第95話:嫌がらせ(後編)
「……すべておっしゃるとおりです」
パットは震える声で言った。
「僕はただ、怖かった。ジュリア様のことを考えて、断ろうとしたわけではありません」
「かまわないわ」
ジュリアは真顔で言った。
「そもそもやり方が悪いのよ。お金で裏切らせるというのは、そういうことではないのだから」
「ああ、そうだね。怖がらせてしまったのは明らかな失敗だ」
クリスが冷ややかな声で追い打ちをかける。彼はパットの肩に手を置いたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「だけど、彼女も2度としないだろうから……。この話はここで終わりにしよう」
「……はい」
パットは軽くうなずいて、彼を見上げた。その目は前より輝いている。
「今さらですが、助けてくださりありがとうございます」
「当たり前のことだからね。……君たち使用人は、いなくなっても代わりがきくと思っている者も多い。だけど、僕にとっての君はそうじゃないんだ」
ジュリアはそっとため息をついた。彼はまた、無自覚に人をたらしこんでいる。
(……仕方ねえな)
1歩、前に出る。彼女はクリスのほうを見て言った。
「……では、これで終わりで良いですね?」
キャサリンはうつむいたまま、動いていない。けれど誰も、もう彼女のことは気にしていない。
「部屋を移しましょう。……ここは、彼女に使わせてあげなくては」
ジュリアの言葉がトドメだった。話に加われなかったポウムが、不安そうな顔でのぞき見てくる。
「……では、移動しますか?」
「そうね。隣の部屋に行きましょう」
キャサリンを残して、4人はすぐに部屋を移る。パットはクリスから、離れようとしなかった。そんな彼に、ポウムは笑顔で話しかける。
「ほら、言ったでしょ。クリス様はお優しいかただから、怖がらなくていいって」
「……うん、そうだね。君の言うとおりだった」
パットは素直に返している。そんな2人は、ジュリアの目から見てもお似合いだった。
「……仲よしですね」
「うん」
「今回のこと、未然に防げて良かったと思います」
「……そうだね。本来は、ポウムのイベントだったけど」
クリスが小さな声でつぶやく。ジュリアは目を細めて続けた。
「1度、すべてのイベントを紙に書きだしておきましょう。今回はたまたま間に合いましたが、このゲームは死亡フラグが多いので」
「そうだね。僕もポウムを見張っていればいいと思って、少し油断していたよ。パットがなかなか来ないことに気づかなければ、危なかった」
2人は真剣に、顔をつき合わせて話す。船は変わらず、進み続けていた。




