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第57話:単調の極致

階段を、ゆっくり登っていた。


五十階層クリアの余韻が、まだ残っている。


四人の足取りは軽いが、疲労もある。


翔が、前を歩きながら口を開いた。


「なあ蓮」


「ん?」


「俺の単調斬り、全然お前に届かなかったな」


振り返って、苦笑いする。


「練習してこなかったからなあ」


「当たり前だ」


俺が答えた。


「単調斬りは、連続突きの下位互換だ」


「それでも、お前の単調斬りは別格だった」


翔が、首を捻る。


「あれ、なんなんだよ」


俺は、少し黙った。


単調斬り。


俺が最初に覚えたスキル。


最弱の、ただの横薙ぎ。


でも——。


「単調な反復が、最強になる」


静かに、そう言った。


「それが、俺の力の本質だ」


翔が、立ち止まった。


葵と美咲も、足を止めてこちらを見た。


「単調な反復が、最強?」


翔が、聞き返す。


「ああ」


俺は、続けた。


「工場のラインでさ、毎日同じ作業を繰り返してた。同じ部品を、同じ手順で、同じ速度で組み立てる」


「聞いたことあるな、その話」


翔が、頷く。


「他の人間は、飽きてやめていった」


俺は、静かに言った。


「同じことを毎日やるのが、きついって。頭が腐りそうだって」


「まあ、分かる」


「でも俺は、苦にならなかった」


立ち止まって、階段の壁に手を当てた。


「遥斗のために、稼がなきゃいけなかった。単調でも、繰り返しでも、そこに意味があるなら——俺は続けられる」


翔が、黙って聞いている。


「この『反復の極意』は、そういう性格と噛み合ったんだと思う」


葵が、ゆっくり口を開いた。


「……私も、似てるかもしれません」


こちらを見る。


「デザインの仕事で、同じ図面を何十回も描き直すんです。色が違う、線が違う、角度が違う。細かい修正を、何度も何度も」


「そりゃ、気が狂いそうだな」


翔が言う。


「でも、私は嫌いじゃなかったんです」


葵が、少し笑った。


「一回ずつ、ほんの少しだけ良くなる。その積み重ねが、最終的に『いい仕事』になる。それが、好きで」


「反復が、仕事を作る」


美咲が、静かに呟いた。


「警察の訓練もそう。同じ射撃を、同じ距離で、何百回、何千回と繰り返す。飽きる人間は、現場で使えない」


「……なるほど」


翔が、頷く。


「俺、単調な作業、三日で投げ出す自覚ある」


「お前、大学で何してんだよ」


葵が、笑う。


「サークル」


「サークルだけかよ」


俺も、少しだけ笑った。


翔は、単調な反復とは、正反対の人間だ。


瞬発力と、その場の判断で生きてきた奴。


それでも——戦闘の連携では、俺と最も息が合う。


単調な反復で積み上げる者。


瞬間の判断で動く者。


両方があるから、成り立っている。


三人の言葉が、重なる。


俺は、剣を見下ろした。


「単調であることは、弱さじゃない」


声に出して、そう言った。


翔が、笑った。


「俺は単調な仕事、無理だけどな」


「お前は、そういう奴だ」


「否定しないのかよ」


「事実だろ」


葵が、吹き出した。


美咲が、珍しく口の端を上げる。


四人で、階段を登り続けた。


システムメッセージが、不意に視界に浮かんだ。


【反復回数:6,000回突破】


俺は、少し目を細めた。


六千回。


五千回突破からすぐだった。


この数日で、俺の単調斬りは、さらに研ぎ澄まされていた。


「蓮、どうした」


翔が、振り返る。


「いや」


俺が答えた。


「また、六千回を超えた」


「マジか」


翔が、目を丸くする。


「じゃあもう、単調斬りは単調斬りじゃないな」


「そうかもな」


俺は、少しだけ笑った。


最弱の単調斬り。


最強の、俺の単調斬り。


ただの横薙ぎが、ここまで来た。


——単調であることが、俺を強くしたんだ。


そう、胸の奥で、確認した。


階段の先から、冷たい風が吹いてきた。


五十一階層の、空気。


翔が「次は、どんな階層だろうな」と呟く。


「行けば分かる」


俺の答えも、いつもと同じだった。


翔が、笑った。


「お前、その台詞、何回言うんだ」


「この塔にいる限り、あと何回か」


俺も、少しだけ笑った。


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