第98話:おやすみなさい
馬車が王宮の前で止まる。ジュリアは眠っているクリスの体を揺さぶった。
「ん……」
彼はすぐに目を開ける。ボンヤリとした視界に、彼女が映った。
「もう、ついたの?」
「ええ」
短い会話をかわしながら、馬車から下りる。王宮の門をくぐって、2人は前と同じ客室に向かった。
「……今さらだけど、一緒に寝てるよね、僕たちって」
ベッドに入るときに彼は言った。ジュリアはそこで、はたと気づく。
「言われてみれば、そうですね」
流れで一緒に寝ているが、意識すると急に恥ずかしくなってきて、彼女は頬を赤らめた。
「ねえ、ジュリア……」
クリスはマジメな顔をしている。男でもイケメンだと思う顔が近づいて、彼女は戸惑ったように目をそらす。
「な、なんですか?」
「僕は本気だよ。君のことを大切にしたいから、手は出さないけど」
「それは、その……。ありがとうございます」
沈黙が落ちる。しばらくしてから、ジュリアは言った。
「……私も、あなたのことが大好きです」
「ありがとう。……でも、それは君がジュリアになったからじゃない?」
「……違います」
目線を戻して、彼女は彼の青い目を見た。互いの真剣なまなざしがぶつかる。
「俺も、お前のことを愛してるんだ。だから気にすることはねえ」
「……っ」
クリスの瞳が、わずかに揺らいだ。
「うん……。私もあなたのことが好き」
また、部屋の中が静かになる。けれど、今回は前とは違って、どこか温かな空気が流れた。
「ねえ、あなたの話を聞いてもいい? いつも私から、話してばかりだから」
「……って言っても、あんま言えることもねえけど」
見つめあったまま、2人は素の自分に戻って会話する。
「俺はサッカー部だったんだ。あんまり強くなかったけど、練習はわりと楽しかった」
「へえ……。いいなあ。私、運動部に入ったことないから」
「興味がねえならそれでいいだろ。マネージャーもいたけどさ、あいつはキャプテンの彼女だったから」
「……その子、可愛かった?」
「普通じゃね? 部内だとキャプテンがけん制してたから、俺らは近づけなかったし」
「そうなんだ。……私は社会人だったから、きっと元の世界では、かなり年齢が離れてたんだね」
「ま、そもそもゲームの対象年齢が高いもんな。俺の家でも、プレイしてたのはアネキだし」
「ああ、そっか……。そう考えると、今はあんまり年の差がないよね」
「どっちも転生したからな。俺は助かってるからいいけど」
「それは私のほうもだよ。君がいなかったら、きっともっと悩んでた」
なんでもない話を、眠くなるまで続ける。それがとても楽しくて。2人は夜がふけるまで、ずっとしゃべり続けていた。




