第83話:最終決戦①『絶対的な壁』
戦闘が、続く。
翔が、連続突きを放つ。
男は、槍先を、剣の側面で軽く流した。
槍が、明後日の方向へ逸れる。
最小限の動き。
最小限の力。
男の戦い方は、無駄がなかった。
葵が、氷結領域を発動する。
男の周囲に、氷の壁が生まれる——前に、男が一歩、脇へ動いた。
氷が、男のいた場所に、空振りする。
「どうして、分かるんですか……!」
葵が、叫ぶ。
「先読みされてる」
美咲が、冷静に言った。
「私たちの次の行動を、全部、見えてる」
美咲が、矢を放つ。
男は、矢を、顔の横で受け止めた。
指で、つまんでいた。
「——」
美咲が、息を呑んだ。
俺が、飛び込む。
「単調斬り→疾風斬→回転斬→崩壊斬」
四連鎖。
反復18,000回の、俺の全力。
男の剣が、俺の四連鎖を、全て受けた。
カキン、カキン、カキン、カキン。
四つの、重い音。
男は、一歩も、下がらなかった。
「……嘘だろ」
翔が、絶句する。
「破壊神も倒した四連鎖だぞ」
俺は、後退した。
汗が、額から、流れた。
——強い。
これまで対峙したどの敵よりも、強い。
いや。
格が、違う。
「あいつ——」
翔が、息を切らしながら呟く。
「本気じゃないのか?」
俺は、その言葉に、気づいた。
戦闘を始めてから、男は、一度も、追撃していなかった。
攻撃は、してくる。
でも、全て、カウンター気味。
俺たちが、動いた瞬間に、最小限の力で、返してくる。
追い詰める動きは、ない。
追撃しようと思えば、できるはず。
時間停止を、もう一度発動すれば、俺たちは終わる。
だが、男は、それをしない。
「……手加減してる」
俺は、静かに、呟いた。
翔が、俺を見る。
「手加減?」
「俺たちの、力を、見ようとしている。本気で潰そうとしていない」
翔の顔に、複雑な色が、浮かんだ。
「それって、どういう意味だ」
「俺たちが——頂上に上がる資格が、あるかを、試している」
葵が、息を吸った。
「資格、って」
「強さだけじゃ、たぶん、足りない」
俺は、剣を握り直した。
「あいつが見ているのは、もっと、別の何かだ」
男が、再び、剣を振るう。
俺は、それを、かろうじて受けた。
全身が、震えていた。
反復18,000回の身体が、軋む。
男との実力差は、明確だった。
絶対的な、壁。
でも——希望も、ある。
男は、殺しに来ていない。
試している。
それなら——。
「全員で、仕掛ける」
俺は、叫んだ。
「バラバラに動かず、四人で、一つの塊になる」
翔が、頷いた。
葵が、杖を構え直す。
美咲が、矢を番え直す。
四人で、男に、一斉に突っ込んだ。
翔の連続突きが、左から。
美咲の矢が、右から。
葵の氷結連鎖が、前から。
俺の時間加速斬が、真上から。
四方向からの、同時攻撃。
男は——全てを、受けた。
剣一本で。
だが、初めて、男が、わずかに後ろへ、足を引いた。
「……動いた」
翔が、呟く。
「一歩、下がった」
俺は、息を、吐いた。
絶対的な壁。
でも、動かせる。
四人の力を、一つに束ねれば。
男が、俺たちを、見ている。
挑戦を、受け止めている。
俺は、息を、整えた。
翔が、槍を握り直す。
葵が、杖を構え直す。
美咲が、矢を番え直す。
もう一度、四人で、突っ込む。
もう一度、塊になる。
もう一度、壁を、動かす。
その繰り返しの、先に——答えが、ある気がした。
反復。
工場のライン作業。
単調な、繰り返し。
それが、俺の、全てだった。
戦いも、同じだ。
何度も、何度も、同じ動きを。
失敗しても、また、挑む。
壁を、少しずつ、削る。
それだけが、この男を、動かせる、唯一の方法だった。
俺は、歯を、食いしばった。
剣を、握り直した。
反復20,000回に、もうすぐ届く。
それが、鍵になる予感が、あった。
「もう一度——」
仲間に、短く、呼びかけた。
「いける」
翔も、葵も、美咲も、頷いた。
四人の呼吸が、揃っていた。
男も、俺たちを、待っている。
戦いは、まだ、続いていた。




