第97話:目覚め
船が港に近づく。
「パーティーも終わりかな。黙って抜けだしてきてしまったから、挨拶だけはしておこう」
クリスはそう言って、ジュリアと共に上の甲板に戻る。そこに集まっていた貴族たちは、2人の姿を見つけて近寄ってきた。その中には、キャサリンの父親も混ざっている。
「何かありましたかな?」
彼は小声で問いかけてくる。クリスは笑って、首を振った。
「いいえ、何も」
話はそこで終わった。彼……アボット伯爵はすぐに2人から離れて、下の船室に向かっていく。その姿を見送りながら、ジュリアは声をおさえて言った。
「キャサリンのところに行くのでしょうか」
「多分、そうだろうね。この船は彼の持ち物だ。使用人の誰かから、僕たちが彼女ともめていたことを聞いたんだろう」
「それで確認をしに来たと?」
「うん。自分の娘が悪いことをしていたら、カバーしなければならないと思ったんだろうね」
2人は顔をつきあわせて、小さな声で話す。その瞬間に、船が港に横づけされた。
「これから、大変ですね」
下の線室から、ポウムとパットが上がってくる。2人はしっかりと、手をつないでいた。
「うん、そうだね」
クリスは目を伏せて、ジュリアと共に陸に上がる。もう、船には乗っていないのに、足元が揺れるような感覚は残っていた。
「ねえ、クリス様。次のイベントまで、王宮に泊まってもよろしいかしら」
「……メルヴィンに怪しまれることになるよ」
「覚悟の上です。それに、兄は……」
きっともう、クリスに攻略されている。そう言いかけて、彼女は慌てて口を閉じた。彼は不安そうにする。
「お兄さんが、どうかした? まさか、僕たちのことを怪しんでいるとか……」
「いいえ、まったく。そんな様子はありませんわ」
すぐに答えて、彼女は微笑む。それだけで彼には伝わった。これ以上のことは聞くなという、無言の主張が。
(……どうしてだろう)
一緒に馬車に乗りながら、クリスは1人で考える。
(前世の記憶を思いだしてから、ジュリアはいつも前向きだ。強くて、カッコよくて。まるで……)
まるで、大好きだったクリスのような。
(そんなこと、ありえない。王子様として転生したのは、私だし……。彼女はゲームに詳しくないから)
横ならびで席につく。使用人が馬にムチ打つ。動きだした馬車の中で、クリスはそっと、ジュリアの肩に頭を乗せた。
(……少し、休もう。きっと色々あったから、疲れているだけだ)
自分に言い聞かせながら、彼は目を閉じる。ジュリアは彼が寄りかかりやすいように、そっと体勢を変えてやった。




