第22話:時喰いとの再戦①
扉の向こうに、そいつはいた。
青白い光に満ちた広間の中央。
巨大な骸骨のような体。両手に握られた、禍々しい鎌。
全身から溢れ出す、時間を歪める紫の波動。
【時喰いのクロノス Lv30】
「...っ」
翔が息を呑む。
「なんだ、あの威圧感...」
葵が一歩後退る。
美咲だけが、弓を構えたまま動かない。
俺は──知っている。
この威圧感も。あの鎌の軌道も。全て。
「来るぞ」
静かに言う。
クロノスの眼窩が、紫に光る。
空気が凍る。
「最初は時間巻き戻しから来る。翔、右に避けろ」
「は?」
翔が聞き返す暇もなかった。
クロノスの左手が振り上げられる。
紫の光が広間を包む──【時間巻き戻し】。
「右だ!」
「うおっ!」
翔が咄嗟に右へ飛ぶ。
直後、翔がいた場所の空間が歪み、時間が三秒前に巻き戻される。
もし避けていなかったら──三秒前の位置に強制的に戻され、鎌の軌道上に立っていたはずだ。
「な...今の、何だ...!」
「時間の巻き戻し。あいつの基本攻撃だ」
「なんでそんなこと分かるんだよ!」
「いいから聞け。次は時間停止が来る。葵、氷結領域で備えろ!」
「は、はい!」
葵が杖を掲げる。
「『氷結領域』!」
氷の壁が四人を包む。
直後──クロノスの右手が振り下ろされ、【時間停止】が発動する。
広間の空気が、凍りつく。
文字通りの、時間の停止。
氷結領域の外では、塵すら動いていない。
「...効いてる。葵の氷で、時間停止の範囲を弱められてる」
「でも...完全には防げてません...!」
葵の声が震える。
氷の壁に亀裂が走る。
時間停止の力が、氷結領域を侵食している。
「長くは持たない。今のうちに攻撃する」
俺は氷の壁を飛び出す。
時間停止の影響が、体にかかる。
動きが重い。空気が固い。
でも──。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:257回】
自分の時間感覚を加速させる。
世界が、変わった。
クロノスの動きが──スローモーションに見える。
一瞬だけ。ほんの一瞬だけ。
でも、その一瞬で十分だ。
「『単調斬り』!」
【反復回数:258回】
三連撃が、クロノスの胸部に叩き込まれる。
ガギィィン!
硬い。
だが──確かに、手応えがあった。
「当たった...!」
翔が叫ぶ。
「クロノスに攻撃が通った...!」
葵が目を見開く。
「今よ!」
美咲が弓を引く。
「『炎矢乱舞』!」
無数の炎の矢がクロノスに降り注ぐ。
ドドドドッ!
炎が装甲を焼く。
「翔!」
「おう!『貫通突き』!」
翔の槍がクロノスの脚部を貫く。
ズガァン!
クロノスの体が、僅かに揺らぐ。
「行ける...!」
四人の声が重なる。
──しかし。
クロノスの眼窩が、一層強く光る。
紫の波動が、広間全体に広がる。
【時間巻き戻し】
「...っ!」
空間が歪む。
今の攻撃が──なかったことにされる。
クロノスの胸部の傷が、消えていく。脚部の穴が、塞がっていく。
「嘘だろ...!全部戻ったのか...!」
翔が叫ぶ。
「ダメージが...リセットされた...」
葵が呆然とする。
これだ。
前回も、これにやられた。
時間巻き戻しによるダメージの完全回復。
どれだけ攻撃しても、巻き戻されれば意味がない。
「くそ...!」
翔が歯を食いしばる。
「どうすればいいんだ...!」
「...反復するしかない」
俺は剣を構え直す。
「時間加速斬の持続時間を伸ばす。巻き戻しより速く、致命傷を与えるしかない」
時間加速斬の発動時間は、今はわずか一瞬。
コンマ数秒。
それでは、巻き戻しの発動より先にクロノスを倒しきれない。
「もっと速く。もっと長く」
反復によってしか、解決できない課題。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:259回】
「『時間加速斬』!」
【反復回数:260回】
何度も、何度も発動する。
一回ごとに、持続時間が微かに伸びている——気がする。
でも、まだ足りない。
圧倒的に、足りない。
クロノスの鎌が振り下ろされる。
避ける。
反撃する。
巻き戻される。
避ける。
反撃する。
巻き戻される。
終わらない。
「蓮...!」
美咲が援護の矢を放ちながら叫ぶ。
「このままじゃジリ貧よ!」
分かっている。
でも——今は、反復するしかない。
「『時間加速斬』!」
【反復回数:261回】
発動した瞬間——気づいた。
さっきより、ほんの僅かだけ世界が遅い。
コンマ一秒。いや、それ以下かもしれない。
でも——確かに、伸びている。
「...見えたぞ」
クロノスの鎌の軌道。巻き戻しの発動前の、僅かな溜め。
反復すれば、届く。
この先に——勝機がある。
文字数:約2,600字
反復回数:累計261回(+5)
備考:時間加速斬でクロノスに初めて攻撃が通る。時間巻き戻しでダメージリセットされる課題が判明




