第94話:嫌がらせ(中編)
しばらくして、パットの震えが収まった後に、5人はその場を離れた。先頭はクリスで、パットは彼にすがって歩く。その後ろを、キャサリンはうつむきながらついていった。
ジュリアはポウムと最後尾にいて、キャサリンの逃げ道をふさぐ形で進んだ。奥にある階段を下り、彼らは客用の船室の中でも最も大きな部屋に入る。
そこで2つしかないイスのうちの1つに、クリスはパットを座らせた。キャサリンはもの言いたげな顔をしていたが、クリスには何も言えず、忌々しそうに目じりをとがらせる。その上彼女は、空いたイスをチラチラと見ていた。
「座りたければ、お好きにどうぞ」
見かねたジュリアが声をかける。キャサリンは唇をキュッと引きしめて、その椅子にゆっくりと腰を下ろした。
「……さて、パット。何があったのか、話せるかい?」
クリスはもはや、彼女のことなど見ていない。彼は椅子に座らせたパットの前で膝をつき、彼と目線を合わせて聞いた。パットはクリスに、不安げなまなざしを向ける。クリスはそれを見て目を細めた。
「言いたくないなら言わなくていい。……僕から聞こう。金をやると言われたか?」
パットがうなずく。クリスはさらに質問を続けた。
「それを受け取るかわりに、キャサリンのために働けと言われた?」
コクリ。
「君はそれを断ろうとした」
……コクリ。今度の回答には間があった。
「だが、キャサリンはそれを許さなかった。そうだね?」
「……違います」
話の途中で、キャサリンが口を挟んでくる。彼女は下を向いたまま続けた。
「私は、お金を出しただけですわ。その子は、はいともいいえとも言いませんでした」
「それはそうだろう。僕たちは貴族で、彼は使用人だ」
彼女のほうを見ずに、クリスはスッパリと切り捨てる。
「確かに、金で主人を裏切る使用人はいるだろう。だが、そういった人間は初めから、金を要求してくるものだ。少なくとも、パットはそうではなかった。……君はどうせ、彼の反応も見ていなかったんだろう? 逃げようとしていた彼に無理やりせまって、結果、彼は海に落ちそうになった。それは許されないことだ」
淡々とした声で、彼が話す。パットは目を丸くした。
「……どうして、そこまで……?」
彼が掠れた声をだす。クリスは真顔で即答した。
「海に落ちそうになっている君を助けたのは僕だ。何が起きたか、見ていなかったとしても、あの状況から察することはあるだろう」
パットは言葉につまって、目じりに涙を浮かべる。見つめあう2人を見ながら、ジュリアは思った。
(それに多分、これは元からあったイベントなんだろうしな)




