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第28話:翔への告白

三周目。十五階層。時の迷宮。


翔が、ずっと俺を見ていた。


「蓮、次の角は右だ」


俺が言うより先に、翔が口を開いた。


「...何?」


「いや、お前そう言うだろうなと思って。ここまで全部、お前の指示通りに来たからさ。次も右だろ?」


「......」


当たっている。


「蓮、この迷宮に入ってから、お前一度も迷ってない」


翔が歩きながら続ける。


「罠も全部避けた。敵の出現位置も全部知ってた。壁の文字を見て、何かを確信したような顔をした」


「...勘が——」


「勘じゃないだろ」


翔が足を止めた。


葵と美咲が、少し離れた場所で立ち止まる。


翔が俺に向き直る。


真剣な目。


「なあ蓮。お前、何度もここを経験してるんじゃないか」


心臓が跳ねた。


直感。


翔の直感は、いつも正確だ。


サッカーで補欠だったと言っていたが、嘘だろう。こいつの観察眼は、一流のアスリートのそれだ。


否定しようとした。


「違う」と言おうとした。


でも——翔の目を見て、できなかった。


あの目。


死ぬ直前まで、仲間を守ろうとしていたあの目と、同じだ。


「......」


長い沈黙。


迷宮の中に、歯車が回る微かな音だけが響いている。


「...翔」


「ああ」


「長い話になる」


「聞く」


一言。


それだけで十分だった。


俺は、話し始めた。


「俺は——ループしている」


翔の表情が変わらない。


黙って聞いている。


「この塔で全滅すると、三階層の休息の間に戻される。記憶を持ったまま、全てがリセットされて。レベルも、道具も、全部初期状態に。でも俺だけは——反復回数と記憶を引き継いでいる」


「...何回だ?」


「三回目だ。今が三周目」


翔が息を吐く。


「つまり——二回、全滅してるってことか」


「ああ」


「...俺たちも?」


「全員。二回、死んだ」


言葉にすると、重い。


翔が、何かを噛み締めるように顎を引く。


「俺が死ぬところも、見たのか」


「ああ」


「どんなふうに」


「...言わなきゃダメか」


「言え」


「——一回目は、クロノスの鎌で真っ二つに斬られた。一瞬だった」


翔の目が僅かに揺れる。


でも、目を逸らさない。


「二回目は」


「二回目は——時間圧縮で動きを封じられて、そのまま」


「...そうか」


沈黙。


長い沈黙。


葵が遠くから「大丈夫ですか?」と声をかけるが、翔が手を上げて待つように合図する。


「葵も美咲も、同じか」


「ああ。全員、二回死んだ。でも——お前たちは何も覚えていない。俺だけが覚えてる」


「...一人で、その記憶を背負ってきたのか」


「仕方ないだろ。言ったところで——」


「信じないと思ったか?」


「...分からなかった。信じてもらえるかもしれない。でも、信じてもらったとして、どうなるのかが分からなかった」


翔が、俺の目を真っ直ぐ見た。


数秒。


そして——。


「...そうか」


翔が言った。


「それでも俺はお前と一緒に戦う」


「......」


「ループしてようが、何回死んでようが。俺がここにいるのは変わらないだろ」


「信じるのか」


「お前が嘘をつくやつじゃないのくらい分かる」


翔が、笑った。


いつもの、屈託のない笑顔。


でも——その目には、覚悟があった。


「つーか、二回も死んでるなら三回目はもう慣れてるってことだろ。次は死なないように頑張るわ」


「...翔」


「軽く言ってるように聞こえるかもしれないけどさ。俺なりにマジで言ってる。お前一人に背負わせるのは、ダサいだろ」


目の奥が、熱くなる。


何かが、緩んだ。


ずっと一人で抱えていた重さが、ほんの少しだけ——軽くなった気がした。


「...ありがとう」


「礼を言うような話じゃねえよ。行こうぜ、蓮」


翔が拳を突き出す。


俺は、その拳に自分の拳を合わせた。


コツン。


小さな音。


でも——確かな、繋がり。


二人で前を向き、クロノスの扉へ歩き出す。


「葵、美咲、こっちだ。行くぞ」


翔が振り返って声をかける。


「は、はい!何の話してたんですか?」


「ちょっとした作戦会議。あとで説明する」


翔が俺を見る。


俺が頷く。


全員に——話すときが来た。


文字数:約2,600字


到達階層:15階層(時の迷宮・3周目)


備考:翔がループに気づき蓮が告白。翔が受け入れ、二人の絆が深まる

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