第80話:明日
「おはようございます」
次の日の朝。シリルはスッキリとした顔で起きてきた。
「今日はどうします? 姉さんは公爵家に帰られますか?」
「ええ、そうね……。それと、シリル。言葉は元に戻していいわよ。私たちはそんなことで、あなたを嫌ったりしないから」
「……では、お言葉に甘えて。船上パーティーには気をつけろよ。行方不明になる奴も多い」
サラリと言われてジュリアが固まる。シリルはシレッとした顔で続けた。
「もっとも、兄さんたちにはそんな心配はいらないだろうが……」
「……僕たちはね」
クリスがジュリアのほうを見る。彼女にはそれだけで伝わった。
(ポウムが死ぬ可能性はあるのか。なら、無理に連れていかなくても……)
そう思ったが、ジュリアは口には出さなかった。クリスはゲームのシナリオどおりに進めたがっている。
(下手に止めたら、もっと悪いことになる可能性もあるしな)
イベントが発生しているのは確かだ。ただ、その相手は主人公ではない。その時点で、もうおかしなことになっている。
(こいつが警戒するのも分かる。展開が明らかに変わったら、対応しきれねえからな)
ポウムを船に乗せないわけにはいかない。だからあと、できることがあるとすれば、それは彼女から目を離さないようにすることだけだ。
(クリスは全部分かってる。だけど1人じゃ限界があるから、俺に話を聞かせたんだ)
室内に沈黙が落ちる。シリルは不思議そうな顔をした。
「……どうしたんだ。パーティーは、これが初めてってわけじゃねえだろ」
「ちょっと気になることがあってね」
薄く笑って、クリスが答える。
「メルヴィンのことだ。どうも、彼は僕に執着しているように見える」
「ああ……。まあ、そうなんだろうな。オレもヤツのことは気にしておく。兄さんに手を出すようなら許さねえ」
シリルの声が低くなる。クリスは笑顔で、彼を見た。
「……ありがとう。いまのところは大丈夫だよ」
「それならいいが、油断はするな。兄さんも、姉さんも。……グラファ公爵家には闇がある」
最後の言葉に、ジュリアはふと、アプグラのサブタイトルを思いだした。
『グラファ公爵家の光と影』
(俺は知りもしなかったが、地下牢なんてもんまであるそうだし……。ひょっとしたら、1番危険なのは俺かもな)
それでもと、彼女は思う。
(家に帰らなきゃ、それはそれで怪しまれる。父と兄に目をつけられるわけにはいかねえ)
ジュリアはとうに、戦うことを決めていた。だからクリスの心配そうな視線にも、気づかないふりをしてあえて流す。
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