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第95話:100階層・帰還の門

頂上に、到達した。


百階層。


広大な、円形の空間。


天井は、開いていて、何もない空が、見える。


床は、白い大理石。


中央に——巨大な扉が、立っていた。


【帰還の門】。


これまで見た、どんな扉よりも、大きい。


高さは、二十メートルを超える。


幅も、同じくらい。


表面には、古代の文字が、びっしりと、刻まれていた。


意味は、分からない。


でも、神聖な、空気が、漂っていた。


四人で、扉の前に、立った。


俺は、砕けた剣の柄を、胸に当てていた。


剣は、もう、ない。


柄だけが、俺の手に、残っていた。


でも——これで、十分だった。


これが、俺の、全ての積み重ねの、証だった。


翔が、扉を、見上げた。


「でけぇ……」


葵が、息を呑んだ。


「こんなに、大きな扉……」


美咲は、扉の文字を、見ていた。


「何が、書いてあるのかしら」


俺は、扉の表面を、見た。


塔の崩壊が、続いている。


後ろでは、次々と、壁が、崩れ落ちていた。


足元の床も、ひび割れ始めている。


「時間が、ない」


翔が、焦ったように言った。


「開けるのか、この扉」


俺は、扉に、近づいた。


——その時、気づいた。


扉の、足元に、一つだけ、小さな文字が、刻まれていた。


「門を、開けるな」。


一話で、休息の間で見た、あの警告。


過去の挑戦者たちが、残した言葉。


「門を開けるな」。


俺は、しばらく、その文字を、見つめていた。


「どうする、蓮」


翔が、聞いた。


俺は、考えた。


「門を開けるな」という警告。


でも——管理者である番人は、もう、解放されている。


番人が、縛られていたから、門を開けるのが、危険だった。


管理者の力が、途中で、何らかの影響を、及ぼすから。


でも、今は、管理者が、いない。


「開ける」


俺は、静かに、言った。


「番人は、解放された。門を開けても、危険はないはずだ」


翔が、頷いた。


「信じるぞ、蓮」


葵も、頷いた。


「帰りましょう」


美咲が、静かに言った。


「ここまで、来たから」


俺は、扉に、手を、かけた。


冷たい、石の感触。


——遥斗。


頭の中で、弟の顔を、浮かべた。


朝、寝起きで「おはよう」と言う顔。


夜、眠そうに「おやすみ」と呟く顔。


「待ってろ、遥斗」


俺は、小さく、呟いた。


「今、帰る」


扉に、力を、込めた。


翔も、扉に、手をかけた。


葵も、美咲も、それに、続いた。


四人の手が、同時に、扉に、触れた。


——光。


扉から、眩い、光が、溢れ出した。


これまで見たどんな光とも、違う。


温かく、柔らかく、全身を包み込むような、光。


塔の崩れる音が、遠ざかっていく。


石の砕ける音も、壁の崩れる音も、どんどん、消えていく。


代わりに——懐かしい、何かの音が、聞こえてくる。


朝、カーテンを開ける音。


キッチンで、鍋が、煮える音。


工場の、ライン作業の、単調な音。


全てが、混ざり合って、俺を、包んでいく。


「帰れる」


葵が、呟いた。


「本当に、帰れる——」


俺たち四人の、体が、光に、溶けていく。


光は、どこまでも、眩かった。


でも、温かかった。


俺は、目を、閉じた。


遥斗の顔が、最後に、浮かんだ。


「ただいま、遥斗」


声に、出した。


光に、意識が、吸い込まれていった。


最後に、男の顔が、脳裏に、浮かんだ。


何百年も、塔に縛られていた、あの男。


俺たちに、道を、開けてくれた男。


——ありがとう。


心の中で、もう一度、呟いた。


その想いが、光に、吸い込まれていくのを、感じた。


塔の、崩壊の音が、遠ざかる。


壁の、破片の音も、遠ざかる。


全てが、静かに、なっていく。


残されたのは、ただの、温かい光だけ。


光の向こうに、家がある。


遥斗がいる。


朝の光が、差し込む、いつもの部屋がある。


俺は、その光を、信じて、目を、閉じた。


全てが、終わった。


この長い、長い、ループの旅。


反復と、戦いと、別れと、再会の連続。


全てが、この、温かい光に、収斂していった。


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