第3話:反復の力、そして休息の間
「蓮!後ろ!」
葵の声で我に返る。
振り向くと、ゴブリンが二体、俺に向かって跳びかかってきている。
「ちっ!」
剣を構える。
でも、二体同時は──。
「氷結魔法!」
葵の氷の矢が、一体のゴブリンを凍らせる。
「ナイス!」
残り一体。
「単調斬り!」
剣を振る。
【反復回数:16回】
速い。さっきより確実に速い。
ゴブリンが避けようとするが、間に合わない。
剣が、ゴブリンの腕を斬り飛ばす。
「ギャアッ!」
「もう一回!」
「単調斬り!」
【反復回数:17回】
首を狙う。
剣が、ゴブリンの首を刎ねた。
【ゴブリンを撃破しました】
「よし...!」
広間を見渡す。
残りのゴブリンは──七体。
挑戦者は──二十人ほどが生き残っている。
でも、戦えているのは半分以下。
他は怯えて動けないか、負傷して戦闘不能だ。
「翔!葵!」
二人に声をかける。
「俺たちで、残りを倒すぞ!」
「ああ!」
「分かりました!」
三人で背中を合わせる。
「俺が前衛!翔は俺の左右をカバー!葵は後衛で魔法支援!」
「了解!」
「はい!」
ゴブリンが三体、こちらに向かってくる。
「来るぞ!」
最初の一体が跳ぶ。
「単調斬り!」
【反復回数:18回】
剣が、空中のゴブリンを斬る。
一撃で、胴を両断。
【ゴブリンを撃破しました】
【レベルアップ!Lv2→Lv3】
「レベルが上がった...!」
体が軽くなる。力が漲る。
「次!」
二体目のゴブリンが、横から襲ってくる。
「任せろ!」
翔の槍が、ゴブリンを串刺しにする。
「突撃槍!」
【ゴブリンを撃破しました】
「いいぞ!」
三体目は──。
「氷結魔法!」
葵の魔法が、ゴブリンを凍らせる。
「単調斬り!」
【反復回数:19回】
凍ったゴブリンを斬る。
氷ごと砕け散る。
【ゴブリンを撃破しました】
「残り四体!」
広間の反対側に、ゴブリンが固まっている。
他の挑戦者を襲っている。
「助けに行くぞ!」
「ああ!」
三人で走る。
ゴブリンの背後から斬りかかる。
「単調斬り!」
【反復回数:20回】
一体の背中を斬る。
【ゴブリンを撃破しました】
「突撃槍!」
翔が二体目を貫く。
【ゴブリンを撃破しました】
「氷結魔法!」
葵が三体目を凍らせる。
「最後の一体!」
残ったゴブリンが、俺たちに気づく。
でも、もう遅い。
「単調斬り!単調斬り!単調斬り!」
【反復回数:23回】
三連撃。
剣が、ゴブリンを切り刻む。
【ゴブリンを撃破しました】
静寂。
広間から、ゴブリンが全て消えた。
「...終わった?」
葵が呟く。
「ああ...終わった」
俺は剣を鞘に収める。
【一階層の試練をクリアしました】
【次の階層へ進むことができます】
広間の奥、暗闇だった場所に扉が現れる。
「あれが...次への扉か」
翔が言う。
周りを見渡す。
生き残った挑戦者たち。
二十人ほど。
最初は四十人以上いたはずだ。
つまり──半分以上が、死んだ。
床には、血の痕。
死体は消えている。おそらく、システムが処理したのだろう。
「こんなに...死んだのか...」
葵が震えている。
「...現実なんだな。これは」
翔が呟く。
「ああ。ゲームじゃない。本当に、死ぬ」
俺は拳を握りしめる。
遥斗の顔が浮かぶ。
「絶対に、死ねない」
「そうだな。俺もだ」
「私も...」
三人で、扉へと向かう。
他の生き残った挑戦者たちも、ゆっくりと扉へ向かっている。
みんな、顔が青ざめている。
恐怖。疲労。絶望。
でも──それでも、進むしかない。
帰るためには。
扉の前に立つ。
【二階層へ進みますか?】
【はい/いいえ】
視界に、選択肢が表示される。
「はい」
俺が答える。
扉が開く。
その先は──階段。上へと続く、螺旋階段。
「行こう」
「ああ」
「はい」
三人で階段を登り始める。
螺旋階段は長かった。
一階層分、登るだけで十分以上かかる。
「はぁ...はぁ...」
葵が息を切らしている。
翔も、肩の傷が痛むのか、顔を歪めている。
「大丈夫か?」
「なんとか...」
その時──。
階段の途中に、見慣れない扉があった。
「ん?これは...」
他の階層への扉とは違う。
青白く光る、美しい扉。
「何だろう...」
翔が扉に手をかける。
「入ってみるか?」
「敵がいたら...」
「でも、もし休める場所なら...」
葵が期待を込めた目で見る。
「...よし、入ろう」
扉を開ける。
その先は──。
「うわ...」
思わず声が出た。
広い空間。石造りの円形の部屋。
でも、今までの殺伐とした雰囲気とは全く違う。
柔らかな光が部屋全体を包んでいる。
そして、部屋の中央には──泉。
透き通った水が、湧き出ている。
光を放つ泉。
「綺麗...」
葵が呟く。
部屋の中には、他にも挑戦者が数人いた。
みんな、泉の周りで休んでいる。
傷だらけだった人が、傷が消えている。
「ここは...安全なのか?」
一人の男性挑戦者が、俺たちに気づく。
「ああ、新しい人たちか。安心しろ。ここでは敵は出ない。完全な安全地帯だ」
「本当ですか?」
「ああ。そして、あの泉の水を飲めば、傷も疲労も全て回復する」
「マジかよ...!」
翔が泉に駆け寄る。
水を掬い、飲む。
「っ...!」
翔の顔が、驚きに変わる。
「すげえ...肩の傷が...消えた!」
肩の包帯を外すと、さっきまであった傷が完全に治っている。
「俺も!」
俺も泉の水を飲む。
冷たく、甘い。
体中に、力が満ちていく。
脇腹の傷が、消えていく。
疲労が、嘘のように消える。
「本当だ...すごい...」
葵も水を飲み、目を見開く。
「体が...軽い...」
三人とも、完全に回復した。
「ここ、何なんだ?」
「俺たちは休息の間って呼んでる」
男性挑戦者が答える。
「休息の間...」
「ああ。階層をクリアして、次の階層へ向かう階段の途中に、たまに出現する。ここに来れたら、ラッキーだ」
「たまに...?」
「そう。毎回じゃない。不規則に現れる」
なるほど。
つまり、運が良ければ休める。
運が悪ければ、次の階層まで休めない。
「ありがとうございます」
「いいさ。お互い、生き残らないとな」
男性挑戦者が、壁に寄りかかる。
俺も周囲を見渡す。
壁は、ただの石壁。
でも──。
「ん?」
壁の隅、目立たない場所に、何か刻まれている。
近づく。
小さな文字。
【神谷 隆 - 15階層到達 - 2019.8.12】
「これは...」
さらに探すと、別の場所にも。
【田中 美咲 - 22階層到達 - 2015.3.5】
壁の高い場所にも。
【リチャード・スミス - 8階層到達 - 2020.11.20】
床に近い場所にも。
【李 明華 - 18階層到達 - 2017.6.3】
至る所に、散らばっている。
「これ...過去の挑戦者?」
「そうだ」
男性挑戦者が言う。
「この部屋は特別だ。過去のメッセージが残っている。年代も、場所もバラバラだがな」
「じゃあ、過去にも...大勢の人が召喚されてたのか」
「そういうことだ」
翔も壁を探し始める。
「他にもあるな...こっちにも」
葵も、壁の文字を見つける。
「2010年のもある...」
俺は、部屋中を探す。
すると──。
柱の裏側、ほとんど見えない場所に。
新しい文字。
【帰還するな。門を開けるな。─ 2024.12.1】
「2024年12月...つい最近じゃないか」
「門を開けるな...どういう意味だ?」
葵が不安そうに呟く。
「分からない...」
帰還の門。
塔の頂上にある、元の世界へ帰るための門。
それを開けるな、と。
「...警告、なのか?」
「でも、なんで?」
答えは、ない。
「とにかく、ここで休もう。次の階層、何が待ってるか分からない」
「そうだな」
三人で泉の近くに座る。
他の挑戦者たちも、黙々と休んでいる。
みんな、疲れ切っている。
「遥斗...」
スマホを取り出す。
圏外。当然だ。
でも、待ち受けの遥斗の写真は見える。
「待っててくれ。必ず、帰るから」
しばらく休憩し、体力を回復させた。
「行くか」
「ああ」
「はい」
部屋を出る。
扉が閉まる。
再び、螺旋階段。
「次は、二階層だ」
階段を登る。
一階層、クリア。
そして、休息の間で知った真実。
過去にも、大勢の挑戦者がいた。
そして、誰かが警告を残した。
「門を開けるな」
その意味を、俺はまだ知らない。
でも──。
「それでも、進む」
遥斗の元へ。
帰るために。
文字数:約2,600字
主人公レベル:Lv3
到達階層:1階層クリア→2階層へ
スキル:『単調斬り』Lv1
反復回数:累計23回
発見:休息の間、過去の挑戦者のメッセージ(壁に散らばっている)、「門を開けるな」の警告
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