第91話:船上の宴(中編)
「あら、ご自分の立場を言いわけにして、努力していないのはそちらでしょう?」
優雅な微笑みを浮かべながら、ジュリアが返す。キャサリンは彼女をにらみつけた。
「調子に乗って……! 今日だって、あなたが2人も召使いを連れてくるから、王宮の子が来られなかったじゃない」
(何の話?)
ポウムはカゴを持ったまま首をかしげた。ジュリアも不思議そうにする。
「王宮の子?」
「知らないの? 船に乗れる人数には限りがあるから、本来は1人しか連れてきちゃダメなのよ」
キャサリンは信じられないものを見るような目を向けてきた。クリスが苦笑を浮かべて口を挟む。
「……それはそうだけど、2人を選んだのは僕だからね。あまり彼女を責めないでほしいな」
予想外の方向から攻撃されて、キャサリンが固まる。ジュリアはもう、興味を失ったようだった。クリスに寄り添って立ち、彼を見つめる。
「そもそも、王宮の子というのは誰のことなのでしょうか」
「さあ……それは僕にも分からないな。でも、アボット家で働いていた使用人はいるから、もしかしたらその子のことかもね」
王子の言葉に、キャサリンの肩がビクリと動く。ジュリアは冷めた目をしていた。
「もしそうだとして、どうしてその人を連れてこないといけないのですか?」
「その方が彼女にとって得になるからじゃないかな。アボット家だけじゃないけど、ベテランの使用人を王宮づとめにさせるのは、情報を引きだすためだからね」
「……それなのに、私が悪いと言ったのですね」
ジュリアが冷ややかな声をだす。クリスはスッと真顔になった。
「うん。だから気にしなくていいんだよ」
キャサリンは黙って体を震わせる。ポウムはさりげなく後ろに下がった。
「……立て込んでるの? 後にしようか?」
後からサンドイッチの入ったカゴを持ってきたパットが、申し訳なさそうに口を開く。クリスはカゴの中に手を伸ばして、サンドイッチを2切れ取った。
「よくあることだから大丈夫だよ」
彼はサンドイッチの片方をジュリアに渡して、もう片方を食べ始めた。船がゆっくりと外洋に出ていく。
「……よくあるんですか」
「そうみたい。……貴族の人って大変だね」
パットはポウムと顔を見合わせて、小さな声で話した。クリスは空になったグラスを片手に、その場から離れる。彼の手は、ジュリアの腰にさりげなく添えられていた。
「……何よ、アレ。わざわざ見せつけてくるなんて……」
キャサリンの口から、怒りの声がこぼれ出る。彼女はギリリと歯噛みした。




