第9話:迷路階層、葛藤と救済
六階層は、意外にもあっさりとクリアできた。
毒の沼地。紫色の霧が立ち込め、地面からは毒液が湧き出ている不気味な空間。
敵は【ポイズンスライム Lv11】が数体。
三人の連携で、難なく撃破できた。
「毒は厄介だったけど、葵の氷魔法で凍らせれば動きが鈍るな」
翔が言う。
「レベルも上がってきたし、少し余裕が出てきたかも」
葵も少し自信がついた様子。
【六階層をクリアしました】
扉が開く。
螺旋階段を登る。
そして──七階層。
七階層。
階段を登り切ると──石造りの巨大な迷路だった。
「迷路...か」
見渡す限り、石の壁。
天井は高く、十メートルはある。
壁も高く、上を越えることはできそうにない。
「進むしかないな」
三人で、迷路に入る。
迷路は、複雑だった。
左に曲がり、右に曲がり、また左に。
同じような景色が続く。
「どっちに進めばいいんだ...」
翔が呟く。
「分からない...でも、進むしかない」
しばらく進むと──。
「待って!」
葵が叫ぶ。
俺が立ち止まる。
「どうした?」
「この床...色が微妙に違う」
葵が指差す。
確かに、床の一部だけ、わずかに色が違う。
「罠...か?」
「たぶん」
俺が石を拾い、その床に投げる。
ガシャン!
床が開き、石が奈落に落ちていく。
底が見えない。
「...危なかった」
「葵の観察眼、助かる」
翔が笑う。
「気をつけて進もう」
罠を避けながら、慎重に進む。
落とし穴、毒ガス、炎の壁、矢の罠──。
様々なトラップが、俺たちを襲う。
でも、観察眼でなんとか避けている。
【ゴブリントラッパー Lv9】という罠を仕掛ける敵も数体現れたが、三人の連携で撃破した。
そして──。
「あれ...」
迷路の一角で、穴に片手でぶら下がっている人影を見つけた。
「誰かいる!」
近づく。
穴の縁に、一人の男が必死にしがみついていた。
「た、助けて...!」
男の声。
見覚えがある。
「お前は...!」
四階層で、俺たちを襲ったグループの一人だ。
【山崎 健太 Lv7】
柊のグループのメンバー。
「お、お願いだ...助けてくれ...!」
山崎が必死に懇願する。
指が滑りそうになっている。
「おい、あいつ...」
翔が俺の袖を引く。
「俺たちを襲った奴だぞ」
「...分かってる」
俺は拳を握りしめる。
助けるべきか。
それとも、見捨てるべきか。
あいつらは、俺たちを襲った。
魔石を奪おうとした。
場合によっては、俺たちを殺していたかもしれない。
「た、頼む...柊に...見捨てられたんだ...」
山崎の声が震えている。
「魔石が...足りないからって...仲間を見捨てやがった...」
「!?」
「トラップに引っかかって...俺が穴に落ちそうになったとき...柊は...見向きもせずに先に行っちまった...」
山崎の目から、涙が流れる。
「俺は...魔石を渡せなかったから...価値がないって...言われたんだ...」
山崎の指が、さらに滑る。
「助けて...死にたくない...頼む...」
俺の中で、葛藤が渦巻く。
こいつは、俺たちを襲った。
でも──。
見捨てられた。
仲間に見捨てられた。
それは、どれだけ辛いだろう。
もし俺が、翔や葵に見捨てられたら。
遥斗が、誰かに見捨てられたら。
「...くそっ!」
俺は走る。
穴の縁に飛び込む。
山崎の手を掴む。
「っ...!」
重い。
「翔!手を貸してくれ!」
「...ちっ、仕方ねえ!」
翔も駆けつける。
二人で山崎を引き上げる。
「はぁ...はぁ...」
山崎が穴の縁に這い上がる。
そのまま、地面に倒れ込む。
「あ、ありがとう...本当に...ありがとう...」
山崎が泣いている。
「...礼はいい」
俺は立ち上がる。
「でも、聞きたいことがある」
「何でも...答える...」
「柊は...今どこにいる?」
「分からない...でも、多分...もっと上の階層だと思う...あいつは...魔石に取り憑かれてる...もう、まともじゃない...」
「そうか」
「それと...一つ、情報がある...恩返しに...」
山崎が震える声で言う。
「十階層に...鍛冶屋がいる...」
「鍛冶屋?」
「ああ...武器を強化してくれる...魔石があれば...柊が言ってた...俺も聞いてたんだ...」
「!」
それは貴重な情報だ。
「ありがとう」
「いや...助けてくれたのは、お前らだ...俺は...あんなことしたのに...」
山崎が立ち上がる。
「俺は...もう戦えない...怖くて...下の階層で...安全な場所を探す...本当に...すまなかった...」
山崎が深く頭を下げる。
「...気をつけろよ」
「ああ...お前らも...お前らは...いい仲間を持ってるな...大切にしろよ...」
山崎が迷路の奥へと消えていく。
「...良かったのか?」
翔が聞く。
「あいつ、俺たちを襲ったんだぞ」
「分かってる。でも...」
俺は拳を握りしめる。
「俺は、遥斗に胸を張って帰りたい」
「誰かを見捨てて帰るような兄貴には、なりたくない」
翔が、少し笑った。
「お前らしいな」
「私も...助けて良かったと思います」
葵が優しく微笑む。
「それに、山崎さん...本当に後悔してたみたいだし」
「ああ。あいつも、被害者なのかもな」
「柊が...人を変えたのか。それとも、塔が人を変えるのか...」
重い空気が流れる。
「...行こう」
俺たちは迷路を進む。
罠を避けながら、敵を倒しながら、少しずつ正解の道を見つけていく。
そして──。
ようやく、出口の扉が見えた。
「やっと...!」
【七階層をクリアしました】
扉を開け、螺旋階段を登る。
八階層へ。
「次は...何が待ってるんだろうな」
「どんな階層でも、乗り越えてみせる」
「鍛冶屋...楽しみだな」
俺たちは、階段を登り続けた。
文字数:約2,000字
主人公レベル:Lv10
到達階層:7階層クリア→8階層へ
スキル:『単調斬り』Lv5(二連撃)、『疾風斬』Lv1(五連撃)、『回転斬』Lv1
反復回数:累計67回
所持アイテム:魔石×3
新情報:十階層に鍛冶屋がいる
登場キャラクター:山崎健太(柊グループに見捨てられた元メンバー、救助される)
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




