第68話:75階層・四腕の破壊神①
階段を、登り切った。
七十五階層。
広い、広い広間。
天井が見えないほど高い。
壁は漆黒の石で、脈動が最も激しい。
中央に——存在が、待ち構えていた。
全身が、漆黒の結晶で覆われた、巨人。
十メートルを超える体躯。
四本の腕に、それぞれ異なる武器。
斧、槍、剣、鎚。
【階層守護者:四腕の破壊神】
翔が、絶句していた。
「……でかい」
葵が、杖を握りしめる。
「こんなの、どうやって……」
美咲だけが、弓を構えて、冷静に言った。
「攻撃パターンを、早く把握するわよ」
俺は、剣を抜いた。
反復9,000回。
俺の、今の全力。
「行くぞ」
破壊神が、咆哮した。
空気が、爆発したように弾ける。
広間全体が、衝撃波で揺れる。
四人が、一瞬、後退する。
破壊神が、動いた。
右上の腕——巨大な斧が、振り下ろされる。
音速を超える速度。
俺が、横に跳ぶ。
ドゴォォォン!
床が、砕け散る。
破片が、四方に飛ぶ。
衝撃波だけで、俺は吹き飛ばされそうになった。
「『氷結連鎖』!」
葵の魔法が、破壊神の足元に氷を作る。
だが、破壊神は、氷を意にも介さず踏み砕く。
「効かない……!」
葵が、顔を蒼白にする。
「連続突き!」
翔が、槍で突っ込む。
結晶の装甲に、突きが当たる。
——弾かれる。
槍が、大きく跳ね返された。
翔が、地面を転がる。
「装甲が、硬すぎる」
俺は、歯を食いしばった。
美咲が、矢を放つ。
「炎矢乱舞」
十本の矢が、破壊神に吸い込まれるように飛ぶ。
全て、結晶の装甲に弾かれた。
「単調斬り」
俺が、飛び込む。
破壊神の、一本目の腕の側面を、斬る。
ガキィン!
手応えは、ある。
だが、浅い。
結晶に、小さな亀裂が走るだけ。
——これは、長期戦になる。
破壊神が、左下の腕の鎚を振るう。
床を叩きつけるような、重い一撃。
衝撃で、俺が吹き飛ばされる。
「くそ——」
立ち上がって、剣を構え直す。
【反復回数:9,000回突破】
視界にシステムメッセージが浮かぶ。
九千回。
それでも、まだ、破壊神には届かない。
「蓮、一旦引くか?」
翔が、息を切らしながら聞いてくる。
「まだだ」
俺は、短く答えた。
引いたら、次の周回では、絶対に倒せる保証はない。
反復が積み上がっている今、この状態で、観察できるだけ観察する。
「攻撃パターンを、見極める」
破壊神の四本の腕。
それぞれ、動きに癖がある。
斧は、上段から振り下ろす。
槍は、遠距離の突き。
剣は、斜めの斬り上げ。
鎚は、床を叩きつける。
——順番がある気がする。
斧。
次に、槍。
次に——。
「翔、葵、美咲」
俺が、叫んだ。
「こいつには、攻撃の順番がある」
三人が、俺を見る。
「上段斧の次は、遠距離突き。突きの後は、剣と鎚が同時。そのサイクルだ」
葵が、目を見開く。
「把握できたんですか」
「今、気づいた」
俺は、続けた。
「隙間を、突いていく」
破壊神が、次の攻撃を始める。
斧が、上段から振り下ろされる。
俺が、横に跳んで避ける。
——次は、槍だ。
槍が、遠距離から突かれる。
葵の氷が、槍の軌道を、わずかにずらす。
——次は、剣と鎚の同時。
翔と美咲が、左右に分かれて避ける。
俺が、その後の一瞬の隙に、飛び込む。
単調斬り。
破壊神の、胴体に一撃が届く。
ガギン!
結晶に、亀裂が走る。
だが、倒れない。
「まだ、浅い」
俺は、後退した。
「第一ラウンドは、引き分けだ」
広間の中心で、俺と仲間が、息を整える。
息が、切れていた。
反復9,000回超の俺でも、このクラスの相手は、久しぶりだった。
翔は、槍を杖のように突いて、肩で息をしている。
葵は、魔力の残量を気にしている。
美咲も、矢筒を確認していた。
破壊神は、まだ立っている。
装甲に、わずかな亀裂が入っているだけ。
翔が、荒い息の下で言う。
「こいつ、本気で倒せるのか」
「倒す」
俺は、短く答えた。
「次のラウンドで、決める」
破壊神が、再び咆哮した。




