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悪役令嬢(男)と攻略対象(女)、理不尽な乙女ゲームの世界を変える  作者: 文字書きA


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85/118

第85話:準備期間(中編)

「……忘れていたんだ」


しばらくしてから、クリスは言った。


「原作では、テキストで書かれただけだった。だから余計(よけい)に、衝撃を受けて……」


「そういうことか。……たとえ仲が良くなくても、突然親が倒(たお)れたら心配するよな」


ジュリアは納得したようにうなずいた。クリスがイスの背もたれに体重を預ける。


「……シリルはじきに、ポウムとパットを連れてくるだろう。パーティーまでは、王宮に泊まってくれ」


「言われなくともそうします」


ジュリアは立ち上がりながら返した。窓に近づいて、彼女は外を見る。大通りは相変わらず、人が大勢行き交(か)っていた。その中に見覚えのある姿を見つけて、彼女はつぶやく。


「あの子たちが戻ってきたわ」


その目線の先。シリルは2人の使用人を連れて、王宮に入るところだった。


「お嬢様のお世話ですって」


「……よくそんなに喜べるね」


「あら、パットは嬉しくないの?」


「嬉しいもんか。あの人は悪魔だよ」


2人の会話が、聞きたくなくても耳に入る。シリルは目を細めた。


(グラファ家の令嬢はワガママで、1度怒ると手がつけられなくなるんだったな)


だが、彼が見た彼女は違っている。中身が丸ごと別人に変わったような姿に戸惑(とまど)っていたのは、彼も同じだ。


「いらっしゃい、シリル。ポウムとパットも、よく来てくれたわ」


客室のドアを自分の手で開けて、ジュリアは3人を出迎えた。パットが目を見開いて固まる。


「……な、なんで……」


彼の声は震えていた。シリルがため息をつく。


(無理もないな。使用人のために、自分から動く貴族はいない)


彼女は彼らを、同じ人間として扱(あつか)っている。その証拠に、ポウムは当たり前のような顔で客室に入っていった。


「……行くぞ」


シリルは無理やり、パットの体を押して入る。全員が部屋の中にいるのを確認して、ジュリアは扉を閉めた。


「楽になさい。今は特に用事がないから」


「はーい。じゃあ、お昼ごはんをもらってこようかな。実は食べそこねちゃって……」


「使用人の食事の時間は過ぎているから、私のぶんだと言いなさい」


その言葉に、パットはまた変な顔をする。クリスは苦笑を浮かべていた。


「……驚かせてしまったね」


「い、いえ、そんな……!!」


パットは慌てて首を振る。そして目を伏せて続けた。


「……その、ジュリア様はこれを覚えていらっしゃいますか」


おずおずと、彼が右手を差しだす。その指にはヤケドの痕(あと)があった。傷を見た瞬間に、彼女は過去を思いだす。


「……ごめんなさい」

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