第96話:イベントは続く
「……あの、そろそろ会場に戻られては?」
しばらくしてからパットが切りだす。彼は背を丸めて、申し訳なさそうにしていた。
「あら、いいわよ。私たちのことは気にしないで」
ジュリアはサラリと言葉を返して、机の上に紙を出した。クリスはペンを取って、紙の上で走らせる。
「そうそう。僕らには、他にやるべきことがあるから」
彼は手を動かしながら言った。紙の上に、季節ごとに起きる固定イベントの内容が書きつけられていく。
「やるべきこと、ですか?」
何も知らないポウムが、首をかしげながら口を開いた。クリスは2枚目の紙にペンを走らせつつ答える。
「ああ。僕らはパーティーより、こちらに時間を使いたいんだ」
「……そう、ですか……」
ポウムはジッと、彼の手元を見つめていた。
「……あの、私にも何か、手伝えることはありますか?」
クリスが手を止める。ジュリアは彼女のほうに目を向けた。
「もしもあるなら、伝えるわ」
そう言われて、ポウムは少しシュンとした。パットは不満げな顔をする。ジュリアはさらに話を続けた。
「……大丈夫よ。手伝ってほしいときは、キチンと言うわ」
その間にも、クリスが手を止めることはなかった。彼は5枚目の紙を文字で埋めて、ひと息つく。
「そうだね。ただ、これは君たちには見せられない」
「それって……?」
ポウムが聞くが、クリスは何も答えなかった。彼はジュリアに紙を渡して、背のびをする。
「これは、僕と彼女の秘密だから」
無言で紙を読む少女を見ながら、彼は告げた。船がUターンして、港に戻っていく。
「2人だけの秘密……」
ポウムは少し、うらやましそうな顔でつぶやく。パットはさりげなく、その手を握った。
「今度、町の外に行ってみようよ。綺麗な花畑があるんだ」
花畑という単語を耳にして、ジュリアが少し動揺する。手元の紙にも、同じ言葉があった。
(……これだ。パットのルートに入ったときに起きる、必須イベント……)
その横には、当然のように死亡フラグが書かれている。たった1言。
『選択肢を間違えていれば、刺客に襲われる可能性がある』
それだけだ。だけどたちが悪いのは、これが2人きりのお出かけだということ。
(つまり、アレか? 気づかれないように、守らねえといけねえのか)
目線を向ければ、クリスは黙ってうなずいた。それだけで、ジュリアには彼の気持ちが伝わる。
(……わあったよ。これはデートイベントだろ?)
彼女は諦めて、次の計画を立てることにした。2人には言わずに、陰から見守る。そして無事に帰らせようと。




