第99話:外出イベント(前編)
固定イベントの良いところは、スケジュールが決まっていることだ。
「本当に出てきましたね」
公爵家の裏口を見張っていたジュリアが、小さな声で話しかける。クリスは無言でうなずいた。
「なぜ、こんなことをする必要があるんだ」
そばにいるシリルが、苦い顔をしている。クリスは真顔で言い返した。
「ちょっと気になることがあってね。イヤなら君は帰っていいよ」
今回も、服を用意したのは彼だ。そのままついてきているが、クリスとしては無理に付き合わせる気はなかった。だが、シリルはフンと鼻を鳴らす。
「ふざけるな。お前が危険な目にあうかもしれないと分かっていて、離れるわけがないだろう」
「大げさな」
クリスが笑う。ジュリアは自分の手を見つめた。
(……確かにな。男が他にいたほうが、安心できるか)
心は男だが、今の体は運動したこともない貴族令嬢だ。そのことに、彼女は少し落ちこんでしまう。
「どうかした?」
クリスはすぐに、ジュリアの変化に気づいて声をかけた。彼女は気を取り直して、顔を上げる。
「……いいえ、なんでも。見失う前に、早く追いかけましょう」
ポウムとパットは、3人には気づかず街の外に向かっていく。ジュリアはその背を追いながら、クリスの手を引っぱった。彼も逆らわず、一定の距離を取って歩く。シリルは黙って、目を細めた。
(……やはり、逆だな)
大切な兄と姉。2人の中身が見た目とは違うことを、彼はすでに察していた。
(それに、きっとオレには話していない何かがある)
心の中に、暗いモヤがたまる。
(なぜだ、兄さん……。オレのことが、信じられないのか? オレは兄さんを信じているのに)
ジュリアが懐に手を入れる。シリルは素早く、その手を掴んだ。
「……姉さん」
低い声。強い力に、ジュリアは驚いて立ち止まる。クリスは慌てて間に入った。
「待って、シリル。どうしたの、急に……」
「急じゃない。オレはずっとイヤだった。……兄さんにすべてを差し出したのに、兄さんはオレに何もうちあけてくれない。オレたちは家族なのに……」
シリルがクリスをにらみつける。彼はその視線を受け止めて、真剣な顔で足を止めた。
「……君の気持ちはよく分かった。シリル・ノーランド。僕は君がどうしてもと言うなら、すべてを話してもいいと思っている。だけど今は時間がないんだ」
ジュリアが黙ってうつむく。シリルは掴んでいた手を離した。その姿を見て、クリスは続ける。
「……ポウムとパットが無事に屋敷に戻れたら、必ず話す。今は僕を信じてくれ」




