第79話:深夜
「おいで、シリル」
「……はい」
震えが止まったシリルの体を抱いて、クリスは広いベッドに向かう。2人は並んで横たわった。
「兄さん……。あなたはなぜ、革命を起こしたいのです? 何もせずとも、この国はあなたの物になるのに」
「それはもちろん、君たちを救うためだよ」
シリルの問いにクリスが答える。優しい笑みを浮かべたままで。
「それに良いこともある。この国を僕たちが支配すれば、君のことを弟のように扱っても問題はないだろう? 正式な弟にはなれないかもしれないが、君の望みは少し叶う」
「……はい」
彼の言葉に、ウットリとするシリルを見下ろして、ジュリアは口を開いた。
「私も入れてくださいな」
彼女がベッドにもぐりこむ。客室のベッドは、3人が横並びになってもまだ余裕があった。
「……あ。姉、さん……」
シリルが幸せそうに笑って、目を閉じる。しばらくして、彼の寝息が聞こえてきた。
「まったくもう、あなたという人は……」
「あまり責めないでくれ。こうするしかなかったんだ」
彼を起こさないように、ジュリアとクリスは小さな声で会話をする。
「わかっています。……でも本当に、これでシリルは味方になってくれたのですか?」
「そのはずだよ。後は僕たちが、彼を1人にしなければいい。だから君も手伝って」
「……なら、公爵家で彼を雇いましょう」
「いや、そうじゃない。メルヴィンに目をつけられる危険性があるからね。彼には今までどおり、王宮と下町を往復してもらう。ただ、しばらくは、シリルはここに留まるだろうが……」
「もしかして、楽しんでます?」
ジュリアは冷たい声をだした。シリルが気まずそうに、目線をそらす。
「まあ、少しは」
彼は眠るシリルを見つめた。その目には確かな愛がある。
「本当は、これは主人公のイベントなんだ。僕も大好きで、回想で何度も見返したイベント。シリルのルートじゃないと、出てこない」
クリスの声が上ずっている。ジュリアは思わず、口走った。
「……やめろよ」
分かっている。彼はこのゲームが好きで、キャラクターをみんな愛しているのだと。だから、彼女は。
「お前の1番は、俺だろ」
振り向かせたかった。繋ぎとめておきたかった。そんな思いが、ジュリアの口を勝手に動かす。クリスは目を丸くして、彼女を見ていた。数分の沈黙。その後に、彼は泣き笑いのような顔をする。
「……君は本当に、素敵な人だね。僕にはもったいないくらいだ」
「今さら気づいたのか?」
「まさか。ずっと前から、知ってたよ」
2人の視線が絡みあう。クリスの目には、うっすらと涙がにじんでいた。
「……もう休め。俺が見ていてやるから」
ジュリアは彼を楽にしてやりたくて、そう言った。クリスは無言でうなずいて目を閉じる。その口から寝息がもれるまで、彼女はずっと見守り続けた。




