第66話:ジュリアの悩み
そして、朝が来る。ジュリアは目を開けて、起き上がった。
「ポウムは……まだかしら。……今日は、どうしましょう」
祭りは終わった。クリスと会う理由も、今はない。それでも彼女は、彼と話したかった。
「おはようございます、ジュリア様」
小部屋のドアが開いて、そこからポウムが顔を出す。ジュリアはベッドから出て、鏡の前に座った。
「今日はどうしますか?」
彼女の髪をクシですきながら、ポウムが問いかける。ジュリアは鏡を見ながら返した。
「特に予定はないわ。あなたは?」
「私は何でも……。お掃除とか、お洗濯とか。仕事はたくさんありますから」
「……恋は?」
ここが乙女ゲームの世界だと知っている彼女は、少しだけ期待しながら聞いた。もしかして、もう誰かのルートに入っているのではないかと。だが、ポウムはキョトンとした顔をする。
「恋、ですか? いえ、別に私は……」
「そんなの、もったいないわ。あなたには私のように、素敵な人を見つけてほしいの」
優しい主人の顔をして、ジュリアはそっとクギを刺した。その後ろで、ポウムは朗らかな笑みを浮かべる。
「えへへ、そうですか? うーん……確かに王子様、とても素敵なかたですもんね」
「……まさか、あの人のことが好きなの?」
ジュリアが後ろに、目線を向ける。ポウムは目を丸くした。
「……え? あ、いえ、そんな……! 憧れているのは確かですけど、でも、王子様はお嬢様のことを大切にしていらっしゃるじゃないですか。だから私も、お2人はお似合いだと思っていますよ?」
「……そう」
ジュリアはゆっくりと息をはきだす。そして顔の向きを戻した。
「それならいいわ。……私は、不安なの。あの人はあなたのことも、気に入っているようだから」
ポウムはゲームの主人公で、ジュリアはそのライバルだ。プレイヤーだったクリスが、どちらをより愛しているのか。それはジュリアには分からなかった。目を伏せて、落ちこむ彼女にポウムが告げる。
「それは私が、お嬢様と年が近いからだと思いますよ。お友達として、お嬢様と仲良くしてほしいって……そう思われているのでは?」
「……お友達」
彼女の言葉を繰り返して、ジュリアはゆっくりと顔を上げた。ポウムはニコニコと笑って続ける。
「そうですよ。お嬢様が不安になられる必要はないんです」
「……ありがとう。あなたは本当に優しいのね」
鏡を通して、彼女の笑顔を目に入れながら。ジュリアはそっと、言葉を落とす。乙女ゲームの主人公。誰からも好かれる、優しいいい子。
(……やっぱりクリスに会わねえと。今日も王宮に行くしかねえな)
ポウムの目指すルートが分からないからこそ、ジュリアは悩みを消せなかった。




