第67話:五周目の蓮
五度目の、始まり。
三階層の休息の間で、翔を起こし、葵を起こす。
いつもの、やり直し。
美咲との合流は、八階層を越えた先。
今回も、それは変わらない。
だが、今回の俺は、これまでのどの周回よりも、速かった。
反復8,500回。
五周目の、俺。
剣を振るう速度が、これまでと明らかに違っていた。
序盤の階層の敵は、剣を抜くまでもない。
指先の動き一つで、単調斬りが発動する。
「おい、蓮——」
翔が、戦闘のたびに目を丸くする。
「お前、さっきの敵、どうやって倒した?」
「斬った」
「いつ? 俺、見てないぞ」
「瞬きの間だ」
翔が、絶句する。
五周目の塔攻略は、これまでにない速度で進んでいた。
仲間の連携も、最短で組み上がった。
俺は、翔への告白を、三周目より早く切り出した。
三周目では、クロノスの扉の前で告白した。
四周目では、もっと早く告白した——が、それでも十五階層を越えてからだった。
今回は、もっと早く切り出した。
十八階層の通路で。
翔の目を見て、単刀直入に言った。
「翔、お前に話したいことがある」
翔が、立ち止まる。
「なんだ、改まって」
「俺は、ループしてる。何度も、ここをやり直してる」
翔が、一瞬、目を見開く。
それから——長い沈黙の後、静かに頷いた。
「そうか」
「信じるのか?」
「お前、嘘つく奴じゃない」
翔が、少しだけ笑った。
「でも、一周目で言わなかったのは、なんで今?」
「時間が、ない」
俺は、短く答えた。
「頂上には、あいつがいる。もう、四度倒された。五周目で仕留めなきゃ、何周かかるか分からない」
翔が、頷く。
「任せろ」
葵と美咲への告白も、同じ日にした。
葵は、泣きながら頷いた。
美咲は、一瞬だけ目を伏せ、それから静かに「分かった」とだけ言った。
——何度、見た光景だろう。
葵の涙。
美咲の一言。
翔の頷き。
全部、ループごとに、ほぼ同じ形で繰り返される。
違うのは、俺の心の温度だけだった。
最初は、信じてもらえるかが怖かった。
二度目は、また同じ話をすることに痛みがあった。
三度目は、少しだけ慣れていた。
でも、五度目の今。
俺は、仲間の反応を、愛おしく思った。
「何度繰り返しても、みんなは、初めてなんだ」
——一周目の翔の驚き。
——二周目の葵の涙。
——三周目の美咲の静けさ。
——四周目の、三人の一息の後の「分かった」。
——そして、今。
全て、違う瞬間として、俺の中に積み重なっている。
「俺だけが、全部を覚えている」
内心で、そう呟いた。
仲間は、同じように反応してくれる。
それが、温かい。
四十階層を、過去最速で突破した。
五十階層の審判者。
単調斬り縛りのルール。
俺の単調斬りは、反復8,500回超。
もはや、審判者の単調斬りを圧倒する速度。
一撃で、装甲が砕けた。
翔が「蓮、お前今回は本当に人間じゃないぞ」と笑う。
俺は、何も言わなかった。
ただ、剣を鞘に戻した。
五十五階層の侵食者は、避けて通る。
四周目の壁の記録を見た葵が「避けるべきですね」と頷く。
回り道をして、六十階層へ。
六十五階層の、虚空の捕食者。
今回は、男は現れなかった。
四人の連携で、どうにか突破した。
そして——七十階層手前。
ここで、前回、男が立ちはだかった。
俺は、足を止めた。
翔が、振り返る。
「どうした、蓮」
「ここで、あいつが現れる」
俺は、静かに言った。
「今回は、こっちも構えていく」
四人で、武器を構える。
塔の脈動が、強くなる。
通路の先に、人影が——なかった。
「……いない?」
葵が、首を傾げる。
「出てこない、ってことか」
翔が、警戒を解かない。
俺は、しばらく待った。
男は、現れなかった。
「行くぞ」
俺は、短く言った。
四人で、七十階層の通路を進んだ。
男は、いなかった。
だが、塔の脈動は、ますます強くなっていた。
次は、七十五階層——プロローグの、あの戦いの場所だ。




