第14話:絶望の殲滅、終わる世界
扉の先は──円形の広間。
天井が高く、壁一面に時計の文字盤が刻まれている。
十二の数字が、ぐるりと壁を囲む。
そして、広間の中央に──。
巨大な人型の影。
全身が漆黒で、顔は見えない。
右手には巨大な鎌。
左手には、時計。
【時喰いのクロノス Lv30】
「レベル...30...!?」
俺たちは、レベル20。
レベル差、十。
「嘘だろ...」
翔が呆然とする。
「今までで最大の差...」
美咲が唇を噛む。
「レベル30...勝てるの...?」
葵が震える。
クロノスが、ゆっくりとこちらを向く。
顔のない頭部が、俺たちを「見て」いる。
そして──。
低く、不気味な声が響く。
「...時ハ、終ワル」
次の瞬間。
クロノスが、一瞬で俺たちの目の前に現れた。
「速っ!?」
鎌が振り下ろされる。
「散れ!」
四人がバラバラに跳ぶ。
ドガァン!
鎌が地面を砕く。
巨大なクレーターができる。
石畳が粉々に。
「やばい...!」
でも、まだ終わりじゃない。
クロノスの左手の時計が、逆回転を始める。
カチカチカチカチ──。
そして──。
時間が、巻き戻る。
「え!?」
さっき散開したはずの四人が、元の位置に戻される。
「なっ!?」
「何が起きた!?」
再び、鎌が振り下ろされる。
「くそっ!」
今度は横に跳ぶ。
でも──。
時計が再び逆回転。
カチカチカチ。
また、元の位置に。
「冗談だろ!?」
「時間を巻き戻してる!?」
三度目の鎌。
「'氷結領域'!」
葵が氷の壁を展開する。
鎌が氷の壁に激突。
バキィン!
氷が砕け散る。
でも、一瞬だけ時間を稼げた。
「今のうちに!」
四人が散開する。
クロノスが、今度は翔を狙う。
「来るか!」
翔が槍を構える。
「'貫通突き'!」
強化された槍が、クロノスに向かう。
しかし──。
クロノスが時計を掲げる。
時間が、停止する。
カチ...
世界の音が、消える。
翔の動きが止まる。
槍も止まる。
空中で、完全に静止している。
「!?」
俺たちも、動けない。
いや、動いている。
でも、翔だけが止まっている。
「時間停止...!?」
クロノスが、止まった翔に近づく。
ゆっくりと。
そして──鎌を振るう。
時間が動き出す。
カチ。
「えっ!?」
翔の胸が、斬られる。
「ぐあっ!」
血が噴き出す。
深い。
致命傷だ。
「翔!」
俺が叫ぶ。
翔が膝をつく。
「くそ...こいつ...何なんだ...」
胸から、大量の血が流れる。
顔が、青ざめている。
でも、まだ立ち上がろうとする。
「翔!動くな!」
でも、遅かった。
クロノスが、再び鎌を振り上げる。
「翔!逃げろ!」
翔が槍を構える。
「まだ...戦える...!」
でも、体が震えている。
力が入っていない。
クロノスの鎌が、翔を薙ぎ払う。
ガシャッ!
「ガハッ...!」
翔の体が、真っ二つに斬られる。
上半身と下半身が、別々に地面に落ちる。
「翔ああああっ!」
葵が悲鳴を上げる。
翔の体が、光の粒子となって消えていく。
「嘘...嘘でしょ...」
葵が震える。
「翔が...死んだ...」
【結城 翔が死亡しました】
システムメッセージが、冷酷に告げる。
「くそ...くそおおおっ!」
美咲が矢を放つ。
「'炎矢乱舞'!」
十本以上の矢が、クロノスに向かう。
矢が、炎の軌跡を描きながら飛ぶ。
しかし──。
クロノスが時計を掲げる。
時間が、停止する。
矢が、空中で止まる。
「何...」
クロノスが、止まった矢を全て叩き落とす。
ガラガラガラ。
矢が、一本ずつ地面に落ちる。
「嘘...」
時間が動き出す。
クロノスが、美咲に向かう。
「まずい!」
美咲が避けようとする。
でも、クロノスの方が速い。
一瞬で距離を詰める。
鎌が、美咲の腹を薙ぐ。
「がっ...」
美咲が膝をつく。
腹から、内臓が見えるほどの深い傷。
血が、止まらない。
「美咲!」
俺が駆け出す。
でも、間に合わない。
クロノスが、鎌を振り上げる。
「やめろおおおっ!」
鎌が、美咲の首を刎ねた。
「あ...」
美咲の首が、宙を舞う。
体が、崩れ落ちる。
そして、光の粒子となって消えていく。
【桜庭 美咲が死亡しました】
「美咲...」
葵が、恐怖で動けなくなっている。
「嘘...みんな...死んじゃった...」
両手で杖を握りしめている。
体が、震えている。
クロノスが、葵に向かう。
ゆっくりと。
まるで、獲物を楽しむように。
「葵!逃げろ!」
俺が叫ぶ。
でも、葵は動けない。
恐怖で、足が竦んでいる。
「動けない...体が...動かない...」
涙が、頬を伝う。
クロノスが、葵の目の前に立つ。
鎌を振り上げる。
「やめろおおおおっ!」
俺が全速力で走る。
剣を構える。
「葵に...触れるな!」
でも──。
遅い。
距離が、遠すぎる。
鎌が、葵の体を斬り裂く。
「あ...」
葵の目から、涙が流れる。
「ごめんなさい...みんな...」
「私...役に立てなくて...」
葵の体が、光の粒子となって消えていく。
【藤崎 葵が死亡しました】
「葵いいいいっ!」
俺は、叫ぶ。
全員、死んだ。
翔も、美咲も、葵も。
全員。
残るは、俺だけ。
「くそ...くそおおおおっ!」
涙が溢れる。
怒りが、全身を駆け巡る。
「許さない...絶対に...許さない!」
剣を握りしめる。
クロノスが、ゆっくりとこちらに向かってくる。
「...時ハ、終ワル」
「ふざけるなあああっ!」
俺が突進する。
「'単調斬り'!」
【反復回数:166回】
三連撃が、クロノスを襲う。
シュッ、シュッ、シュッ!
ガキン、ガキン、ガキン!
弾かれる。
「'疾風斬'!」
【反復回数:167回】
五連撃。
ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン!
やはり弾かれる。
「'回転斬'!」
【反復回数:168回】
全方位斬撃。
ガキン、ガキン、ガキン!
全て弾かれる。
「'崩壊斬'!」
【反復回数:169回】
重い一撃。
ガギャァン!
わずかに、ひびが入る。
でも、それだけ。
「なんで...!」
「なんで通らないんだ!」
もう一度、全力で振る。
「'単調斬り'!'単調斬り'!'単調斬り'!」
【反復回数:172回】
何度も、何度も。
三連撃、三連撃、三連撃──。
ガキン、ガキン、ガキン!
でも、全て弾かれる。
傷一つつかない。
「くそ...くそおおおっ!」
俺の腕が、痺れる。
剣を握る手が、震える。
血が滲んでいる。
「なんで...なんでこんなに...硬いんだ...」
クロノスが、時計を掲げる。
時計が、速く回り始める。
カチカチカチカチカチカチ!
速度が上がる。
時計の針が、ぐるぐると回る。
「まずい...!」
次の瞬間。
クロノスの動きが、加速する。
いや、加速というレベルじゃない。
一瞬で、俺の目の前に現れる。
「!?」
鎌が、俺の胸を貫く。
「がっ...」
痛い。
全身が、痛い。
血が、口から溢れる。
「は...あ...」
膝が、崩れる。
地面に、倒れる。
視界が、揺れる。
暗くなっていく。
「遥斗...すまない...」
弟の顔が、浮かぶ。
笑顔の遥斗。
「兄ちゃん、いつ帰ってくるの?」
いつもそう聞いてくれた。
「ごめん...遥斗...」
「帰れない...みたいだ...」
クロノスが、鎌を振り上げる。
最後の一撃。
俺の首を、刎ねるために。
「くそ...」
「俺は...ここで...終わるのか...」
鎌が、振り下ろされる。
そして。
俺の首が、刎ねられた。
【朝倉 蓮が死亡しました】
【全滅しました】
文字数:約3,000字
主人公レベル:Lv20
到達階層:15階層(時の迷宮・ボス戦)
スキル:『単調斬り』Lv10(三連撃)、『疾風斬』Lv1(五連撃)、『回転斬』Lv1、『崩壊斬』Lv1
反復回数:累計172回
状況:クロノス(Lv30)との圧倒的レベル差。時間操作により、翔、美咲、葵が次々と死亡。蓮も全力で攻撃するが全く通じず、全滅。




