第15話:暗闇の果て、時間遡行
暗転。
静寂。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ、闇だけがある。
「...」
俺は、死んだ。
クロノスに、首を刎ねられた。
翔も、美咲も、葵も。
みんな、死んだ。
「終わり...なのか...」
真っ暗だ。
何も見えない。
「遥斗...すまない...」
暗闇が、俺を包み込む。
冷たい。
何も感じない。
ただ、闇だけ。
「これで...終わりか...」
遥斗を一人にして。
仲間を守れずに。
何もできずに。
「くそ...」
悔しい。
でも、もう何もできない。
暗闇の中で、ただ漂うだけ。
時間の感覚も、ない。
どれだけ、ここにいるんだろう。
一分?
十分?
一時間?
分からない。
でも。
その時。
何かが、変わった。
暗闇の中に、小さな光が差し込んできた。
「...?」
光が、徐々に大きくなる。
まぶしい。
「何だ...これ...」
光が、俺を包み込む。
温かい。
冷たかった体が、温かくなる。
「...!」
体が、軽くなる。
痛みが、消える。
さっきまで感じていた、胸の痛み。
首を刎ねられた感覚。
全てが、消えていく。
そして──。
【警告:時間遡行を検知しました】
突然、システムメッセージが表示される。
脳内に、直接響く声。
「時間遡行...?」
【『反復の極意』の真の能力が覚醒しました】
「真の能力...」
【死亡時、休息の間へ自動復帰】
【記憶は保持されます】
【ループ回数:1回目】
「ループ...」
「俺は...ループしている...?」
光が、さらに強くなる。
まぶしくて、目を開けていられない。
「うっ...」
全身が光に包まれる。
体が、浮き上がるような感覚。
そして──。
意識が、途切れた。
再び、目が覚める。
「...ん?」
体が、温かい。
痛みは、ない。
「俺は...生きてるのか...?」
目を開ける。
見慣れた天井。
石造りの、円形の天井。
泉の音が聞こえる。
チョロチョロと、水が流れる音。
「ここは...」
体を起こす。
周りを見渡す。
泉がある。
柔らかな光が、部屋を包んでいる。
そして──。
翔と葵が、泉の近くで寝ている。
「翔...葵...」
二人は、無事だ。
傷もない。
血も流れていない。
服も、破れていない。
まるで、何もなかったかのように。
「生きてる...」
俺は立ち上がる。
体に、痛みはない。
胸を触る。
さっき、鎌で貫かれたはずの胸。
でも、傷一つない。
服も、血で汚れていない。
「何が...起きた...?」
周囲を見渡す。
この部屋。
【休息の間】
「休息の間...?」
でも、どこの休息の間だ?
十五階層の後に、休息の間なんてあったか?
「いや...」
壁の隅を見る。
見覚えのある、文字。
【頂上に到達した。門を開いた。しかし──帰れなかった。─ 2018.10.5】
「これも...前にも見た...」
床に近い壁を見る。
【「この感覚は何だ」「記憶が曖昧だ」】
「これも...」
全部、見覚えがある。
でも、いつ見たんだ?
「...!」
思い出した。
【三階層クリア後の休息の間】
「なんで...ここに...」
俺たちは、十五階層にいたはずだ。
時の迷宮で。
クロノスと戦って。
翔が、真っ二つに斬られて死んだ。
美咲が、首を刎ねられて死んだ。
葵が、斬り裂かれて死んだ。
俺も、胸を貫かれて、首を刎ねられて、死んだ。
「全滅した...はずだ...」
でも、生きている。
ここに、いる。
全てが、繋がった。
『反復の極意』。
同じ行動を反復するほど、強くなる能力。
それは、スキルだけじゃない。
時間にも、適用される。
死んだら、最後の休息の間に戻る。
そして、記憶を保持したまま、再挑戦できる。
「これが...俺の能力の本当の意味...」
「時間をも、反復する...」
俺は、壁の前に立つ。
床に近い、壁の角。
目立たない場所。
何も刻まれていない、綺麗な壁。
「ここに...残す」
俺は、腰のナイフを取り出す。
刃先を、壁に当てる。
そして、ゆっくりと文字を刻み始める。
ガリガリと、石を削る音。
【時の迷宮で全滅。三階層に戻された。】
そして、最後に名前を刻む。
【- 朝倉 蓮】
「これで...もし次のループで記憶が曖昧になっても...」
「この文字を見れば、思い出せる」
その時、翔が目を覚ます。
「ん...おお、蓮。よく寝てたな」
翔が欠伸をする。
「...翔」
「ん?どうした?顔色悪いぞ」
「お前...覚えてるか?」
「何を?」
「十五階層...時の迷宮...クロノス...」
翔が首を傾げる。
「十五階層?何言ってんだ?」
「俺たち、まだ三階層だぞ?」
「え...」
葵も目を覚ます。
「おはようございます...あれ、蓮さん、どうしたんですか?」
「葵...お前も覚えてないのか?」
「何をですか?」
「時の迷宮...クロノス...お前が死んだこと...」
葵が不思議そうに俺を見る。
「蓮さん...夢でも見たんですか?」
「私たち、まだ三階層ですよ?」
「...そうか」
二人とも、覚えていない。
俺だけが、覚えている。
時の迷宮。
クロノス。
仲間が死んでいく光景。
翔が真っ二つに斬られる光景。
美咲の首が宙を舞う光景。
葵が涙を流しながら消えていく光景。
全て。
「...俺だけか」
俺だけが、記憶している。
ループしていることを。
クロノスの強さを。
全てを。
「蓮?どうしたんだ?」
翔が心配そうに聞く。
「...いや、何でもない」
俺は、立ち上がる。
「ちょっと、変な夢を見ただけだ」
「そうか...無理すんなよ」
翔が安心したように笑う。
葵も、優しく微笑む。
「あまり無理しないでくださいね」
「ああ」
俺は、二人には言わないことにした。
ループのこと。
クロノスのこと。
言っても、信じてもらえないだろう。
それに──。
次のループでは、二人は忘れてしまう。
覚えているのは、俺だけ。
「俺だけが、記憶を持っている...」
それが、『反復の極意』の本当の力。
文字数:約2,900字
主人公レベル:Lv20→Lv15(巻き戻り)
到達階層:15階層(時の迷宮)→3階層(休息の間)へ時間遡行
スキル:記憶は保持、レベル・スキルは巻き戻り
反復回数:記憶の中では172回、実際は巻き戻り
ループ回数:1回目
状況:クロノス(Lv30)に全滅後、暗闇の中でシステムメッセージを受け取り、時間遡行が発生。五階層の休息の間で目覚め、ループを認識。壁にメッセージを刻む。




