第24話:孤独な反復
広間に、俺一人が立っている。
翔が倒れている。葵が倒れている。美咲が倒れている。
三人の体は動かない。息はある。だが、それだけだ。
「俺一人でやるしかない」
クロノスが、ゆっくりとこちらを向く。
紫の眼窩が、嘲笑うように光る。
余裕のある動き。
こいつにとって、俺一人など脅威ですらないのだろう。
——関係ない。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:267回】
世界がスローモーションになる。
飛び込む。
「『単調斬り』!」
三連撃がクロノスの腕を叩く。
ガギィン!
弾かれる。
鎌が振り下ろされる。
横に飛ぶ。
床を転がり、すぐに立ち上がる。
「『疾風斬』!」
五連撃。
クロノスの脚部に叩き込む。
ガギギギギン!
浅い。装甲が硬すぎる。
鎌が横薙ぎに振るわれる。
しゃがんで避ける。
風圧で髪が乱れる。
あと数センチ低かったら、首が飛んでいた。
「『回転斬』!」
体を回転させながら斬り上げる。
クロノスの胸部に、僅かな傷。
——巻き戻される。
傷が消える。
「くそ...」
何度目だ。何度目の巻き戻しだ。
でも、止まらない。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:268回】
「『時間加速斬』!」
【反復回数:269回】
「『時間加速斬』!」
【反復回数:270回】
発動するたびに、持続時間が伸びている。
最初はコンマ一秒だった。
今は──コンマ三秒くらいか。
まだ短い。でも、確実に長くなっている。
クロノスの鎌が迫る。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:271回】
スローモーションの中で、鎌を見切る。
紙一重で避け、カウンター。
「『崩壊斬』!」
重い一撃がクロノスの肩に叩き込まれる。
ズガァン!
クロノスの体が、僅かに傾ぐ。
手応え。
今までで一番深い傷。
——でも。
【時間巻き戻し】
傷が消える。
「...分かってた」
分かっていても、やるしかない。
倒れた仲間たちの顔が、視界の端に映る。
翔の顔。葵の顔。美咲の顔。
「まだだ」
立ち上がる。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:272回】
斬る。
「『単調斬り』!『疾風斬』!『回転斬』!『崩壊斬』!」
四連鎖。全てのスキルを叩き込む。
ガギィン!ガギギギン!ズガァン!ドゴォン!
クロノスの体が揺らぐ。
——巻き戻される。
「まだだ」
「『時間加速斬』!」
【反復回数:273回】
斬る。巻き戻される。
斬る。巻き戻される。
斬る。巻き戻される。
同じことの、繰り返し。
単調な反復。
工場のライン作業と、同じだ。
カタン、カタン、カタン。
あの音が、頭の中に蘇る。
同じ動作を、何千回と繰り返した日々。
「...俺は、これが得意だったんだ」
反復すること。
繰り返すこと。
それだけが、俺の取り柄。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:280回】
持続時間が、さらに伸びる。
コンマ五秒。
少しずつ。確実に。
でも——体が限界に近い。
腕が重い。足が震える。
息が上がり、視界がぼやける。
クロノスの鎌が、肩を裂く。
「ぐっ...!」
血が噴き出す。
膝をつく。
剣を杖代わりにして、かろうじて立っている。
でも——今日の反復で、掴んだものがある。
時間加速斬の持続時間。コンマ五秒。
始めた頃の五倍だ。
四連鎖コンボの手応え。スキルとスキルの繋ぎ目が、確実に縮まっている。
そして——巻き戻しの発動前に、僅かな溜めがあること。
「...全部、覚えたぞ」
クロノスが、鎌を振り上げる。
最後の一撃。
俺の体は、もう動けない。
でも——頭の中には、勝利への道筋が見えている。
「次は必ず、四人で勝つ」
倒れた三人に向かって、心の中で誓う。
翔。葵。美咲。
今回で掴んだ全てを、次に繋げる。
クロノスの鎌が、振り下ろされる。
意識が遠のく暗闇の中、遥斗の笑顔が浮かんだ。
「...待ってろ」
これで終わりじゃない。
俺は——何度でも立ち上がる。
文字数:約2,500字
反復回数:累計280回(+14)※1,500回突破
備考:単独戦闘。時間加速斬の持続がコンマ五秒に到達。四連鎖コンボの原型を実戦で試行。巻き戻し前の溜めを発見。2周目全滅




