ」
「そうなんですね。あ、あの…ちなみにどんな加護なんでしょうか?」
「死者、特に悪い霊の干渉を受けなくなる。
ただし陰府ではない別領域のモノには効かん。
だから、過信してノコノコ危険な事に首を突っ込まぬようにな」
…あれ?何か同じような注意を誰かにもされた既視感が…
私って、そんなに危なっかしく見えるのかしら。
「助かります、ありがとうございます」
「それから陰府の最下層に、
初老1人、男娼5人の醜き罪人が最近落とされてきたが…
おぬしが関係しているな?」
おっと、バレてーら。
「ええ、そうです。初老の方は私じゃありませんが。
最低最悪のゴミ屑なんで、6人はどうぞ存分に痛めつけてやってください。
そういえば人攫い3人組は、どんな感じですか」
「やはりな。勿論、自分達がした事の同等以上の苦しみと、
重い刑苦を与えよう。最下層に落とされて来る者なぞ、獣以下だからな。
ああ、あの3人は毎日ヒーヒー泣き喚いておるぞ」
「ざまぁーいいです。
確認なんですが…私、何かバチがあたったりします?」
「いいや、問題ないぞ」
「あっ、そうですか」
これくらいの手出しは問題ないらしい。
ふむふむ、覚えておこう。
「では、行くか。夜の帳から暁の王の時間になる前にな」
「うん、お姉ちゃんありがとう、楽しかった。バイバイ、またね!」
「ではまたな、スノウスフィア」
「はい、シバルバ様、ロゼッタちゃんもまたね〜」
二人は漆黒の棺の馬車に乗りこみ、
窓から手を振りながら、霧の中に溶けて姿を消した。
“お姉ちゃん” と呼ばれる度に、アマンの小さな頃の姿と重なり、
微妙な気分になっていたが、ロゼッタちゃんは全然違っていた。
あんなに小さいのに、人の好意に一方的に甘えずに、自分でどうにかしようと、
必死に足掻いて前向きに行動していたのだ。
反面、アマンは小さな頃から自分は動かず、人を都合のいいように操り、
誘導するのが上手かった。
「お姉様、アマンも四つ葉のクローバー見つけました!
これでアマンとスノウお姉様お揃いですよね」
…それ、違うよ。3枚しかない。
「えっ…あれ?何でさっきまで4枚だったのにっ、なんでぇ〜?」
きっと間違えて摘んじゃったんだよ。
「何でアマンばっかり、見つけられないの?
もうヤダァ〜、疲れたぁ。お姉様はすぐに見つけたのにぃ…グスッ…」
…また探せばいいから、私のをあげる。はい。
「えっ、でも、でもっ、これお姉様のでしょ?本当にいいの?」
いいよ、私はまた探すから。
「ありがとう…ありがとうっ、お姉様。アマンお姉様が大好き‼︎ 」
あれは探すのが面倒で、最初から三つ葉を持ってきて、
私が譲るよう仕向けていたのだ。あの狡賢さは、持って生まれた資質なのか…
そんな事をぼんやり思考していると、
ずっと虚空に話し続けた私をソワソワしながら見守ってくれていた、
リタが恐る恐る話しかけてくる。
「行って…しまわれましたか?」
「あ、うん、リタ。ロゼッタちゃんも、シバルバ様も帰って行ったよ。
付き合ってくれて、ありがとう」
陰府暦が終わる───。
毎年訳もわからず、この時期は怯えていたけれど、
私は愚かにも、陰府のことを何も分かっていなかったし、
知らなかっただけなんだわ。
今年は、沢山の出会いもあったし悪くなかったかな。
私は今まで…
なんて狭い世界で生きていたのかしら。
「ス〜ノ〜ウ〜、左の小指…何だソレ?」
「えっ、な、何のこと⁉︎」
早速イグネシアスに、シバルバ様の加護がバレてしまい、
逃げ回りながら、私が加護を強請った訳じゃないもん!と反論するも、
お前はしっかりしてるクセに、変な所が無防備で隙だらけなんだ!と、
結局奴に捕まり、コンコンと説教されたのだった。
なんとか、ロゼッタちゃんの件をイグネシアスに伝えて、
過去の王族籍を調べて、私物を探して貰うよう交渉はしたが、
私は暇にさせると余計な事ばかりするからと、“夏至夜祭” の出店の設備確認の
立会い作業で忙しい、ライル文官と同じ総務部に放り込まれる事となった。
こうして、来週から祭りの準備の手伝いに、追われる羽目になったのだった。
* * * * * * *
「あなたが…やってくれって言うから…だから…私は…
可哀想に思ったから…なのに…どうして…どうしてっ…
こんな目にっ!なんで私がっ!」
「や、やめてよ!あっちに行って!来ないでっ。
何なのっ毎夜、毎夜出てきて!
私は頼んでない!あ、あんたが勝手に同情してやったんじゃない!」
「酷い…酷い…利用したん…ですね…酷い人…」
「やめてよ!怖いっ、怖いっ、来ないでぇっ‼︎
死んだのに、死んだくせにっ、何でいるのよーっ!
いやぁぁーーーーーっ‼︎ 」
側にある人形を咄嗟に掴み、
呪い返しで死んだはずのメイドに投げつける。
ガッシャーン!
「ぎゃあああっ、い、嫌ぁっ、何これっ…弾かれ…る…
ら、来年も陰府暦に来てやるっ、あんたが謝るまでっ、
毎年必ず来てやるっ…この性悪女ぁぁぁっ!」
メイドは悲鳴をあげて消えて行った。
人形は壁にぶつかり床に落ちて、顔がバックリ割れてしまっていた。
このビスクドールは、子供の頃に一度落として壊してしまい、
それをスノウスフィアお姉様に修復して貰った人形だった。
“ 仕方ないわね。修復してあげるわ。
でも人形が可哀想だから、もう壊してはダメよ、アマン。分かった? ”
これ…もしかして…お姉様が守ってくれたの?
「お姉様…お姉様…助けてっ、助けて、戻ってきてっ…
お願い、お願い…お姉様っ。
私を…アマンを一人に、一人にしないでぇっ…
スノウスフィアお姉様ぁ〜……うううっ……うああぁ〜っ…」
アマンは、暗い部屋の隅に体を丸めて蹲り、
子供のようにワンワン泣いて体を震わせていた。




