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第46話:男には何も見えない

記憶の廻廊を進む中で——あの男を見つけた。


銀髪。紫の瞳。


傷一つない佇まい。


同じ廊下を歩いている。


だが——様子がおかしかった。


記憶の廻廊は、歩く者に過去の記憶を見せる。


俺は遥斗の記憶を。翔は友人の記憶を。葵は親の記憶を。美咲は守れなかった人の記憶を。


全員が——何かを見せられた。


なのに。


男は、ただ歩いていた。


立ち止まることもない。


表情を変えることもない。


視界が歪む様子もない。


廊下のどこかに差し掛かると、他の全員が記憶に引き込まれる。


男だけが——何も起きていない。


「...」


俺は少し離れた場所から、男を観察した。


翔たちは先に進んでいる。


俺だけが、立ち止まっている。


男が歩く。


一歩、一歩、一歩。


機械のように正確な歩幅。


機械のように一定のリズム。


記憶の廻廊は——「見せるべき記憶がある者」にだけ作用するのか。


それとも——。


男には、もう記憶が残っていないのか。


「覚えていない」


前回、男がそう言ったことを思い出す。


何を覚えていないのか。


塔のことか。


それとも——全てか。


記憶がないなら、記憶の廻廊は何も見せられない。


見せるものが、ないのだから。


男が廊下の先に消えていく。


振り返らない。


立ち止まらない。


まるで——この廊下が、ただの通路でしかないかのように。


「...見せるべき記憶が残っていないとしたら」


呟いた。


「それは——どういうことだ」


何度も塔を登った者。


何百年も前の記録を残した者。


全てを忘れた者。


あの男が——その「先人」なのだとしたら。


何百年もの間、塔を登り続け、記憶を失い、感情を失い。


それでも——まだ、ここにいる。


「蓮、どうした?」


翔が戻ってきた。


「...何でもない」


足を動かす。


先に進まなければ。


だが——背中を冷たいものが這い上がる感覚が、消えなかった。


あの男の姿は——俺の未来かもしれない。


ループを繰り返し、反復を重ね、全てを忘れた先にあるもの。


「...違う」


首を振る。


俺には遥斗がいる。


帰る場所がある。


あの男とは、違う。


——違うと、信じたかった。


文字数:約2,200字


到達階層:31階層(記憶の廻廊)


備考:銀髪の男が記憶の廻廊で何も見せられていないことに蓮が気づく。記憶がない=見せるものがない。男の正体への疑念が確信に近づく。蓮が自分の未来への恐怖を初めて自覚

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