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◇第四話 パラウェス帝国


 皇子呼ばわりされた俺は、何故か用意されていた白い馬車に乗せられてしまった。周りの目というものがあって、何故か馬車を見てはコソコソする人達がいて仕方なくそれに乗りこんだ。門の近くだから門をくぐった者達に丸見えなんだって。


 一人寂しく、というか焦りつつも座り心地の良い馬車に揺られていた。これからどうなるんだろ、これはもう詰んだか? とまで考えてしまう。皇子だったなんて俺全く聞いていないんだけど。じいちゃん、そこら辺ちゃんと説明してほしかった。


 それか、ステータスにちゃんと書いてほしかった。勇者の孫よりそっちの方が大事だと思う。


 はぁ、ここに来てからもう驚く事ばかりで俺ついていけてないんだけど。



「……待てよ?」



 俺が皇子って事は、じいちゃんも皇族って事になる。皇族で勇者か……かっこいいな、じいちゃん。あぁ、もしかしたら魔王討伐後にお姫さまと結婚したパターンもあるな。すげぇな。無限倉庫の【ゴミ】だけは許せないけど。


 でも、一つだけ考えたくなかった事がある。俺が皇子、って事は……ここの皇帝が俺の親って事になる。さっき教えてくれた、あの噂が他人事にならない事になる。


 ……はぁ、なんてところに来ちゃったんだろ、俺。



「到着しました、殿下」



 ……俺、殿下じゃないんだけど。


 そんなツッコミは、降りた先に見えたこのどでかい城でかき消された。何だ、この世界遺産級のご立派なお城は。これは……観光旅行にしてほしかったな。世界遺産の旅、くらいがよかった。


 けれど、何ともお高そうな服を着た貴族を思わせる人達が、騎士のような装いをした者達と共に俺を迎えてくれた。



「おかえりなさいませ、殿下」



 ……いや、だから俺殿下じゃないから。



「お探ししておりました、皇子殿下」


「ようやくお姿を見られて、我々も安心いたしました」


「こんなご立派になられて……!」



 もうツッコむ気力すらなく、はいはいで流させていただいた。ただの高校性に大人が敬語なんて気持ち悪いわ。


 廊下を歩くたびに、痛い視線をグサグサと刺される。珍しい身なりの16歳が、大人たちに囲まれ「殿下」とまで呼んでいるのだから目立つに決まってる。


 ……なぁ、帰っていい?



 こちらへどうぞ、と部屋に招かれた。マンガとかでよくある貴族の屋敷の客間のような部屋だ。


 座らされたソファーの前に、「お茶をどうぞ」とティーカップを置かれてしまった。色を見るに、紅茶か、これ。高級品みたいなティーカップに、同じく高級品のような匂いのする紅茶。これ絶対手で触れちゃいけないやつだと思う。平凡な俺が恐れ多い。


 それから程なくして、また部屋の扉が開かれた。



「皇帝陛下でございます」



 その瞬間、顔が強張った。俺と、よく似た顔をする……男性。そう、だな……俺の親、って言ってもいいくらいの、年に見える男性だ。


 はは……これは、やられた。



「会いたかったぞ、我が息子よ」



 彼はソファーに座る俺に歩み寄り、手を握ってきた。


 俺は、一体どんな顔をすればいいのだろうか。全く記憶の中にいない、それでいて俺とそっくりな男性が、目の前にいる。もしかしたら……俺の、父親かもしれない。そう、思っても……どんな言葉を口から出せばいいのか、分からない。


 気を取り直して、俺の座るソファーの向かい側に座った皇帝陛下。そして、話し出した。



「ルイ、と呼んでもいいかな」


「……お好きなように」


「はは、例え父親(・・)でも物心つく前にしか会った事がない人物ではそういう態度になるな」



 やっぱり、俺の父親だったか。はっきりそう言われてすっきりしたけれど、でも落ち着かない。本当に、親なのか? という疑問が俺の中に残ってる。だって、俺の記憶の中にはいないのだから。


 父親も、母親も、ばあちゃんもいない。


 ずっと、じいちゃんしかいなかったから。



「だが気を遣わなくていい、私とルイが親子なのは紛れもない事実だからな。――ルイシス・レア・エルシア・パラウェス、君の本当の名前だ」



 そんなに長い名前だったんか、俺。覚えきれないなそれ。


 でも、表情とか、雰囲気とか、性格とかはじいちゃんと正反対に見える。もしや、じいちゃんの子はこの人の奥さんだろうか。そう考えると、最近亡くなった女帝は、じいちゃんと血の繋がった俺の母親って事になるな。



「ルイの祖父、私の義父であるアンリーク様は勇者の刻印を受け継いだ方だったんだ。そして、魔王を討伐し英雄となられた。その後はこの国の皇女と結婚なされたんだ」



 なるほど、そのパターンか。となると、やっぱりじいちゃんの子供は俺の母親か。じいちゃんとこの人が似ていないのも納得する。


 けれど、一番気になる部分は……じいちゃん、アンリークって名前だったんだ。地球じゃ違う名前だったよな。偽名ってやつか。



「皇女様とアンリーク様との間に出来た娘、セリシアは私の妻に当たる人だ。セリシアは一人っ子、だから王位継承を受けこの国の女帝となったんだ」


「……」



 この昔話は、俺の聞くべき話なんだと思う。けれど、他人事のように聞こえるのは何故だろう。今まで地球で日本人として生きてきたから、か。



「そして、16年前君を授かった。とても嬉しかったよ。私達の間には、中々子供が出来なくてね。やっと授かることが出来て、夢のようだったよ。……だが、その一年後、事件が起きルイがアンリーク様と共に行方不明となった」



 その事件とは、と聞きたかったけれど、その件についてはもう少し心の準備が出来てからでいいだろうかと言われてしまった。そう言われれば、はいとしか言えないな。


 その事件で俺とじいちゃんが日本に移り住んだ、って事になるのか?



「だが、戻ってきてくれて本当に嬉しいよ。私達の、血の繋がった息子とまたこうして会うことが出来た。夢のようだ。だが……もう少し早かったら、こんなに大きく立派に成長してくれたルイの姿を、セリシアも見られただろうに……」



 母親の名前が出てきて、一瞬身体が強張った。あの噂を思い出したからだ。


 けれど……



「……それで、ルイ。アンリーク様は」


「あ……数日前に亡くなりました」


「そう、か……」



 まぁ112歳まで生きてたけど。それは本当に凄いと思う。


 けれど、聞きたい。どうして、今のタイミングなんだ? 普通、俺達の昔話より先だよな。


 ……いや、俺の考えすぎか。でも、違和感はあった。



「では……今までどこにいたのかな」


「……」


「別れてから15年という月日が経ってしまった。私は、ルイの今までの話を沢山聞きたい。教えてくれないか」



 何故だろう。話したくなくなってしまう。相手は俺の親だ、血のつながった父親。一歳の頃から離れ離れになっていたのだから、教えるべきなんだろうけれど……乗り気がしない。ずっとじいちゃんが家族としか思っていなかったから? いや、違う。


 これは、この違和感は、何だろう。



「話しづらいか。ならゆっくりでもいい。これから時間はいくらでもある。母親はいないが、父親である私が一緒にいる。今までの失ってしまった時間を取り戻す事は出来ないが、これから一緒に思い出を作る事なら出来る」


「……」


「はは、ルイにとっては顔のそっくりな初めて会った親戚、くらいか。なら、それでもいい。ゆっくり、私の事を知ってほしい。それと同じく、私にもルイの事を教えてほしい」



 そう優しい言葉をかけて微笑む父親。とてもいい父親の模範のように見える。


 彼は、色々と昔話をしてきた。主に、じいちゃんと母親の話。


 でも、俺としては「へぇ……」くらいの相づちくらいしか出来なかった。現実味がないのと、乗り気じゃなかったから。


 それは何故? 自分の親の事なのに。


「それで、ルイ。大事な話があるんだ。……――【魔王の心臓】と【深海の宝石箱】」


「……?」


「今、持ってるかい?」


「え……?」



 いきなり真剣な顔を向けてきた。皇帝としての姿、と言っていいのかもしれない。



「その二つは、今までここで保管されていたのだが、〝あの事件〟で行方不明となってしまってね。その二つは実に危険なものなんだ。だからこの国で大事に保管していたのだが……もし持っているのだとしたら、こちらに渡してほしい」


「……」



 あったか? と、無限倉庫のシステムウィンドウを思い出す。いや、何となく見たような。【無限倉庫】の中に色々ありすぎてまだ全部は把握できてないけど、たぶんあった。


 相手は父親。それに危ないものであるならば、何も知らない俺より知っている彼に渡した方がいい。


 この目。


 目の前の皇帝(・・)の、俺を見る目。


 これは……



 ――信用しちゃいけない目だ。



 俺はすぐに立ちあがった。その行動に、皇帝は驚いた。いや、警戒するような驚きようだ。この顔を見て、俺は確信した。


 【魔王の心臓】と【深海の宝石箱】は、この男(・・・)に渡しちゃいけない。


 この部屋の窓に駆け寄り、思い切り窓を開けた。



「ルイッッ!!」



 窓枠に、飛び乗った。


 下を見ると、この部屋が凄く高い位置にある事が分かる。でも不思議と、怖くなかった。



「アンタが俺の父さんだって何となく分かるよ。でも……信用するかしないかは、俺が決める事だ」


「そこから降りなさい、落ちたら危険だ。私はもう息子を、君を失いたくない」



 息子、か……確かに、俺達は家族だ。だけど……


 俺の中での家族は、じいちゃんだけだ。



「もう、俺はアンタと話す事はない。 ……【精霊召喚】――黒炎龍アグスティン」



 何となく、説明書を読んでるような。そんな感覚があった。勝手に頭が動いてるというか。知らず知らずにそんな事を唱えていて、俺は窓から飛び降りた。


 何となく怖くはあったけれど、ちゃんと着地は出来た。何だかごつごつした硬い所に降りた事は分かったけれど、足元がいきなり動き始める。あ、さっき言ったな、黒炎()って。



「なッッ!!」


「ルイッッ!!」


「陛下ッッ!! お下がりくださいッッ!!」



 じゃあな。心の中でそんな事を呟きながら、父親に背を向けた。「飛べ」と黒炎龍にこの場から目の前の方向に飛ぶよう伝えて。それを聞いた龍は、一度吠えた後、その場から飛び立った。


 俺の名を呼ぶ父親の声は、聞こえたけれど聞こえなかった事にした。


 凄い風だったけれど、振り落とされないよう、ごつごつした鱗の隙間を思い切り掴んだ。まぁ高所恐怖症じゃなかったのは幸いか。



「【全域バリア】」



 俺を中心とした範囲にバリアを張った。透明ではあったけれど、俺を中心とした半径1mくらいの円形だ。


 ふぅ、これで風抵抗はないか。ここから落ちたとしてもバリアに落ちるだけ。これで安心安心。



「……なんか、ガッカリだったかも」



 事件があったみたいだけれど、何があったんだろ。俺があそこで生まれた事は事実。けれどじいちゃんがあそこから地球に連れ出した理由って何だったんだろう。死んじゃったからもう本人には聞けないな。言ってくれればよかったのに。


 まぁでも、いっか。俺がじいちゃんの孫だって事に変わりはないんだから。


 とにかく今は、あの国よりももっと遠く、アイツの目の届かない所に行きたい。せっかく異世界に来たんだ、アイツに邪魔されるなんて御免(ごめん)だね。


 アイツが欲しがってた【魔王の心臓】と【深海の宝石箱】って、一体どんなものなんだろうか。まぁそれは後で確認すればいっか。



「じいちゃん、俺、頑張って生きるから」



 どんな事件だったのか分からないけれど、俺が小さい頃にじいちゃんが助けてくれたみたいだし? ま、どうなるかはやってみなきゃ分からない事だけどさ。


 精一杯、生きてやろうじゃん。



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