第68話:ルート(後編)
「いや、好きなルートは全部だけど」
ニッコリ笑って、クリスが告げる。
「パットのルートで死ぬときは、だいたい他人に殺されるから。彼に殺害されることはないんだ」
「あ、そう……」
サラリととんでもないことを言われて、ジュリアは半目になった。
「ちなみになんで殺されるんだ?」
「細かいとこだと、花びんを割ったとか、君のドレスを汚したとか。聞いてはならない会話を聞いてしまったり、仕事がイヤで逃げだした先で、盗賊に襲われたなんてこともあったな」
「へー、そう……」
ジュリアは呆れ顔になる。
「なんのために、こんなゲームを作ったんだ?」
「あはは、みんなそう言ってたな。シリアスな設定がある乙女ゲームは珍しくないけど、アプグラは開発者が設定を凝りすぎて、変に現実的になっちゃったのが失敗だったんだって」
「そういうことか。その設定資料がここにあれば、助かるんだが……」
「ああ、FDについていたよ。ちょっと待ってて」
クリスはスッと席を立つ。机の前に立った彼は、小さなカギで引き出しを開けた。そしてその中から、紙の束を取りだしてくる。
「はい、これ。持ち出して誰かに読まれるとマズいから、ここで読んで」
そう言って差しだされた紙には、細かい字でビッシリと、ゲーム知識が書きこまれていた。ジュリアは渡された紙を見つめて、ため息をつく。
「……覚えきれる気がしねえな」
「だろうね。だから君が読むのは、ここだけでいいと思うよ」
話しながら、クリスは紙をめくる。そして彼は、ジュリアのことが書いてあるページを出した。
(こんなに細かく決められてたのか)
そこには以前も聞いたことがある、グラファ家の事情が書かれていた。
名門グラファ家の1人息子で、何不自由ない生活をしてきたせいで、ささいなことでは心が動かなくなってしまった父親。
政略結婚でグラファ家に嫁いできて、夫の狂愛により地下牢に閉じこめられた母親。
そして、2人の娘としてワガママ放題に育った娘。
(……ジュリアとしては、叱られた記憶がねえもんな)
前世では、母からよく怒鳴られた。あの頃は、それをうっとおしいと思っていたが。
(そうか。興味がないから、何をしてても怒らないのか……)
ジュリアの父親は、娘をただの駒としてしか見ていない。母親にいたっては、自分が子を産んだことも認識していないと書いてある。
「……これは本当のことなんですか?」
「そういう設定があるってだけだよ」
クリスは柔らかな声をだした。その目はとても優しげだ。
「君が覚えていないなら、信じなくてもいい。……本当は、これを見せるつもりはなかった。でも君が、戦うと言ってくれたから……。僕が知っていることは、明かそうと思ったんだ」




