第7話:主人公との出会い(後編)
「可愛い子だね」
クリスティアンが、笑みを浮かべてポウムに近づく。ジュリアは慌てて声を上げた。
「……クリス様。その子は……!」
「……おや」
前世のことが話せなくて、言葉に詰まったジュリアを見て。クリスティアンは足を止める。
「メル。ちょっと彼女と、2人きりにしてくれる?」
「ああ、もちろん。君は持ち場に戻ってくれ」
ポウムに指示を出して、メルヴィンもその場から離れていく。2人の姿が見えなくなった後に、クリスティアンはジュリアの側に来て聞いた。
「ジュリア。今日はいったい、どうしたの」
「……あ、その」
ジュリアは目を伏せる。彼女の中にいる孝太は、目の前に選択肢が出てこないことを恨めしく思った。
「話せないなら、それでもいいけど。ただ、どうか覚えていてほしい。僕は君の味方だと」
それに対して、クリスティアンの中にいる日奈は落ち着いていた。前世のことを思いだしている期間は、彼女の方が長かったから。
「……咲馬電鉄の宮易線」
ポツリと呟かれた言葉に、ジュリアは目を丸くして顔をあげる。それは彼が乗っていた電車の名前で、転生のきっかけになった物だ。
「……まさか、おま……あなたは」
「転生者だよ。この言葉に反応したということは、君もそうなんだろう?」
ニコリと笑って、彼は続ける。
「僕は今、とても楽しい。好きだったゲームの中に入って、大好きなキャラクターになっているから。1番好きなのはポウムだけど」
「……なる、ほど」
まだ思考が追いつかない。それでもジュリアはかろうじて、言葉を発した。
「私は、ゲームをやったことがなくて。分からなくて……」
「知りたいなら教えてあげるけど」
ジュリアに寄り添って、彼は小さな声で言う。
「これ以上、ここで話すのはやめておこう。君の部屋に行ってもいいかな?」
「……はい」
ジュリアになった孝太としては、その提案を受けるしかない。そしてクリスの中の日奈は、彼女の答えに安堵した。
(よし。これでジュリアの協力がないと進められないイベントも、なんとかなりそうね)
日奈が目指しているのは、FDにしかないエンディングだ。ご都合主義のハピエンだとファンからも叩かれたルートだが、アプグラでキャラが全員幸せに暮らせるエンドはそれしかない。
(本来なら、相手はクリス固定だけど。そこは私が何とかするから、ポウムちゃんにはパットくんを選んでほしいな。あの子が1番優しいから)
主人公が1番の推しだというのは、ウソではない。乙女ゲームの中でも、特に主人公が苦労する作品は、主人公に同情したり共感したりするプレイヤーが多くなる。彼女もそうだったというだけのことだ。
1/恨めしい
「1恨みに思われる。にくらしい」
「2残念に思われる。情けない」
2/安堵
「気がかりなことが除かれ、安心すること」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




