第79話:六周目・限界突破
六度目の、始まり。
三階層の休息の間で、翔を起こす。
葵を起こす。
美咲は、先に起きている。
何度目の、この光景だろう。
——でも、もう、慣れていた。
慣れていること自体が、少しだけ、胸に刺さる。
反復11,000回。
俺の単調斬りは、もはや、別次元に到達していた。
一階層の敵を、一瞥した瞬間には、斬り終わっている。
剣を抜く動作すら、必要ない。
拳を振るう速度で、単調斬りが発動する。
「……マジかよ」
翔が、敵を見た瞬間に絶句していた。
「お前、いつ斬ったんだ」
「抜いた時には、終わってた」
「抜いた時には、って、お前」
翔が、髪をかき乱す。
「もう、人外だぞ、それは」
俺は、少し笑った。
「反復の成果だ」
十五階層のクロノスは、数秒で終わった。
一撃。
単調斬りが、クロノスの核を、真っ二つに割った。
翔が「……呆気ない」と呟いた。
葵が「ありがたいけどさ」と笑った。
美咲は、何も言わない。
ただ、俺を、じっと見ていた。
【反復回数:15,000回突破】
システムメッセージが、視界に、浮かんだ。
一万五千回。
もはや、岩壁が、俺の単調斬りで砕ける。
防御を考える必要が、ほぼない。
俺に触れた敵は、一秒以内に、死ぬ。
それでも——君主は、別だ。
スキルを消す能力。
存在そのものを削る能力。
反復だけでは、対処できない。
「先に攻める」
俺は、剣を握りしめた。
「君主の能力が発動する前に、仕留める。そのためには、発動速度をさらに上げる必要がある」
翔が、頷く。
「お前の時間加速斬で、時間を稼ぐってことか」
「ああ」
「でも、今の時間加速斬の発動時間で、足りるのか?」
「足りない」
俺は、短く答えた。
「だから、伸ばす」
翔が、少し沈黙した。
「……できるのか」
「反復で、伸ばしてきた。今までも」
俺は、剣を見下ろした。
「六周目の俺は、五周目の俺より強い。それは、間違いない」
翔が、肩をすくめた。
「なら、信じる」
俺は、頷いた。
十六階層、二十階層、三十階層。
過去最速で、突破していく。
反復11,000回から、12,000回、13,000回と、数字が重なっていく。
四十階層で、美咲が、久しぶりに声を上げた。
「蓮」
「ん?」
「今日の攻略で、気づいたんだけど」
「何を」
「あなたの剣の軌道、前より、滑らかになってる」
「そうか?」
「前は、一撃一撃に、独立した動作があった。今は、流れが、途切れない」
美咲の観察は、いつも、正確だった。
「反復の積み重ねで、動作が、一つに繋がり始めてるんだと思う」
俺は、剣を見下ろした。
単調斬り。
疾風斬。
回転斬。
崩壊斬。
時間加速斬。
五つのスキル。
それが、もはや、一つの大きな動作の一部に、なりつつある。
——無限コンボ。
プロローグで、俺が見た、あの姿。
いつか、全てのスキルが、一つの大きな流れになる。
その兆しが、今、見え始めていた。
「蓮、今日の君は、いつもと違う」
美咲の目が、鋭かった。
「何かに、気づいたの?」
俺は、少し黙ってから、答えた。
「全てを、一つにする」
「一つに?」
「単調斬り、疾風斬、回転斬、崩壊斬、時間加速斬。五つを、一つの流れにする」
美咲が、頷いた。
「それが、無限コンボ、ね」
「ああ」
翔が、振り返って言った。
「なんか、蓮、今回は本当に気合入ってるな」
「この周で、君主を倒す」
俺の声に、迷いはなかった。
「そのために、全てを、出す」
五十階層の審判者を、一撃で撃破した。
六十階層の敵も、瞬殺した。
七十階層、七十五階層——破壊神は、三撃で終わった。
六周目の塔攻略は、過去最速の速度で、進んでいた。
八十階層。
八十五階層が、目前だった。
君主が、待っている。
俺は、歯を食いしばった。
「行くぞ」
四人で、階段を登り始めた。
塔の脈動は、相変わらずだった。
ドクン、ドクン、と、壁が呼吸している。
だが、今の俺は、その脈動すら、意識の外に、押しやれた。
集中。
ただ、君主を、倒す。
そのために、反復を、続けた身体。
全てが、そのためだけに、ある。




