第29話:全員への告白
クロノスの扉の前。
四人で、向かい合う。
「話がある」
俺が言うと、葵と美咲の表情が引き締まった。
翔が隣で頷く。
「蓮、話せ。俺がフォローする」
「...ああ」
深く、息を吸う。
一度、翔に話した。だからもう一度、話せる。
「俺は——ループしている」
葵の目が、丸くなる。
美咲の表情は変わらない。ただ、弓を持つ手が僅かに強張った。
「全滅すると、三階層の休息の間に戻される。記憶と反復回数を引き継いだまま、全てがリセットされる。今が三周目だ」
沈黙。
歯車が回る音だけが、迷宮に響いている。
「二回、全滅した。お前たちは二回——死んだ」
葵の顔から、血の気が引いた。
「何度も...私たちが死ぬのを、見てきたの?」
声が、震えている。
「ああ」
頷く。
「翔は一回目に鎌で斬られて、二回目は時間圧縮で。葵は一回目に泣きながら消えて。美咲は...」
「いいわ。それ以上は」
美咲が静かに遮った。
表情は変わらない。でも——声に、微かな揺れがあった。
「一人で抱えてたんですね...」
葵の目に、涙が浮かぶ。
「ごめんなさい、気づけなくて...」
「謝ることじゃない。覚えていないのが普通だ」
「でも...!」
葵が唇を噛む。
涙が頬を伝う。
「蓮さんだけが全部覚えてて...一人で戦ってて...そんなの...」
「泣くな、葵」
翔が葵の肩に手を置く。
「蓮はこの話をするのに、相当な覚悟がいったはずだ。泣くのは——勝ってからにしろ」
翔の言葉に、葵がハッとする。
涙を拭う。
強い目で、こちらを見た。
「...はい。すみません」
「いや、謝らなくていい」
そして——美咲。
ずっと黙って聞いていた。
弓を握ったまま、微動だにしない。
やがて、静かに口を開いた。
「そう」
一言。
それだけだった。
「......」
全員が、美咲を見る。
美咲が、真っ直ぐ前を——クロノスの扉を見つめる。
「だから次こそ全員で生き残る。それだけよ」
迷いのない言葉。
揺るぎのない声。
元機動隊。修羅場を潜り抜けてきた女。
感情に流されず、やるべきことを見据える強さ。
——この人の強さに、何度も救われてきた。
美咲の一言が、場の空気を変えた。
葵が涙を拭いて、真っ直ぐ立つ。
杖を強く握る。
「...私も、次は絶対に死にません」
翔が拳を突き出す。
「よし、行くぞ。三度目の正直ってやつだ」
「翔さん、三度目なのは蓮さんだけですよ」
「細かいこと言うな」
葵が少しだけ笑った。
泣いた直後の、不器用な笑顔。
俺は——拳を出した。
翔の拳の上に、自分の拳を重ねる。
葵が、その上に細い拳を置く。
美咲が——一瞬だけ躊躇って、最後に拳を乗せた。
四つの拳。
四人の覚悟。
初めて——同じ記憶と、同じ覚悟の上に立った。
「蓮」
翔が言う。
「もう一人で背負うなよ」
「...ああ」
「朝倉さん」
葵が言う。
「次は私が守ります。絶対に」
「...ありがとう」
「蓮」
美咲が言う。
「作戦を聞かせて。全部」
いつもの美咲だ。
感情よりも、行動。
「分かった。クロノスの攻撃パターンは三つ。時間巻き戻し、時間停止、時間圧縮。それぞれの対処法を——」
俺は話し始めた。
二度の死から学んだ全てを。
全てを、共有する。
もう——一人じゃない。
四人で、クロノスの扉に向かって歩き出す。
重い扉に、手をかける。
「行くぞ」
「ああ」
「はい」
「ええ」
扉が、開く。
文字数:約2,400字
到達階層:15階層(時の迷宮・クロノスの扉前・3周目)
備考:四人全員にループを共有。同じ覚悟の上に立った初めての瞬間。クロノスの攻撃パターンと対処法を全員で共有




