第25話:二度目の全滅
目を開ける。
天井が見える。
石造りの、見覚えのある天井。
「...三階層か」
休息の間。
泉の水が、静かに湧いている。
柔らかな光が、部屋を照らしている。
体の傷は——消えている。
クロノスに斬られた肩も、掠めた頬も。全て元通り。
【反復回数:約1,800回。ループ3回目】
三回目の、ループ。
二度目の、全滅。
「...またか」
天井を見つめたまま、呟く。
泉の水面に、自分の顔が映る。
疲れた顔。
でも、傷一つない。
「おい蓮、起きてたのか」
翔の声。
振り返ると、翔が泉の水を飲んでいた。
何も覚えていない顔。
初めてこの泉を見つけたときと、同じ顔。
「...ああ。起きてた」
「なんか変な夢見たんだよな。光に包まれて、気づいたらここにいて」
「そうか」
同じ台詞。
一回目も、二回目も、翔は同じことを言った。
「葵は?」
「あっちで寝てる。もうすぐ起きるんじゃないか」
部屋の隅で、葵が静かに寝息を立てている。
何も、覚えていない。
誰も、覚えていない。
俺だけが——全てを覚えている。
翔が真っ二つに斬られたこと。
葵が涙を流しながら消えたこと。
俺が一人で戦い続けて、最後に目を閉じたこと。
全部。
「...」
泉の水を掬い、顔を洗う。
冷たい。
この冷たさだけが、現実を繋ぎ止めてくれる。
立ち上がり、壁に向かう。
前回のメッセージが、刻まれていた。
【時の迷宮で全滅。三階層に戻された。──朝倉蓮】
一回目のメッセージ。
そしてその隣には——ない。
二回目は、メッセージを刻む余裕がなかった。
今回は、残す。
剣の先で、壁に文字を刻む。
ガリ、ガリ、ガリ。
【2周目でも全滅。時間加速斬の持続を伸ばすこと。四人の連携が鍵。──朝倉蓮】
刻み終えて、一歩下がる。
二つのメッセージが並んでいる。
俺だけの記録。俺だけの証。
「俺は何周でも反復する」
自分に、言い聞かせる。
何度全滅しても。何度仲間が死んでも。
俺は繰り返す。
それが——『反復の極意』を持つ者の、戦い方だ。
「蓮ー、何してんだー?」
翔が近づいてくる。
慌てて壁の前から離れる。
「...いや。壁の落書きを見てた」
「落書き?」
翔が壁を覗き込む。
「『時の迷宮で全滅』...?物騒だな。誰が書いたんだ」
「さあな。過去の挑戦者だろ」
「ふーん。...あ、こっちにも何か書いてある。『2周目でも全滅。時間加速斬の持続を——』...時間加速斬?蓮、お前のスキルと同じ名前じゃないか?」
「...偶然だろ」
「偶然ねぇ」
翔が怪訝な顔をする。
だが、それ以上は追及しなかった。
「まあいいや。どうした蓮、また変な顔してるぞ」
「変な顔?」
「なんつーか...遠い目、っていうのか?ここにいるのに、ここにいないみたいな」
「...気のせいだ」
笑って誤魔化す。
翔が「そっか」と引き下がる。
その優しさが、少し痛い。
こいつは何も知らない。
こいつが死ぬのを、俺は二度見ている。
三度目は、絶対にない。
「行こう」
立ち上がる。
「え?もう?」
「時間がもったいない」
葵が目を覚ます。
「...おはようございます...ここ、どこですか?」
「三階層の休息の間だ。説明は歩きながらする」
急ぐ。
一秒でも早く、クロノスのところまで辿り着く。
今度こそ。
三周目。
今度こそ、クロノスを倒す。
俺は螺旋階段に足をかけた。
三度目の挑戦が、始まる。
文字数:約2,500字
到達階層:3階層(休息の間)※ループにより巻き戻し
反復回数:累計1,800回(ループ3回目開始)
備考:仲間の記憶・レベルは全てリセット。蓮のみ反復回数と記憶を引き継ぎ。壁にメッセージを刻む




