第45話:記憶の廻廊②
廊下の終わりで、三人と合流した。
翔。葵。美咲。
全員の目が、赤かった。
誰も、すぐには何も言わなかった。
「...きつい階層だな」
翔が、最初に口を開いた。
いつもの軽い口調。でも——声が、少しかすれていた。
「翔さんも...見せられたんですか」
葵が聞く。
「ああ」
翔が天井を見上げる。
「友達がいたんだ。中学の頃。いじめられてた奴で——俺、最初はかばってたんだけど、途中から面倒になって、見て見ぬふりした」
淡々と話す。
「そいつ、転校しちまったんだよな。最後に目が合った時の顔が——ずっと忘れられない」
翔が、拳を握る。
「あいつに謝りたい。それが俺の帰る理由だ」
初めて聞く、翔の過去。
「...私は」
葵が、静かに話し始めた。
「親に『デザイナーになりたい』って言った時の記憶を見せられました」
声が震えている。
「父が——すごく失望した顔をして。『安定した仕事に就きなさい』って。母は何も言わなかった」
葵が杖を握りしめる。
「でも、私は後悔していません。デザインが好きだから。フリーランスで食べていけるようになったから」
涙を拭う。
「帰ったら——ちゃんと話したいです。私がどれだけデザインを好きか、伝えたい」
美咲は、しばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「守れなかった人がいるの」
短い言葉。
「機動隊に入る前。交番勤務の時。目の前で——救えなかった」
それ以上は、言わなかった。
美咲の目が、真っ直ぐ前を見ている。
「次は必ず守る。それが、私の理由」
四人分の過去。
四人分の帰る理由。
重い。
でも——温かい。
「帰る理由が、もっとはっきりしました」
葵が言った。
涙を拭いた後の顔は、強かった。
美咲が静かに頷く。
翔が鼻を啜って、笑った。
「まあ、泣いたのは内緒な」
「翔さん、目が真っ赤ですよ」
「お前もな、葵」
二人で笑い合う。
「行こう」
俺が言った。
四人で、廊下の先に進む。
記憶の廻廊は、心を抉った。
でも——折れなかった。
帰る場所がある。
帰りたい人がいる。
それがある限り、俺たちは前に進める。
文字数:約2,200字
到達階層:31階層(記憶の廻廊・後半)
備考:翔の過去(見捨てた友人への罪悪感)、葵の過去(親との葛藤)、美咲の過去(守れなかった命)が明かされる。四人の帰る理由が深まる




