第2話:塔の内部、最初の犠牲
塔の入口をくぐった瞬間、空気が変わった。
冷たい。湿っている。そして──重い。
「うわ...何だこの圧迫感...」
翔が呟く。
石造りの廊下が奥へと続いている。壁には等間隔で松明が灯され、揺らめく炎が不気味な影を作り出している。
天井は高く、十メートルはあるだろうか。廊下の幅も広い。五人が横に並んで歩けるほど。
「すごい...本当に塔の中なんだ...」
葵が周囲を見回す。
俺たちの後ろからも、他の挑戦者たちが続々と入ってくる。
三十人、四十人──いや、もっといるかもしれない。
「みんな、同じように召喚されたのか...」
「ああ。世界中から、かもな」
翔が言う。
廊下を進む。
足音が反響する。カツン、カツン、カツン。
自分たちの足音だけじゃない。後ろから続く、大勢の足音。
「緊張するな...」
「ですね...」
葵が杖を握りしめている。
俺も剣の柄に手をかける。
どこから敵が出てくるか分からない。
廊下は真っ直ぐ続いていたが、やがて左右に分岐点が現れた。
「どっちに行く?」
「...とりあえず、真っ直ぐでいいんじゃないか?」
「そうだな」
真っ直ぐ進む。
すると、廊下が開けた。
広間。
円形の、大きな空間。直径は二十メートルほど。天井はさらに高く、見上げると遥か上に石の天井が見える。
「ここは...」
広間の中央に、何かがある。
石でできた、台座のようなもの。
その上に、小さな光る球体が浮かんでいる。
「何だ、あれ?」
翔が近づこうとする。
「待て!」
俺が制止する。
「...何か、おかしい」
直感だった。
この広間、何かがおかしい。
「おかしいって、何が?」
「分からない。でも...」
その時──。
広間の奥、暗闇の中から、何かが動いた。
ガサッ。
「っ!?」
みんなが身構える。
暗闇から、『それ』が姿を現した。
──ゴブリン。
緑色の肌。尖った耳。ボロ布を纏った小柄な人型。
右手には錆びた短剣。
【ゴブリン Lv3】
「ゴブリン...!?」
葵が声を上げる。
ゴブリンが、俺たちを睨む。
そして──。
「ギャアアアッ!」
甲高い叫び声。
次の瞬間、暗闇から次々とゴブリンが現れた。
一体、二体、三体──。
いや、もっとだ。
十体以上。
「嘘だろ...!?」
翔が槍を構える。
ゴブリンたちが、一斉に襲いかかってきた。
「みんな、散れ!固まるな!」
俺が叫ぶ。
三人がそれぞれ別方向に跳ぶ。
ゴブリンが俺に向かってくる。
三体。
「くそっ!」
剣を抜く。
最初のゴブリンが短剣を振り下ろす。
「単調斬り!」
剣を横に薙ぐ。
ガキン!
ゴブリンの短剣と剣がぶつかる。
衝撃が腕に響く。
「重っ...!」
予想以上の力。
押し負けそうになる。
「ぐっ...!」
歯を食いしばって押し返す。
その隙に、別のゴブリンが横から襲ってくる。
「やばっ!」
咄嗟に身を屈める。
短剣が頭上を通り過ぎる。
危なかった。
「単調斬り!」
低い姿勢から、横薙ぎ。
剣がゴブリンの脚を斬る。
「ギャッ!」
ゴブリンが悲鳴を上げる。
でも、まだ倒れない。
三体目のゴブリンが、俺の背後に回り込む。
「しまった!」
振り返る暇がない。
その時──。
「氷結魔法!」
葵の声。
氷の矢が、背後のゴブリンに突き刺さる。
「ギャアッ!」
ゴブリンが凍りつく。
「助かった!」
「気をつけて!まだいます!」
葵が杖を構えている。
その周りにも、ゴブリンが三体。
「氷結魔法!氷結魔法!」
連続で氷の矢を放つ。
でも、ゴブリンは避ける。
魔法が壁に当たり、氷が砕け散る。
「くっ...当たらない...!」
葵が焦っている。
「葵!落ち着け!」
翔が叫ぶ。
翔の周りには、ゴブリンが五体。
「突撃槍!」
槍を構えて突進する。
槍がゴブリンの胸を貫く。
「ギャッ!」
一体撃破。
でも、残りの四体が翔を囲む。
「ちっ...多すぎる!」
その時──。
「ぎゃああああっ!」
悲鳴。
俺たちとは別の、他の挑戦者の声。
振り向くと──。
中年の男性が、ゴブリンに囲まれている。
武器は──剣。でも、まともに振れていない。
「誰か...助けて...!」
男性が叫ぶ。
ゴブリンが短剣を振るう。
「あっ...」
男性の腕が斬られる。血が噴き出す。
「いやだ...いやだ...!」
男性が後退する。
でも、背後にもゴブリンがいた。
「後ろ!」
誰かが叫ぶ。
でも、遅かった。
背後のゴブリンが、短剣を男性の背中に突き刺した。
「──っ!」
男性の目が見開かれる。
口から血が溢れる。
そして──。
崩れ落ちる。
ゴブリンが、倒れた男性にさらに短剣を振り下ろす。
一回、二回、三回──。
「やめろ...!」
翔が叫ぶ。
でも、届かない。
男性の体が、動かなくなる。
【挑戦者が死亡しました】
システムメッセージが、全員の脳内に響く。
「嘘...死んだの...?」
葵が震える。
「本当に...死ぬのか...」
翔も顔が青ざめている。
これは、ゲームじゃない。
死んだら、本当に終わりだ。
「くそっ...!」
俺は歯を食いしばる。
他の挑戦者たちも、パニックになっている。
「逃げろ!」
「出口はどこだ!?」
「助けてくれ!」
混乱が広がる。
そして、それに乗じてゴブリンたちが次々と襲いかかる。
また一人、悲鳴が上がる。
若い男が、ゴブリンに首を斬られる。
【挑戦者が死亡しました】
「ダメだ...このままじゃ全滅する...!」
俺の周りにも、まだゴブリンが二体いる。
「落ち着け...落ち着くんだ...」
深呼吸。
ゴブリンが襲ってくる。
「単調斬り!」
剣を振る。
空を切った。
「ちっ...!」
ゴブリンが避けた。
そして、カウンター。
短剣が俺の脇腹を掠める。
「がっ!」
痛い。血が滲む。
「もう一回...!」
再び剣を振る。
「単調斬り!」
またも空振り。
でも──。
「...速くなってる?」
さっきより、確実に剣の速度が上がっている。
【『反復の極意』が発動しました】
【同じ行動を反復することで、性能が向上します】
【現在の反復回数:2回】
脳内に、メッセージが響く。
「これが...俺の能力...!」
なら──。
「もっと振る!」
「単調斬り!単調斬り!単調斬り!」
剣を連続で振る。
三回、四回、五回──。
【反復回数:6回】
ゴブリンが避ける速度に、俺の剣が追いつき始める。
「単調斬り!」
七回目。
剣が、ゴブリンの肩を斬った。
「ギャッ!」
「当たった...!」
【反復回数:7回】
「もっとだ!」
「単調斬り!単調斬り!」
八回、九回。
剣の速度がさらに上がる。
ゴブリンが後退する。
焦っている。
「単調斬り!」
十回目。
剣が、ゴブリンの首を──。
届かない。
ゴブリンが跳んで避けた。
そして、別のゴブリンが横から襲ってくる。
「くそっ!」
二体同時は、まだ無理だ。
「蓮!」
翔の声。
槍がゴブリンを牽制する。
「助かる!」
「一体ずつ倒すぞ!」
「ああ!」
俺は一体に集中する。
「単調斬り!単調斬り!単調斬り!」
連続で剣を振る。
【反復回数:13回】
【反復回数:14回】
【反復回数:15回】
剣が残像を残し始める。
ゴブリンが避けきれなくなる。
「今だ!」
「単調斬り!」
剣が、ゴブリンの胸を貫いた。
「ギャ...ッ...」
ゴブリンが崩れ落ちる。
光の粒子となって消える。
【ゴブリンを撃破しました】
【経験値を獲得しました】
「やった...!」
でも、まだ終わりじゃない。
広間には、まだ十体近くのゴブリンがいる。
そして、挑戦者たちの悲鳴が響き続けている。
【挑戦者が死亡しました】
【挑戦者が死亡しました】
もう三人、死んだ。
「このままじゃ...!」
文字数:約3,200字
主人公レベル:Lv1→Lv2
到達階層:1階層(広間・戦闘中)
スキル:『単調斬り』Lv1
反復回数:15回
犠牲者:3名
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