第64話:グラファの思惑
やがて夜がふけ、パーティーも終わりに近づく。広間に集まっていた貴族たちが、クリスの元に近寄ってきた。
「今宵はとても良い夜でした。今後も末永く、親しいお付き合いができることを願っております」
「ええ、こちらこそ」
挨拶を交わし、軽く頭を下げて去っていく。そんな貴族たちを見送って、クリスはゆっくりと息をはいた。
「もうパーティーも終わりだね。2人はどうする?」
フィリクスはすでに会場にいない。メインキャラで残っているのは、ジュリアとメルヴィンだけだ。彼らはクリスの声を聞いて、同時に振り返る。
「それはもちろん、帰らせてもらうよ。……そうだな、ジュリア?」
「……ええ」
兄の言葉にうなずいて、彼女は瞳を揺らめかせる。
「そう何度も、王宮に泊まらせていただくわけにはいきませんから」
「そうか。じゃあ、気をつけて」
クリスは気にせず、手を振った。ジュリアは目を伏せて、兄と共に広間から出る。
「どうだった? パーティーは楽しかったかい」
「ええ、もちろん」
うなずいて、彼女は王宮の外に出る。門の前には、来るときにも乗った馬車が止まっていた。馬車に乗りこみながら、メルヴィンがつぶやく。
「お前は相変わらず、クリスのことが大好きだね」
「それはそうでしょう。クリス様は幼いころから、私の憧れですもの」
「……だけど、前に比べたら大人しくなった気がするんだ。大きくなったということなのかな」
「あら。自分では、変わったつもりはありませんけど」
ジュリアは兄の目を見つめて、微笑みながら言葉を返した。
「もしも大人になれているなら、それは良いことではありませんか? 私はいずれ、王妃になる女なのですから」
「……やっぱりお前は変わったよ」
メルヴィンが笑みを深めて言う。
「だが、それは良い変化でもある。今のお前になら、グラファ家の未来を託せるからね」
「グラファ家の未来、ですか?」
ジュリアは首をかしげて聞いた。彼女の兄は、底の見えない笑みを浮かべている。
「グラファ家は、王家との関係が深い。娘を王妃とするのも、これが初めてではないんだ。血が濃くなりすぎないように、ひかえてはいるがね。だが、その権力も決して安泰ではない」
そこで言葉を切って、彼は窓の外を見た。夜の街は静まりかえって、闇に包まれている。
「公爵家という地位は、狙われやすい。僕も何度、毒殺されかかったか分からないほどだ。お前は跡取りではないが、それでも気をつけるように」
それだけ言って、メルヴィンは黙った。石だたみの上を車輪が走る音だけが、室内に響く。




