第69話:75階層・四腕の破壊神②
第二ラウンドが、始まる。
破壊神が、四本の腕を構えた。
俺は、剣を握り直した。
攻撃パターンは、把握した。
斧、槍、剣と鎚の同時。
このサイクルの隙間を、突いていく。
「行くぞ」
短く、合図を出した。
破壊神が、斧を振り下ろす。
俺は、横に跳ぶ。
翔も、葵も、美咲も、事前に避ける位置に移動している。
斧が、床を砕く。
——次は、槍。
葵が、氷結連鎖を発動。
槍の軌道の前に、氷の壁を作る。
槍が、氷を貫くが、速度がわずかに落ちた。
その一瞬の隙に、俺が飛び込む。
「単調斬り」
破壊神の、槍を持つ腕の付け根を、斬る。
ガギィン!
亀裂が、深くなる。
——次は、剣と鎚の同時。
翔と美咲が、左右に分かれて避ける。
俺も、後退する。
剣と鎚の攻撃が、同時に床に叩きつけられる。
その瞬間。
破壊神の、全身の結晶が、一瞬だけ揺らいだ。
——ここだ。
「単調斬り」
俺が、飛び込む。
そのまま——連鎖する。
「疾風斬」
剣の軌跡が、空中に残る。
単調斬りの直後、一瞬の遅延もなく、疾風斬が発動する。
「回転斬」
身体を、一回転。
剣が、破壊神の胴体を、円を描いて斬り上げる。
「崩壊斬」
最後の一撃を、破壊神の胸の核に、叩き込む。
——四連鎖。
途切れない。
単調斬りから崩壊斬まで、一秒にも満たない連続攻撃。
一つの、巨大な破壊の奔流。
破壊神の、結晶の装甲に、大きな亀裂が走った。
「当たった……!」
翔が、息を呑む。
葵が、呆然と呟く。
「今の、四連鎖……プロローグの、あの」
俺も、気づいていた。
工場のライン作業。
単調な反復。
そこから生まれた、四つのスキルの完全な連鎖。
反復9,000回超。
ついに、四連鎖が、完全な形で発動した。
「行ける——」
俺が、もう一度、剣を構える。
体が、覚えている。
単調斬り、疾風斬、回転斬、崩壊斬。
四つの動作が、一つの流れに、完全に繋がった。
もう、考える必要がない。
考える前に、体が動く。
反復9,000回の、結晶だった。
もう一度、四連鎖を叩き込む。
「単調斬り→疾風斬→回転斬→崩壊斬」
ガギン、ガキン、ザシュ、ドゴォン!
破壊神の装甲が、また割れる。
亀裂が、全身に広がっていく。
「一撃、一撃が、重い……!」
俺の剣を握る手に、痺れを感じ始めた。
反復の極意の疲労軽減があっても、完全にゼロにはならない。
九千回の反復で、体そのものは、限界に近い。
でも、それでも、止めるわけにはいかない。
破壊神を、倒す。
その一点に、全てを賭ける。
「葵、氷結領域で、動きを止めろ」
「はい!」
葵が、魔法を発動。
「翔、陽動を頼む」
「任せろ!」
「美咲、目を撃て」
「分かった」
四人の連携が、完全に噛み合う。
葵が、破壊神の足を氷で封じる。
翔が、左右から連続突きで注意を引く。
美咲が、破壊神の目を狙って矢を放つ。
矢が、結晶の目を撃ち抜いた。
破壊神が、一瞬、硬直する。
その隙に、俺が三度目の四連鎖を叩き込む。
——装甲の、半分が割れた。
だが。
破壊神は、まだ動く。
倒れない。
「しぶとい——」
俺が、歯を食いしばる。
そのとき。
破壊神が、四本の腕を——同時に、動かした。
これまで、順番に振るっていた攻撃。
それが、一斉に、振るわれた。
四方向からの、同時攻撃。
「避けきれない——!」
俺の体に、四つの武器が、直撃した。
斧。
槍。
剣。
鎚。
全身から、血が噴き出す。
肋骨が、折れる音がした。
「蓮——!」
翔が、叫ぶ。
俺が、膝をつく。
視界が、揺れる。
「くそ……まだだ」
剣を、杖のようにして、立ち上がろうとする。
だが、体が、言うことを聞かない。
破壊神が、四本の武器を、振り上げる。
次の一撃で——俺は、死ぬ。
そんな気がした。
だが。
俺は、まだ諦めていなかった。
遥斗の顔が、脳裏に浮かぶ。
仲間の顔が、視界の端に見える。
まだだ。
まだ、倒れない。
次の一撃で、全てを賭ける。




