第十一夜 ~果たされた約束~
「お嬢様、あの…クリスティーヌ様がいらっしゃってます」
「………は?…正妃様が?」
「はい…突然申し訳ありません…と」
「え、えっ、…えーと、えーとっ!
その辺片付けるからっ、ちょっと待って!」
うわ、どうしよう。
直接会うのは初めてだし、それに向こうから来るなんて。
もしかして…イグネシアスの守護誓紋のこと?
やばい…何言われるんだろう…
と、とにかく、失礼のないようにしないと。
そういえば私、表向きは正妃様つきの執務処理担当の女官だった。
「初めまして、クリスティーヌ・サン・リソレイユですわ。
急に来てごめんなさいね」
「わざわざご足労ありがとうございます、正妃様。
初めまして、スノウスフィア・ルナ・エルッヒと申します」
「うふふっ、やっとお目にかかれて光栄ですわ。
陛下から、あなたのお噂はかねがね伺っておりますの。
だから初めての気がしませんのよ」
「え、あ、そうですか…
何をお話ししていたのか、分かりませんが…恐縮です」
「まあ~、綺麗な瞳ねぇ。銀髪もサラサラで美しいわ。
陛下の言う通り。本当にお綺麗なのねぇ」
「いえ、そんな…正妃様の洗練された高貴なお美しさの前では、
私など…足元にも及びません」
「そんな社交辞令はやめましょう。ふふっ。
王族なんてね、贅沢に着飾っているから、誰でも美しく見えるモノなのよ。
そうだお茶菓子持ってきたの。一緒に食べませんこと?」
「は、はい。ありがとうございます。リタ、お茶をお願いできる?」
「はい、お任せください」
…何だろう?怒っている訳ではなさそう。
ニッコニコでずっと笑顔だし。
しかし、実物目の前で初めて見たけど、本当に綺麗な人。
透き通るような白い肌に、キラキラの絹みたいな金髪と宝石みたいな碧眼。
見目麗しい王族同士…お似合いだわ。
「もう、ずっと妃教育漬けでね、話し相手が欲しかったの」
「そうですか。妃教育は順調ですか?」
「ええ、基本は殆ど同じなのだけれど…言語がね、
まだこっちの言葉に慣れなくて困っているの」
「え…でも、お上手ですよ?」
「日常会話くらいは、大丈夫になったのだけれど…
難しい専門用語が、なかなか覚えられないの」
「ああ、なるほど…」
「スノウスフィアさんて、貴族学院で成績が良かったのでしょう?
陛下にも勉強を教えてあげたとか…」
「いいえ、ノートを貸しただけです」
「それで、私の国の言語も得意だと聞いたわ」
「…学院の第二言語で学んだだけで、私も日常会話程度です」
『でも、この言葉は理解出来るのでしょう?』
『はい。理解はできます』
「ふふっ、じゃあ、お願いしようかしら」
「…え?何をですか?」
「私、妃教育でよく分からない箇所がちょくちょくあって、
質問しても教育係も、私の国のリソレイユ語が得意じゃないし、
私もルナイト語がまだ未熟で、意思の疎通が出来なくて困っていたの。
イグネシアス陛下は、リソレイユ語ペラペラだけど、
ほらあの方お忙しいでしょう?
だから、スノウスフィアさんに私と一緒に妃教育を学んで欲しいの」
「…へ?わ、私もですか?」
「そう、スノウスフィアさんは、表向きは私付きの女官になっているし、
側にいても問題ないでしょう?どうかしら?凄く助かるのだけれど…
それに知識はいくらあっても、困らないわ」
「あ~…お手伝いできればいいのですが、
でも、私が勝手にお返事する訳にはいきませんので…」
「ああ、そうそう、陛下には許可を貰っているの。
あなたが承知すれば、構わないって!」
「へっ?ああっ、そうですかっ」
「それに、おしゃべり出来る同性の知人が侍女以外に欲しかったの。
でも、ご迷惑…だったかしら…」
「………………」
こんなの…断われる訳ないじゃん。
……何だろう。
イグネシアスの奴、勝手に正妃様に許可出してるし。何企んでんだ?
こうして、私は何が何だか分からない内に、
妃教育を正妃様と学ぶ事になったのだった。
* * * * * * *
何故か、正妃様のフォローの名目で、
めでたく共に妃教育を学ぶ事になり、私はぐったりしていた。
正妃様は、気さくでニコやかで話しやすい人だし、問題ないのだが…
国内貴族達の把握は勿論、周辺国の王族の名前や経歴、派閥、家族構成…
そんなのまで覚えなきゃいけない。
そして、王国の歴史と周辺国の歴史。
もう学院時代の学びなど、私の脳みそは殆ど消去済みなのである。
久しぶりに勉強して、脳みそフル回転しまくりで物凄く疲れた。
妃教育はマナー以外は暗記要素が多くて、仕事の時と全然頭の使い方が違う。
言語も私は、母国語とリソレイユ語は取得済みだが、あと最低2カ国語位は、
覚えなきゃいけないらしい。うげぇ最悪。大丈夫か私の脳みそ。
イグネシアスは幼少より教育されているとはいえ、既に8カ国語を取得済みで、
奴の勤勉さと賢さに卒倒しそうになった。
「ねえ、何か企んでる?」
「お前が少しでも優位に立つ為にも必要だ。
それに、正妃と仲良くしておいて損はないだろう?」
イグネシアスに、正妃様と妃教育の件を訪ねたらこう返された。
まあ、もし企んでいてもペラペラ喋る訳ないか。
それに、確かに言う通りではあるのだが…何か誤魔化された感はある。
それって、将来私はあんたの愛妾になるから、正妃様と仲良くしておけって事?
そう問いたかったが、肯定されるのが怖かったし、
逃げられなくなりそうだし、その言葉はグッと飲み込んだ。
でも、イグネシアスが私を誘導して周到に下準備している予感はする。
それに、あの二人は絶対グルだ。
普通さ、自分の夫の近くに他の女が居たら嫌だろうに…
クリスティーヌ正妃様が、いやに協力的で友好的なのだ。
そして、貴族学院で学んだ王国の歴史をすっかり忘れていた私は、
覚え直し、もとい復習のために王宮図書館に来ていた。
ドーム状の天井は五階建てはあろう高さ、そして中二階まで本棚があり、
所狭しと膨大な書籍が保管してある。
ここは王宮務めの者しか入れない、貴重な資料だらけの図書館なのだ。
受付の司書さんに、王宮務めの女官証明書を提示し、
認証してもらい入室する。
魔石で稼働している検索パネルが至る所にあり、
分類やタイトル名や著者名で、探す事ができて、
その本をふわふわと自分の手元に自動で運んでくれたりする。
返却も同じ方法で出来て、自分で探す手間を省けるのだ。
うーん、便利。
本棚の前や、中央エリアに調べ物を広げて読める机と椅子があるが、
観葉植物の目隠しで区切ってあり、更に所々にソファも置いてある為、
休憩しにくる人も多く、憩いの場にもなっているのだ。
パラパラと分厚い歴史の本を捲りながら、
昔の戦争の文献が目に入り、ふと気がついた。
「…そういえば、正妃様の国って、今戦争真っ只中なんだよね?」
「ええ、そうですね。ご心配でしょうね…」
「うん。しょっちゅう手紙のやり取りしてるのをよく見るもの。
身内の無事を確かめ合ってるんでしょ…」
「我が国は、随分前から中立の立場を表明していますし、
魔力が強い国ですから…その辺で平和を保っていられるのが、
恵まれていますね」
「うん…」
強い力を持っている者には、不利を悟って本能的に歯向かってこない。
非常にわかりやすい弱肉強食の世界の構図。
それに、この王国の王族は、先祖代々厳しい教育のせいか、
国王は賢王と呼ばれ、外交の立ち回りと交渉が非常に上手く、
諍いを起こさない話術で、相手を平和的に丸め込むのだ。
そして、他国から多くを奪うより、自ら学んで尽力するのが、
一番の国の繁栄だと知っている。
「…今日から陰府暦だから、
王宮の周りにランタンの用意はしました」
「歴代の王族の分は?」
「はい。大丈夫です。あとは火事にならないように、
見廻りを徹底して…」
文官らしき人がヒソヒソ話している。
ああ、そうか。もうそんな時期なんだ。
“陰府暦” とは、死者の魂が行く暗い世界、“陰府” が、
この世の空間と交わる時期の事である。
──この時期は、夜に出かけては行けない。
陰府の世界がこの世と交差して空間が開くから、
もし死者や馬車に遭遇したら、連れて行かれるよ──
そう子供の頃から言い聞かされていた。
死んだ人達が、帰ってきて会いに来てくれる、
あるいは、悪い霊が陰府に連れて行こうとする。
どちらが正しいのかは分からない。
だから、信じたい方をみんな信じている。
家の前に帰ってきて欲しい先祖の死者の私物、
リボンやアクセサリーなどをランタンに結び、
門の前や玄関に、お迎えの灯りを置いている家が多いのだ。
そして、もう一つ不吉な伝承がある。
“陰府の王” が乗っている “棺の馬車”。
影のように立体感の無い漆黒の馬車が、その辺を神出鬼没で走り彷徨い、
それを見たり遭遇したりすると、馬車に押し込められて、
死者の世界に連れて行かれる。
そして、馬車に入りきれない程の魂でいっぱいになったら、
陰府に帰って行くという。
この期間は、古い伝承を信じていない好奇心旺盛な若者以外は、
夜は、よほどの用事が無い限り出歩かない。
窓の外へ目をやり、王都の街を見て私はリタに呟く。
「流石に、この時期は夜出歩いている人少ないね」
「やっぱり、迷信とはいえ怖いですから。
現にこの時期は、行方不明者が多いのは事実ですし…」
「殆どハメを外し過ぎて、事故死した馬鹿ばっかだけどね」
「ふふっ、でも本当に掻き消えてしまう人も、中にはいるのですよ」
「…う、あっ、やめっ…うわああああぁぁぁぁっ‼︎ やだあぁぁぁっ!」
突如、静かでだだっ広い王宮図書館に大声が響き渡って、
ビクリと肩を揺らし、皆一斉にそちらへ視線を移す。
居眠りしていたらしい文官が、机の上で顔を上げて茫然としている。
私は彼が心配になり、観葉植物の間から声をかけた。
「…どうしました?大丈夫ですか?」
「あ…いえ、煩くして申し訳ありません…
少しうつらうつらしてしまい…夢を…見たようで…」
「夢?良ければ聞かせてください」
「…はい…あの…」
彼が言うには、この図書館で短時間仮眠しようと、
机に突っ伏して寝ていたが、いつの間にか幽体離脱したみたいに、
自分の寝ている姿を上から見ていて、意識がフワフワと図書館を彷徨っていた。
そして、いきなり肩を掴まれ、ある本棚に引きずり込まれたそうだ。
「ああ〜…夢で良かった…感覚がリアルで怖かったです」
「…夢?白昼夢に近くない?」
「うわ〜、時期が時期だけに怖いですね」
「……ねえ、その引き摺り込まれた本棚覚えてる?」
「え?あ、はい…覚えてます」
「そこに案内して欲しいのだけど」
「お嬢様?」
「何か意味がありそうじゃない?陰府暦だし…」
ビクつく文官と共に、その例の本棚へ行く。
何の変哲もない、同じように並んでいる本棚。
彼は一番下の段の端っこを指さした。
「ここ?」
「はい、確か…角に肩ぶつけてズリズリされて痛かったです」
「ふ〜ん…」
そこは、童話などが並ぶ本棚で主に児童書が分類されていた。
私は膝をつき、下段の一番端の本を手に取り出してみる。
別に普通の童話の本だなぁ…意味なんてなかったのかしら。
更に本棚の奥を何気なく覗き込むと…何かの本の表紙が見える。
本の後ろに隠すように、もう一冊仰向けに置かれているのだ。
その本の手前にある、背表紙を向けて並ぶ書籍を何冊か引き出し、
奥に手を伸ばして本を引っ張り出す。
「まあ…なんですか?随分古い本ですが…」
「うん…表紙ボロボロで擦り切れてタイトル分かんないね。
中身は…童話みたい。児童書だよこれ。
挿絵もあるけど…古代語っぽくて、内容はよく分かんないわ」
「なんでこんな所に…
仕舞う時に、後ろ側に入ってしまったのでしょうか?」
「この本が出してくれって、文官殿に伝えたのかもねぇ…」
「わ、私はっ、そんな本、
見たことも聞いたことも食べたこともございませんっ!」
文官ビビリすぎ。
「…司書さんに、確認してみようか」
しかし、司書さんも知らないという。
書籍管理リストにも載っていないと首を傾げる。
結果、その謎の本は調査対象になり、
私が文部文化省に届ける事になった。
「……う〜ん、全然読めない。
挿絵見ると王子とお姫様の話っぽいけど…ドラゴン出てきたり何だろ…」
「古代語は無理ですよ。王族以外は」
「あ、じゃあ、イグネシアスは読めるんだ」
「そうですね、調査届けで提出する前に陛下に聞いてみますか?」
私室に戻ると、
ちょうどイグネシアスがドアの前に立っていた。
「おう、おかえりスノウ。気配がこっち向かってたから待ってたぞ」
「…図書館で勉強してたの。妃教育で忘れた歴史とか復習する為に」
「おお、真面目だな。偉いぞ」
「何で、そんな嬉しそうなのよ。こっちは大変だっつーのに」
「…ん?その胸に抱いてる本は何だ?」
「ああ、これ?実は…」
表紙をイグネシアスに見せて、事の次第を説明しようとすると、
彼は目を見開き体を跳ね上げ飛び上がった。そして私の手から本を引ったくる。
「こ、これ何処にあった⁉︎」
「知ってるの?あのね、図書館で文官が……」
奴はどうやら、この本を知っているようだ。
図書館での出来事を説明すると、
なんとも言えない嬉しそうな表情に変わる。
「そうか…やっと、認めてくれたんだな…」
「何のこと?その本、何?」
「ああ、そうだ。これは幼い頃に、祖母に取り上げられた俺の本だ」
「えっ!あんたの本だったの?」
「ああ〜、懐かしいなぁ…ははははっ…」
私の部屋で続きを聞くことになり、
ソファに座って本を開くイグネシアスを囲んで、その本をみんなで覗き込む。
「ボロボロだなぁ。俺が何度も読み返したから仕方ないが…」
「これ…どんな物語なの?」
「よくある内容だ。愛しい姫君を見染めた魔獣のドラゴンに拐われて、
彼女を取り戻しに行く途中で立ち寄る村で、色々な出来事があって、
その旅路が実にワクワクして楽しいのだ。
共に戦ってくれる仲間も増えて、無事ドラゴンを倒して姫君を取り戻し、
めでたし、めでたしって感じだ」
「へぇ〜、確かに面白そう。良かったら修復しようか?」
「いや、これは…このままでいい。
上製本が外れたり、糸かがり綴じがほつれたりしたら頼む」
「分かった。思い出の大事な本なのね?」
「ああ、チビの頃、古代語を学ぶ教材として父上から与えられたんだ。
でも、俺が気に入りすぎてこればっか読むから、他のも読んで勉強しろって、
あのババァ…当時の祖母、王太后に取り上げられたんだ」
「それで王太后様が、あそこに隠してたって訳?」
「ああ、多分な。約束したんだ。俺がある事が出来たら返してやるってな。
まあ、その前にババァ死んだけどな」
「約束って?」
「ん〜〜…………………秘密だ」
「えっ、ケチ!私が見つけてあげたのにっ!」
「ふははははーっ」
イグネシアスは突然立ち上がり、私をガバリと抱きしめ、
自分を軸にして、その場でぐるぐる回った。
遠心力がついて私の両足は外側にブンブン振られて浮いている。
「ちょっと、ちょっと!足浮いてる!浮いてる!怖いってばっ!」
「俺はババァに勝ったぞ〜、スノウスフィア!ふははははーっ♪」
「何言ってんのか、分かんないっつーのっ!」
“いいかい?イグネシアス。
お前がこの国の王妃にふさわしい相手を見つけたら、
これは返してあげるよ。約束する。ただし、私が認めた娘のみだ。
子供のお前には、こんな厳しい毎日は辛いだろうが、
それが王族に生まれた者の定めなんだ。
いつまでも空想の世界に入り浸って、現実逃避ばかりしてないで、
現実の世界でしっかり勉強して、知識をつけて立派な国王におなり。
その後に、趣味嗜好として空想の物語を存分に楽しむといい。
そして、誠実で真面目で賢く、逆境に強い王妃を選びなさい。
そうでなきゃ、お前と共に国を背負えないからね。
分かったかい?イグネシアス ”
「見たかババァ!俺は見つけたぞぉー!ふははははーっ!」
「離せーバカー!悪役国王ーっ‼︎ 助けてリター!」
「あ〜…嵐が過ぎるのを待つしかありません。頑張ってください、お嬢様」
「ゲロ吐きそー!いいのか?吐くぞ!本当に吐くぞー!」
「おお、いいぞ。吐け吐け!俺が許す!」
「こんの、へんたーい‼︎ 」
この後、吐きはしなかったが、私は見事に酔ってしまい、
勉強疲れもあって、朝までグロッキー状態で泥のように眠ったのだった。
* * * * * * *
「おお、この本は…」
覚えの悪いアマンに、もう少し分かりやすい教材をと、
書斎で探していたスカイホール伯爵は、懐かしい本を手に取っていた。
これは、スノウスフィアに基本で簡単な領地経営の内容だからと、
最初にあの子に渡した書籍だ。
あちこちに、スノウが自分なりに分かりやすく解釈した、
小さな紙に可愛い文字で書き込んだ、メモが沢山貼って挟んである。
「はははっ、ここ間違って解釈してるぞ…あいつめ」
出来た事を褒めてあげると、ぴょんぴょん飛び上がって喜んで、
目をキラキラさせていた。
「やっと分かりました!ありがとう、お父様。
お父様って凄い!色んなこと知っていて格好いい!
私、もっともっと勉強して、お父様みたいに立派な領主になります!」
素直で明るくて、よく笑う子だった。
そうだ…あの子は、そういう子だったじゃないか。
それが…いつしか、あんな…
「スノウスフィア…」
そのメモを手で撫でて、頭を下げて項垂れる。
何故……こんな事になってしまったのだ。
アマンが、スノウに呪いをかけた疑いがあると書かれた、
王宮からの手紙に、心臓が大きく鼓動して、息が止まりそうになった。
とにかく……スノウスフィアが無事で良かった。
スノウは一度危ない所だったが、王宮の魔術師が呪い返しをして、
夢に閉じ込められたスノウをローズ姉上が連れ戻してくれて事なきを得た。
同じ時間帯に、伯爵家の使用人が一人突然死しているし、
信じたくはないが、アマンが呪いをかけたのは事実だろう。
今回はローズ姉上の手助けもあり、一族連座での責任問題にはならなかったが、
アマンの魔力封印と徹底監視と管理を命じられた。
アマンの魔力は封じた。
だから、もう我々は二度と惑わされない。
しかし、なぜ…あいつは、あんなにもスノウを憎んでいるのだ…
スノウはアマンを邪険に扱ったり、虐めた事など一度もない。
ああ…そうか。
完璧に光り輝いて見える存在は、
その光に当てられ、自分の見たくない影が色濃く現れて自覚させられるのだ。
劣等感がある者には、眩し過ぎて目障りで嫌な存在に成り下がる。
私も、賢いスノウスフィアがメキメキと頭角を現し、
領地経営の件で口を出してきた時は、感嘆すると共に、
恥ずかしながら、自分を上回って来た娘の頭脳に悔しさと屈辱を感じて、
賢いスノウを生意気で憎らしいと思っていたのも事実だった。
下らない自尊心と矜持を守ろうと、素直に褒めてあげない事が多々あった。
私も…アマンの事を責められんな。
アマンの場合は、近しい手の届く姉妹という存在なのに、
自分と差があるのが我慢ならないのだろう。
同じ環境にいるはずなのに、なぜ差があるのか納得できないのだ。
それが羨ましいし、妬ましいし、ズルく感じてしまう。
だが、それは違うぞアマン。
スノウは、誰より努力していたのだ。努力している所を人には見せずにな。
夢渡り人として一族を支える責務と、そして領主としての責任感。
さぞあの細い肩には、重かったことだろう。
アマンにはその苦労が見えず、楽して手に入れたように見えたのだろう。
嫉妬や妬みは、誰でも持つ感情だ。
だが、アマンはそれをバネにして、
追い付こうと階段を上がって、努力する方向には向かわなかった。
階段を上り続けるスノウの足を引っ張り、
挙げ句の果てに、転落させようとしている。
それだけは阻止しなくては。
これは、あの子達の親としての責任だ。




