表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/55

第38話:25階層・空中回廊

風が、吹き抜けた。


二十五階層。螺旋階段を登り切ると——空が見えた。


塔の外壁。


幅一メートルほどの石畳が、外壁に沿って伸びている。


右側は壁。左側は——何もない。


眼下には雲海。


遥か下には、大地が霞んで見える。


高い。


今まで塔の中にいたから意識していなかったが——とんでもない高さまで来ている。


「景色はすごいな」


翔が呑気に言う。


風に髪を揺らしながら、雲海を見下ろしている。


「翔さん、高いの平気なんですか...」


葵の声が、震えていた。


振り返ると——葵の顔色が、真っ白だった。


足がすくんでいる。


杖を握る手が、ガタガタと震えている。


「葵?」


「す、すみません...」


葵が壁にしがみつく。


「高いところが...ダメなんです...」


高所恐怖症。


今まで塔の中だったから、問題にならなかった。


「行けないかもしれない...すみません...」


震える声。


目に涙が浮かんでいる。


「こんな場所で立ち止まったら危ないわ」


美咲が冷静に言う。


事実だ。この狭い回廊で動けなくなるのは、それ自体がリスクになる。


「待てよ」


翔が、美咲を制した。


そして——葵の前に立った。


「葵」


「は、はい...」


「俺の手を握ってろ」


翔が、右手を差し出した。


「絶対に離さない」


葵が翔を見上げる。


涙の滲んだ目で。


「...翔さん」


「ほら」


翔が笑う。いつもの、屈託のない笑顔。


葵が、震える手で翔の手を握った。


「握ったか?」


「...はい」


「よし。じゃあ歩くぞ。ゆっくりでいい」


一歩。


葵の足が、前に出る。


「いい感じだ。もう一歩」


もう一歩。


翔が葵の手を引きながら、ゆっくりと歩く。


一歩ずつ。確実に。


風が吹くたびに、葵の体が強張る。


そのたびに、翔の手が強く握り返す。


「見ないで、前だけ見ろ」


翔が言う。


「...はい」


葵が、前だけを見る。


翔の背中だけを見る。


俺と美咲は、後ろからついていく。


美咲が、小さく息を吐いた。


「...いい男ね」


小さな声。俺にしか聞こえない。


「ああ」


回廊の半分を過ぎた。


葵の足取りが、少しだけ安定してきた。


翔の手を握りしめたまま、一歩ずつ。


そして——回廊の終わりが見えた。


石造りの入口。塔の内部に戻る扉。


あと十歩。五歩。三歩。


葵が——扉をくぐった。


「...渡れました」


震える声。


でも——笑っていた。


「言っただろ」


翔が笑う。


葵が翔の手を離す。


離した手を、自分の胸の前で握りしめた。


「ありがとうございます...翔さん」


「おう」


小さな勝利。


戦闘じゃない。ボスでもない。


恐怖を乗り越えた——それだけの、小さな勝利。


でも、それが一番大事なんだと思った。


文字数:約2,400字


到達階層:25階層(空中回廊)クリア


備考:葵の高所恐怖症が発覚。翔が手を引いて回廊を渡る。キャラクターの絆を深めるエピソード回

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ