第9話:話し合い(後編)
「……イヤだ」
ジュリアは思わず、目の前にいるクリスティアンの手を取って言った。
「な、なあ。大丈夫だよな? 今はお前と婚約してるもんな?」
「うん。ジェイミー公爵は、王家との関係を自分から絶つような人じゃないから」
「……良かったぁ〜」
ズルズルと、ジュリアがその場でしゃがみこむ。クリスはそんな彼女と視線を合わせるためにヒザを折って、青い瞳を陰らせながら彼女を見つめた。顔を上げて、その寂しげな目を見てしまったジュリアの心が、大きく跳ねる。
「……ど、どうしたんだよ」
「……本当に転生したんだと思って、ちょっと。ワガママで金使いも荒いけど、ジュリアは僕といるとき、いつも楽しそうだった。そんなあの子は、もういないんだなって……」
彼、もとい彼女は、本気で悲しんでいた。どんなに問題のあるキャラでも、日奈はアプグラのキャラを全員大切にしていたから。
「……お、俺、じゃなくて! 私が代わりになりますから、落ちこまないで……!」
慌てたのはジュリア(と、その中にいる孝太)のほうだった。彼女は懸命に手を伸ばして、泣きそうなクリスの顔に触れる。
「大丈夫ですわ。私には、ジュリア・グラファとしての記憶もあります。ちょっと、その……。今の私とは、好きな物が違いますが。王子様への思いは、変わっていません」
そう言いながら、ジュリアは自室を見回した。派手でゴテゴテした装飾の多い物は、孝太としては居心地が悪い。ただ、それでも。
「あなたが贈ってくださったアクセサリーやドレスは、これからも大切にしますから」
そう続けて、ジュリアは快活な笑みを浮かべた。その姿は、日奈が見慣れた彼女とは違っていたけれど。
「……ありがとう」
クリスは思わず、ジュリアが伸ばした手を掴んで自分の方に引き寄せた。2人の顔が近づいて、ジュリアが何度かまばたきする。
「ク、クリス様……?」
「大好きだよ、僕のジュリア。一生、僕と一緒にいてね」
彼は本気の目をしていた。ジュリアの中にいる孝太は、その青い目を見て戦慄する。
(こいつほんとに大丈夫か?!)
中身が違うとしても、同じような趣味を持っていたら結局危険なのには変わりない。そう思って動けないジュリアを見ながら、クリスは上機嫌だった。
(良かったぁ……。ちょっと言葉がキツかったから、気になったけど。きっと元々は、優しい子だったんだ。いや、もしかしたら年上かもだけど。……でも今は私の方が年上なんだし、思いっきり可愛がっていいよね!)
日奈は引きこもりがちで、友人も少なかった。だから、転生先の大好きな世界で、友達が増えたらいいと。彼女はひそかに思っていた。




