第71話:初夏(中編)
(こんなことで、どうしてそこまで……)
平民の服に身を包み、顔を隠しながら。フィリクスは横目でシリルを見た。クリスと共にいるときの彼は、少し雰囲気が柔らかい。
(奴は貴族を恨んでいた。それを懐柔し、こうして意のままに動かすとは)
クリスティアンは幼いころから優秀で、王にふさわしい器とされていた。親友であるメルヴィンと、いつか国を背負って立つと。
(俺はそれが気に入らなかった。生まれに恵まれただけの、取るに足りない男だろうと思っていたが)
実際に会って、その考えは吹き飛んだ。彼はあっさりとフィリクスの計画を見抜き、協力しようと言ってきたから。
(どんなつもりか知らないが、利用できると思っていた。だが、シリルを取りこまれては勝ち目がない)
フィリクスは奥歯を噛みしめながら、クリスの後についていく。革命軍の先頭に立つのはシリルだ。同じ平民でなければ、掲げる理想に意味がなくなる。
(それでは革命は成功しない)
前を歩く、彼らを見る。ジュリアとシリル。どちらもクリスを守るように、側にひかえて笑っていた。
(慕われているな)
見れば分かる。それはフィリクスが目指している、理想の姿だ。望まれて人の上に立つ男。
(次の国王に、なるべくしてなる人物だ)
思い知らされる。自分では、敵わないかもしれないと。だが、それでも。
(俺は国王にはなれないが、公爵になることはできる。そうなれば、クリスも無視できないような力を持つことになる。もし、ヤツが約束を破るようなら……)
そのときは、力ずくでも言うことを聞かせる。そう決意して、フィリクスは前を見すえた。王宮の裏門から外に出て、4人は大通りを進む。
「……どうかした?」
その途中で。クリスは立ち止まり、振り返った。フィリクスは内心で舌打ちする。
(カンのいい奴だ)
シリルとジュリアが、フィリクスのほうに視線を向ける。警戒をこめたまなざしに、彼は目を伏せてため息をついた。
「……別に、何でもありませんよ」
すぐに気持ちを切り替える。まだ、気づかれるわけにはいかないと。
「行きましょう。革命軍の集まる店に、連れていってくださるのでしょう?」
「そうだけど、革命について話すことはないよ」
クリスは穏やかな声で告げた。フィリクスの考えを、読んでいるのかどうか。その態度からは分からない。
「構いません。私はただ、あなたと同じことがしたいだけです」
その目を見返して、フィリクスは冷ややかな声で言った。2人の視線がぶつかって、沈黙が落ちる。




