第75話:揉め事
「そこまでだ」
シリルが冷たい声をだす。
「オレたちは貴族に期待してねえ。……確かに、最初に革命軍を支援してくれたのはフィリクスだ。だが、それはクリスにもできることだと、オレは思っている」
「な――」
フィリクスがナイフを落とす。金属がぶつかる、硬い音が響いた。
「……それは、本気で言ってるの?」
クリスも目を丸くする。シリルは真剣な顔で続けた。
「ああ。元々、この男のことは信じられなかった。アンタのほうが信頼できる」
「そんなこと……。いつから、考えていたんだ」
「初めて会ったときからだ。アンタがオレを見る目は、他の貴族とは違っていた。オレだけかとも思ったが、アンタは店の奴らにも、同じ目線を向けている。そんなヤツは、他にいない」
シリルの声は静かだが、そこには隠しきれない熱があった。フィリクスがイスを蹴って立ち上がる。
「貴様……!」
その目は怒りに燃えていた。シリルも同時に席を立つ。一触即発の状況に、ジュリアは息を飲む。そして。
「……今は食事中だよ」
厳しい声で、クリスは口を挟んだ。男たちの視線が、彼に向く。静まり返った室内で、彼は淡々と話した。
「シリルは考え違いをしている。僕だけでは、国を変えることはできないんだ。国王の力は確かに強大だが、それに頼って他の貴族たちを無視するわけにはいかない」
「……どのみち、この男の手を借りる必要はあるのか」
シリルがひび割れた声をだす。フィリクスは口もとを引きしめて、黙っていた。彼の代わりに、答えたのはクリスだ。
「そうなるね。ブランソン侯爵家だけでは不安だから、できればメルヴィンにも協力してほしい。……そのために、僕はここにジュリアを連れてきているんだ」
「そういうことか」
シリルはクリスのことを、本気で信じているのだろう。彼の話は全て飲みこみ、受け入れて再び席についた。動かなかったのは、フィリクスだけだ。
「……グラファ公爵家と、手を組むだと?」
「先の話だよ。まだ、メルヴィンには伝えていない。君たちの考えも、聞かなければと思ったからね」
「オレはお前に任せる」
料理が乗った皿を見ながら、シリルが口を開いた。フィリクスは渋い顔をして、ドサリとイスに腰を下ろす。
「……私は慎重に考えて、動くかどうかを決めたいですね」
「安心してくれ。僕も同じ気持ちだよ」
クリスは笑ってうなずいた。部屋の中の空気が緩んで、ジュリアは胸をなでおろす。
(……どうなることかと思ったが、何とかなったな。それにしても、こんなに気が抜けねえとは……)




