第33話:柊、最後の邂逅
通路の奥に、人影があった。
十八階層の終盤。
黄金の回廊を抜けた先の、薄暗い石造りの通路。
その人影は——動かなかった。
壁にもたれかかり、座り込んでいる。
「誰かいる」
美咲が弓に手をかける。
近づく。
光が、人影の顔を照らした。
「——柊」
俺は、足を止めた。
柊誠。
最初に出会った頃とは、別人だった。
目が据わっている。
服は血で汚れ、あちこちが破れている。
剣は鞘に収まっているが、刃こぼれがひどいのが見えた。
そして——一人だ。
グループのメンバーは、誰もいない。
柊が、四人を見た。
一瞬だけ、動きが止まる。
敵意なのか。疲弊なのか。
その表情からは、判断がつかなかった。
「お前...一人か?」
翔が、声をかけた。
柊の目が、翔を捉える。
「...関係ない」
低い声。
吐き捨てるように。
かつての傲慢さとは、違った。
あの頃の柊は、余裕があった。他人を見下す余裕が。
今は——何かに追い詰められた、獣のような目をしている。
「仲間は?」
翔がもう一歩踏み込む。
「...いない」
それだけだった。
いない。
その一言に、全てが詰まっている。
美咲が、静かに弓を構えたままでいる。
万が一に備えて。
「柊さん、一緒に——」
葵が言いかけた。
「邪魔するな」
遮るように、柊が立ち上がる。
足元がふらつく。体力の限界が近いのは明らかだ。
それでも——踵を返し、通路の奥へ歩き始めた。
「おい——」
翔が追おうとする。
「やめろ、翔」
俺が止めた。
「...なんでだよ」
「追う理由がない」
冷たいことを言っている自覚はある。
だが——柊が望んでいないものを、押し付けるべきじゃない。
柊の背中が、暗闇に消えていく。
四人は、その場に立ち尽くした。
「...なんか、哀れですね」
葵が、小さく呟いた。
「最初に会った時は、あんなに偉そうだったのに」
「関わらなくていい」
翔が、静かに言った。
さっきまで追おうとしていたのに。翔なりに、何かを感じたのだろう。
「行こう」
翔が先を促す。
四人で歩き出す。
柊の背中を見送りながら、俺は思った。
人を変えるのは塔なのか。
それとも——元からあったものが、剥き出しになっただけなのか。
柊は最初から一人だった。
仲間がいた頃も。仲間を見捨てていた頃も。
本当の意味では、ずっと一人だった。
俺は——違う。
隣を歩く三人の顔を、横目で見た。
翔。葵。美咲。
俺には、仲間がいる。
それだけで、柊とは違う道を歩ける。
文字数:約2,200字
到達階層:18階層終盤
備考:柊と最後の遭遇。仲間を失い一人で彷徨う柊の姿。これが柊の最後の登場




